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第31話 私の部屋が!!

『ウッキョー!ウッキョー!』


 この耳をつんざくような鳥の鳴き声と、まぶたの裏に朝日の光を感じて、微睡んでいる意識が覚醒する。この甲高い鳴き声を朝から聞くのは不快だ。

 今日から新入社員……じゃなかった。聖騎士の見習いとして部隊に配属される。成るつもりのなかった聖騎士。仕方がなく起きようかと思うが、なんだか違和感がある。まさかと思い目を開けると、黒い色が視界に入ってきた。


 なんでルディが一緒のベッドに寝ているんだ!昨日散々、新人用の宿舎に案内するように言ったのに、二人に上官用の宿舎にいろと言われ、なら部屋を分けるようにと。これは譲れないと言えば、ルディの隣の空き部屋に案内されたはず。

 視線を巡らせば、ベッドしかない簡素な部屋なので、私の与えられた部屋で間違いはない。


 っていうか、私はもう幼女ではない。寝ていても侵入者の気配で起きる私が気づかないなんて、ルディはどうやってこの部屋に入ってきたんだ!

 ええ、何度か教会の宿舎に侵入者が入って来たことぐらいありましたよ。同室の子たちと、これでもかというぐらい攻撃したけどね。


「どうせ、起きているのでしょ?なんで、私の部屋に侵入しているわけ?」


 するとルディは目を開け、私を見てニコリと笑う。やっぱり起きていたのか。


「アンジュが攫われたら大変じゃないか」


 一度私を攫った本人が言う言葉じゃない。


「アンジュが生きている。ここにいる。それが、それだけが、俺の救いだ」


 朝からクッッソ重い言葉を言うな。これ、本当に普通になるのだろうか。


「私は死んでないからね。それから、私いい加減に起きて着替えたいのだけど?自分の部屋に戻ってくれる?」


「もう少しこのままで」


 そう言って、私を抱き寄せるルディを私はベッドから蹴り落とす。王族だろうが、なんだろうが、関係ない。


「出ていけ!」


「仕方がないなぁ」


 ルディはベッドから蹴り落とされたというのに、笑って立ち上がり、扉から出ていった。何が仕方がないんだ!


 これが日々続くかと思うと、憂鬱だ。ため息を一つ吐き、ベッドから出て、濃い灰色の隊服に着替え、左腕を固定する。治そうと思えば治せるけど、いきなり折れた骨が治るとこれは怪しんでくれと言わんばかりなので、面倒だけどこのままにしておく。


 昨日の話を聞いて安易に使うことは危険だと改めて認識した。私が天使の聖痕を持っているとバレれば聖女に祀り上げられてしまう。それだけは避けなければならない。


 壁に立てかけられているこの部屋の備品である鏡の前に立ち、着崩れしていないか確認をする。


 鏡の中の私は16歳というより、もう少し幼さを感じる。やせ細っており、普通の16歳の子たちと違って体の凹凸はない。だから、隊服が微妙に余っているところがあり、不格好なのは仕方がない。

 貴族なら、自分の体型にあった隊服を仕立てるのだろうけど、既製品を支給してもらっている身としては贅沢は言わない。


 そして、寝癖はついているが、揃えられた銀髪がさらりと肩に落ちている。そう、灰色の髪じゃなく銀髪。わざと色を濁していたのがバレて元に戻させられ、髪も切られ揃えられてしまった。だから、私の長いまつ毛に縁取られたピンクの目があらわになってしまった。


 そのピンクの目の中にある金色に輝く虹彩が鏡に映り込む。ああ、これはいけないと光を押さえるようにする。

 そうこれが私の【天使の聖痕】だ。本来なら、王冠のような輪が頭上に頂くように光輝き、正に天使の様相になるのだけど、私は右目の中に隠した。それは例え光っていても光の加減かと勘違いしてもらえるようにだ。しかし、万全には万全を期して前髪を伸ばして隠していたというのに、目の上でぱっつりと切られてしまった。

 おかげでやせ細った天使アンジュの姿が鏡の中に映り込んでしまった。


 くー!これが私じゃなかったら、可愛い服を着せて、洋服の宣伝に使いたいぐらいだ。



 身なりを整えたので、寝室から居間の方に移動する。

 そう、なんと上官用の宿舎の間取りは1LDK!キッチンや水回りも備え付けられている。新人の宿舎はトイレ・風呂共同で部屋は何もない一間だけらしい。これだけでも上官用の宿舎にしたかいはあった。


 居間の方に移動すると、見慣れない扉が目に飛び込んできた。昨日までは無かったはずだ。寝室とは反対側の壁に扉。その方向はルディの部屋がある方向……まさか、壁を壊して扉をつけたのか!私の了承を得ずに?


 そして、トレイを持ったルディがその扉から現れた。やはり繋がっているのか。少し、どこでも繋がるドアかと期待してみたが、普通に隣に繋がっているだけのようだ。


「アンジュ。朝食を持ってきた」


 そう言って、昨日まで無かったダイニングテーブルに置いた。おかしい、これは流石におかしい。見覚えのないダイニングテーブル。ソファにローテーブル、そして、壁際に本棚がある。

 これは誰の部屋だ?


「ねぇ。昨日まで無かった物があるのはなぜ?」


「ああ、用意してもらった」


 誰に!!


「その壁の扉も無かったはずだけど?」


「付けた。ああ、気に入らなかったら、新しい家具を用意する。いや、それよりもアンジュが気にいる物を作らせよう!」


 作らせなくていい!ある物で十分だ!

 はぁ、やはり扉はつけられたのか。っていうか、そんな大物が搬入されても壁に穴を開けて扉を付けられても私が目を覚まさないってありえないのだけど!!


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