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第148話 不当な対応への芽依の答え


 カテリーデンで、メイド服の売り子はすぐさま噂が回った。

 しかも相手はあの移民狩り首謀者のフェンネルと、白の奴隷だ。

 すでに犯罪奴隷となっているのは、わざと首筋を隠すデザインのメイド服なのだが動く度に見える黒い奴隷紋がその証拠だ。

 奴隷の印となる銀色の飾り細工の髪飾りを付けているフェンネルは余りの美しさに見に来る客達の心を射止めては、睨み付ける芽依とメディトークという壁に阻まれて守られている。


 たとえ犯罪奴隷でも、その美しさは白の奴隷以上だし、穏やかで主人の芽依や同等のメディトーク、そして白の奴隷とも仲良くしている所を見て人柄も良しと喉を鳴らしている。


「いらっしゃいませ」


「まあまあ!メイちゃん久しぶりじゃない!元気だった!?」


「あ!おばさーん!元気ですよ、1ヶ月ぶりです!」


「よかった、ほら、ね?あれから顔を出さないから心配してたのよ」


 チラッとフェンネルを見た常連のおば様。

 いつも盛大に周りを煽って販売に手助けしてくれる人だが、今は心配そうにフェンネルチラ見する。

 あの場所にいなかったおば様は、噂だけしか聞いていない。

 あの優しいフェンネルが?と半信半疑であったのだ。

 そういう人はかなり多いのだが、フェンネルがカテリーデンに来なくなって1ヶ月。

 信憑性は高いし何よりメディトークが事実だと言っていたからこそ、おば様含む当日居なかった客や売り子は信じられない気持ちを抱えつつ芽依やフェンネルがまた現れるのを待っていたのだ。


「心配させてごめんなさい。フェンネルさんを優先してたからカテリーデンを後回しにしちゃって」


「い…………いやいや!いいんだよ!そりゃそうだ!……その、大丈夫かい?体調とか、色々……」


「大丈夫、心配かけました。ね?フェンネルさん」


「うん、大丈夫」


 にっこり笑うフェンネルの色は以前とあまり変わらない真っ白だが、やはり髪に広がる大輪の花や外見の美しさが数段跳ね上がったフェンネルに周りの売り子や客は目を見開く。


「ほ…………本当に、フェンネル様なんだね」


「うん、迷惑を掛けてごめんね」


「心配していただけだから、大丈夫さ!あら!雪の下野菜!良かったよ、もう売らないのかと思ってたんだ」


「今後はメイちゃんの野菜だから、芽依ちゃんから買ってね」


 フェンネルは優しく野菜を撫でながら言うと、芽依はニコニコ顔を無表情に変えてフェンネルを見上げた。

 それに周りはハラハラする。

 今や最高位の妖精の主人なのだ、今の会話に芽依が気に入らない事があったのかと固唾を飲むと、腰に両手を当てた芽依がフェンネルを叱る。


「フェン、これは今まで通り貴方が育てた貴方の野菜。そして売上はお給料代わりだから全額フェンのだよ。変に私のだと主張しなくていいの。フェンが丹精込めて育てた野菜なんだから、大事に販売しなさい」


「………………はい、メイちゃん」


 トロン……と目を細めて微笑むフェンネルの神様的美しさが突き抜けているのに周りもクラリと来つつ昔からフェンネルの常連客や周りの売り子、客たちは安心したように笑った。


「…………え?なに?」


 生暖かい眼差しに芽依が戸惑うと、フェンネルの知り合いだろうか、女性が近付いてきて芽依を見た。


「…………フェンネル様を不当に扱わず感謝します」


「え?」


「フェンネル様が位落ちどころか……奴隷などと思っておりましたがお元気そうで良かったです」


 そう笑った女性は、あの日フェンネルのブースに居た金髪の売り子で芽依達が来るの待ちわびていたそうだ。

 ひと目フェンネルの無事を確かめたかったらしい。


 安心したと帰って行った女性にフェンネルはフリフリと手を振ってから芽依を見た。


「びっくりさせてごめんね、雪の眷属の中位の子で売り子を頼んでた子なんだ」


「ううん、気にしてくれてた人がいるのは幸せな事だよ」


「…………そうだね」








 フェンネルを見に来る人はかなり居て、中には野次馬もいたのだが、メディトークの鋭い視線に退散する人やフェンネルやハストゥーレの綺麗で可愛いメイドさんに焦って離れていく人も多数いた。


「いらっしゃいませ」


 強面のお客様に芽依は笑顔を向ける。

 ガタイが良く刈り上げた黒髪、顔に傷があるこの人はまさかの光の精霊、上位の方らしい。

 芽依の常連の1人で野菜好きらしく毎回多く買って行ってくれるのだが、今日は睨みつけるように芽依とフェンネルを見ていた。


「……………………えーっと」


「……………………ふん」


 自分よりも位の高いフェンネルを値踏みする。

 こうあからさまなのは初めてである。

 ジロジロとフェンネルを見て鼻で笑うその男性のような反応は今までもあったし、不躾にフェンネルを買いたいと低額提示してきた人もいた。


 勿論そこは芽依とメディトークによって丁重にお断りをしている。

 にっこり笑顔で出禁にしながら。

 それを周りで見ていた人達は芽依達の販売物が買えなくなると震え、たとえ冗談でも口にしなくなった頃に来た客なのだが。


 強面でも礼儀正しく頭を下げるような人が、まさかの反応に芽依も少し驚いた。

 だが、この礼儀正しいのもうなずける。

 領主の傍付きの騎士の1人なのだ。

 あの日、フェンネルがカテリーデンで暴れた時もあの場にいた人である。

 あの様子を見てはいたし、事情も知っているのだが元来潔癖なこの男性は、犯罪を忌み嫌い犯罪奴隷に当たりが強い。

 だが、これもこの人の特性。しかたのないことだ。


「態度が悪く申し訳ない」


「いえ、いらっしゃいませ」


 人ごみを掻き分けてもう1人現れた茶髪の騎士。

 男性は軽くアタマを下げる様子にフェンネルは芽依にコソッと聞いた。


「………騎士?」


「うん、茶髪の人は副隊長さんだよ」


「……………………へぇ」


 そう、芽依がこの世界に来た時に運んでくれた騎士だ。

 足が見えて顔を逸らしていたあの人。

 あれからあまり会う機会が無かったが、年末年始位からチョコチョコ顔を合わせている。


「今日は初めてのカテリーデンなのでアリステア様より様子を見るようにとの指示です…………あと、買い物も」


「なるほど、わかりました」


「どうですか?なにか変わりはありますか?」


「フェンネルさんへの困惑や不躾な言動以外は変わりないです。今まで通りのお客さんも多いですし」


「………………隠さずありがとうございます」


 ちょっとお怒りの芽依に副隊長のジュネルは苦笑する。

 それは調査の一貫だったようで何かを書き込んでいるようだ。


「……………………後は何か困り事はありますか?」


「特に…………ああ、前にもましてハス君へのボディタッチが増えたことやフェンネルさんへの邪な言動が多いからそれはぶっ飛ばしても良いですか?」


「だめです」


「………………………………だめか……」


「他人の奴隷であっても普通、扱いは悪いです。白はあまり居ない極上品ですし、犯罪奴隷には価値すらありません。ですので………………いえ、一般論です。ですのでその扱いが不当なものは当たり前となっています」


 あからさまに芽依の機嫌が下がった為、ジュネルは慌てて言い直していた。

 そんなジュネルを座った目で観てから、芽依はハストゥーレを見る。


「ハス君お願い。張り紙もう1個作って欲しい」 


「はい、ご主人様」


「[うちの奴隷2人に不当な扱いや値踏み悪態を付ける人は出禁となります。]って書いて」


「はい、ご主人様ただいま」


 ほんわりと笑って準備するハストゥーレはフェンネルでは無いのに周りにお花が咲きそうである。


「……………………メイちゃんいいの?お客さん減っちゃうよ?」


『やっかんでくるヤツらにうちの食いもん買う資格はねぇだろ、別に困ることはねぇしな』


「そうだよ、そんな人達に売るものはないよ。うちの人達馬鹿にするなら元より来なくてよろしい。知らない他人よりフェンや、ハス君の方が私は大事」


 フンッと顔を逸らす芽依にフェンネルは困ったような嬉しいような複雑な笑みを浮かべた。


「………………困ったなぁ、奴隷を優先するご主人様」


「大事にするって言ったでしょ」


「……………………嬉しいよ」


 周りに咲いた花達。

 高価な花も沢山あってざわりと騒がしくなったが、花束にしたフェンネルがすぐさま芽依にあげたので、芽依はきれーい!と場違いに喜ぶ。


「メディさん、帰ったらお家に飾ろう」


『……………………お前は大物だよなぁ』


「……………………ん?」


 様々な高等魔術に使える沢山の高価な花を抱えて飾ると言った芽依に、メディトークは笑って頭を撫でてきた。 










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