翌朝、日が昇る前に騎獣舎の前に集合した第13部隊。
6人全員がチェーンメイルにサーコートを着てマントを纏った姿だった。
私はそのような物は支給されていないので、いつもどおりの濃い色の灰色の隊服とマントのみだ。あと剣は支給品で手にあった物を腰に佩いているが、私の剣じゃないので、ほどんど飾りのようなものだ。
ここまで来てハッと気がつく。私、騎獣に乗れないし、個人の騎獣なんてない。ついて行くと言ったもののどうすべきか。
「アンジュ。こっちですよ」
外面のいいルディに連れてこられたのは別の棟の騎獣舎だった。そして、目の前には美味しそうなお肉の塊……あ、間違えた。ワイバーンだった。私の思考が読めてしまったのか、目の前のワイバーンが腹を上にして、ひっくり返ってしまった。これは犬か?
「ぶふっ!ランサが服従のポーズを!アンジュ、何をしたんだ?ぐふっ」
ついてきていたファルが腹を上にして、ひっくり返っているワイバーンを指してヒーヒー笑っている。何もしてないし。
「アンジュはすごいですね。ワイバーンですら服従させてしまうのですね」
胡散臭い笑顔で褒められてもなぁ。
ルディがそのワイバーンに手綱と鞍を付けて、外に連れ出す。どうやらルディの騎獣のようだ。その隣にファルも同じワイバーンを連れている。この騎獣舎にはワイバーンばかりがいるようだ。入り口から見渡す限りでも30頭はいるように見える。
こんなにたくさんいると、お肉食べ放題だよね。
『ギャワーン』『グギャー』『ギュゥゥー』『ピヤーン』
なんだが一斉に騒がしくなった。明らにおかしなモノが混じっていそうだったけど、ワイバーンって繊細なんだね。
「おい、アンジュ。何をした?」
ワイバーンの上からファルに呆れたような声をかけられるが、相変わらずその姿は黒い鎖に巻かれたままだ。
ワイバーンの上にいる黒い鎖のモノ。なんだか強そうなゲームキャラに出てきそうだ。
「何も。ただ、ワイバーンのお肉って美味しかったなと思っただけ」
2頭のワイバーンがビクリと震える。ルディが手を差し出してきて、私をワイバーンの上に引き上げた。
「ワイバーンの肉が好きなのですか?」
ルディに尋ねられるが、好きかと問われても、首をひねってしまう。ワイバーンのお肉は美味しかったけど、一番じゃない。やはり、一番は
「ドラゴンのお肉が一番美味しかった」
「「ドラゴン!!」」
2つの声が重なった。
「ドラゴン。倒したんっすか?」
「どうせ、ワイバーンとドラゴンを間違えただけってオチだろ」
ティオとシャールが狼に翼の生えた騎獣に乗っていた。もしかして、階級によって乗れる騎獣が違う?以前、私を迎えにきた人たちも狼に翼が生えた騎獣だった。
そして、全員が騎獣に乗ったところで飛び立った。
「アンジュ。ドラゴンを倒した時、怪我はしなかったのか?」
ルディは胡散臭い言い方ではなく、普通の感じで話してきた。もう、多重人格の疑いをもってきたよ。
私はワイバーンの背の上で、ルディの前に座り抱えられていた。
「別に、ただの大きな蜥蜴だったし」
ドラゴンは巨体だ。その分重力が体に負荷をかけているが、それを魔力というもので重力負荷を補っている。なら、更に重力を増していけばどうなるか。巨体は空を飛ぶこともできず、地に伏す蜥蜴に成り下がるだけだ。
あとはとどめを刺せばいい。
「ドラゴンが蜥蜴か。アンジュらしい」
ん?それはどういう評価?
それから、3刻ほど進んだところに多数の湖が眼下に見えてきた。セスト湖。それは6番目の湖という意味だ。恐らく6番目の湖と思われるところに黒いモヤが見える。常闇の穴だ。私が見た中で一番大きいかもしれない。直径は1
その先に動く影は見える。正確には骨だ。巨大な人骨が動いている。言うなれば、日本の妖怪の
これと戦うのか。
「まずは俺が行くっす」
そう言ってティオが巨大な髑髏に突っ込んでいくが、その後にシャールもついて行く。
「一人で突っ込んでいくって馬鹿じゃない?」
口が悪そうな少年だけど、何かと仲間思いなのかもしれない。
ティオの聖痕のものと思われる炎に巨大な髑髏が包まれ、シャールの聖痕の力によって氷漬けにされる。しかし、氷がひび割れ、巨大な手がハエを払うが如く、二人を騎獣ごと叩き落とす。
「私が行きますわ」
「わ、私も、が……頑張ってきます」
「ミレー、ヴィオ。一撃を入れて戻ってきなさい」
ルディは一筋縄ではいかないと思ったのだろう。一撃を入れて様子を見るようだ。
ヴィオの聖痕によって、全体が毒々しい紫になり、それに追随するようにミレーの稲妻が髑髏に直撃する。
すると、巨大は髑髏はバラバラと崩れて行った。
「隊長!副隊長!やりましたわ!」
「ティオさんとシャールちゃんをさ……探しに行きましょう」
戻ってきた二人の言葉にファルは頷き、ルディは手綱を振ろうとしたところで、私はルディの手を止める。
「待って」
目を眼下に凝らして観察する。木々の合間に赤く光る物が見えた。そして、骨がまるで生き物のように形を成していき、元の巨大な髑髏の姿となった。
「え?」
「そんなぁ」
「嘘だろ」
倒せていないことに落胆の色を見せる3人。そうか、普通は形を失えば元に戻ることはない。その常識がファルを死に追いやる原因だったのかもしれない。
「アンジュはアレを知っているのですか?」
外面仕様の声が後ろから聞こえてきた。知っていると問われれば知らない。けれど、おおよそどういうものかはわかる。
「うーん。私が知っているものと同じかどうか知らないけど……」
「その知っているモノの情報を教えてください」
え?私が知っているのは日本の妖怪のことだけど?それでいいのだろうか。
「知っているのは【がしゃどくろ】と呼ばれるモノ。複数の骨から形成された巨大な骨。因みに人食です」
「早くティオとシャールを助けに行きましょ」
「そ、そんなのどうやって討伐するのですか?」
ミレーは人食という言葉に反応したのだろう。まぁ、今まさに森の中を何かを探すように巨大な髑髏がかがんでいるので、先程落とした者を探しているのかもしれない。
「それで、どうやって討伐するのですか?」
「さぁ?」
そんなの知らないよ。妖怪だし。
「アンジュ!時間がない!他に何かないのか!」
ファルが焦ったように、私に確認するが、そう言われてもねぇ。怨念とかの塊だから浄化してみる?としか言えない。
はぁ、ティオの方が喰われそうだね。足が折れて動けなかったのだろう。巨大な骨に足を捕まれ逆さ吊りになっている者がいる。
私は鞍の上に立ち、重力の聖痕を使い、そのまま空を飛ぶ。重力の方向を変えるだけで、巨大な髑髏に向かって飛んでいく。
後ろの方でルディが叫んでいるけど、時間がないのなら仕方がないよね。
髑髏の頭の上に立ち、そのまま巨大な骨の塊ごと重力を増していく。すると重みに耐えきれず、骨がガシャガシャと音を立てながら壊れていく。その中で赤い光を見つけた。それに向かって、腰に佩いている剣を投げつける。
赤い玉に剣が貫通し、ヒビが入り、ボロボロと崩れ去っていく。すると、巨大な髑髏を形成していた複数の骨もボロボロと消え去って行く。
討伐完了だけど、骨だから素材として得る物が何もなかったなぁ。