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第32話 問題児集団

 扉が付けられてしまうなんて、部屋を分けた意味がない!

 食事の席につきながら、ルディに尋ねる。


「で、なんで扉を付けたの?」


「婚約者だから」


 ……私には理解ができない理由だった。そして、テーブルに置かれた食事に視線を落とす。

 ドライフルーツが入ったパンに野菜スープ、赤みの肉を焼いた物にカットフルーツ。それに紅茶が付けられている。

 朝からこんなに食べれないのだけど?


「この朝食は何?」


「作ってもらった」


 それはそうなのだろうけど、そうじゃなくて。


「確か食堂があるって言っていたと思ったのだけど?それに朝からこんなに沢山食べれない」


「食堂は確かにあるけど……あれだ。んー。使い勝手が悪いから持って来てもらうようにしている」


 はぁ。使い勝手ねぇ。また、以前言われていたようなことを言われたのだろうか。『お前がいると飯が不味くなる』みたいな事を。しかし、その後も普通に教会の食堂を使っていたのになぁ。


「アンジュは何かと食事を1食ですまそうとするからね。これからは、少しづつでもいいから食べることを増やそう」


 いや、それはルディの決めることじゃない。それに1食なのは教会の方針であって、私の希望じゃない。


「アンジュとまた一緒に食事ができるなんて幸せだな」


 くっ。ルディが不憫すぎる。こんな年下の私と食事を摂ることが幸せだなんて、これも全て悪魔神父の所為だ。


 食事は普通に美味しかったが、やはり量が多すぎた。パンを半分と野菜がゴロゴロ入ったスープ半分で十分だった。

 作ってくれた人には申し訳ないが、それ以上お腹の中に入れることは出来なかった。


「アンジュ。お肉は?」


「ムリ」


「果物は?アンジュの好きなトゥールベルもあるけど?」


「ムリ」


 本当に無理。これ以上は本当に何も入らない。私は口を押さえて首を横に降る。

 だから、フォークにトゥールを刺して差し出されても無理!!




 そして、ルディに右手を恋人繋ぎされ、所属する部隊の詰め所に向かっている。上官の宿舎の中では、すれ違う人の視線がとても痛かった。

 やっぱりさぁ。上官の宿舎に見習いの隊服を着た者がいるって駄目だよね。


 ルディの足は迷うことなく進んでいるが、どう見てもここは森の中のような気がする。宿舎の周りにはいくつもの建物が見られたが、そこではないのだろうか。


 木々が生い茂った整備などされていない獣道と言っていい道を抜けた先に蔦で覆われた2階建ての洋館が見えてきた。

 え?ここ?


「ここが、第13部隊の建物になります」


 ルディが神父様のような胡散臭い笑顔で言った。はぁ、なんとなくわかってしまった。

 神父様のような胡散臭い笑顔と話し方をするルディに、ぽつんと一軒家みたいな建物が部隊の詰め所ということは、めっちゃ邪魔者扱いされているってことじゃないか!


 洋館の中に入ると、広い玄関ホールに二階に繋がる階段が目の前に広がっている。恐らく、ここは元々貴族の避暑地とかに使われていたのではないのだろうか。普通なら絵や美術品が飾られているだろう玄関ホールには何もなく。寂れた感じがした。 


 その玄関ホールを抜け、奥にある一室に連れて行かれた。そこは、普通に居間だった。

 え?私いったい何処に連れて来られたのだろう。

 座り心地が良さそうなソファに、今は夏の終わりの季節なので使われていないが、大きな暖炉があり、壁一面に本が並んでおり、中央にはビリヤード台がドンと構えていた。その部屋の中では、各個人がくつろいでいる。


 マジでここ何処?


「お、来た来た。アンジュ、こっちだ」


 そう言っているのは、座り心地の良さそうなソファに座り、何か飲み物を飲んでいる……うーん?ファルだ。


「新人が入って来たから紹介するぞ」


 すると、くつろいでいた人たちがファルの前に薄い灰色の隊服を着た者たちが整列した。全員で4人だ。4人……これが第13部隊の全員ってこと?


「左から順番に自己紹介してやれ」


 ファルが左端の男性を指して言う。なんか適当だな。これでいいのか?先に私の自己紹介をすべきでは?


「ティオっす!燃やすのは得意っすからよろしく!」


 赤髪の男性が軽い感じで言う。そういうノリの人ってことか。


「ミレーよ。家名は無いので、気軽に話掛けてくれたらいいわ。私が使うのは雷撃。国一つぐらいなら滅ぼせるわよ。これからよろしくね」


 金髪の女性が何気に恐ろしい自己紹介をしてくれた。国を滅ぼせる雷撃ってなに?!


「僕はシャール。僕も家名はないから。得意なのは氷。だから、凍らすのは得意だけど溶けないから」


 空色の髪の少年からまたしても恐ろしい言葉が聞こえた。しかし、見た目は本当に少年だ。私より年下なのではないのだろうか。


「ああ、シャールは10歳で聖騎士団に入った逸材だ。今年で13だったか?」


 ファルが私が疑問に思っていたことを補足してくれた。逸材ねぇ。


「ヴィオーラ・アングストです。あ、あのアングスト男爵の3女ですが、ヴ、ヴィオと気軽に呼んでください。わ、私の得意なのは……ー··ー··ーですぅーーー」


 薄い紫色の髪を2つに三編みにした私より少し上の女性がもじもじと両手の指を絡め、歯切れなく自己紹介してくれたが、毒ねぇ。それは大きな声で言えないか。


 軽い感じのティオに、恐らく何処かの国に恨みがあるミレー、凍らせる事に特化して扱いづらいシャール、貴族だが毒を発現してしまったヴィオ。

 第13部隊って問題児集団じゃないか!!


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