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第36話 優しい毒

「アンジュ!なぜ勝手に行動を取るのですか!」


 今、私は地面に座らせれ、ルディにお説教をされている。餓者髑髏がしゃどくろを倒したのに怒られているなんて、理不尽だ。


「副長。俺の足マジで折れてるんっすか?マジ左足なんっすか?」


 ティオはファルに左足を固定されながら、言っている。


「僕、右手が折れているんだけど?これは落ち方が悪かっただけ。よくわからない死が見えるっていう戯言なんて僕は信じない」


 シャールはミリーに右腕をぐるぐる巻にされながら、信じないと言っている。しかし、ミリーは不器用なのだろうか。


「信じなさいよ。これは絶対にあなた達だけで討伐に来ていたら死んでいたわよ」


 一撃で髑髏を破壊したミリーの言葉だ。説得力はあるだろう。

 確かに、彼らは常識という物が邪魔をして油断したところをやられていたかもしれない。


「そ、そうです。一度バラバラにしたのに元に戻ってしまったのですよ。わ、私は役に立ってなかったですけど」


 ヴィオはこの野ざらしの中でお茶を入れようとしている。まぁ、休息は必要だ。だけど、毒を使う彼女が入れるお茶は大丈夫なのだろうかと、思ってしまうのは私だけなのだろうか。


「はぁ、俺はもしかしてあの骨に喰われていたのか?あれは流石にいやだ」


 ティオの足を固定しているファルはため息を吐いている。そうだね。髑髏は嫌かもしれない。


「聞いているのですか!アンジュ!」


「聞いているよ。そんなに心配しなくても私は強いよって言ったよね」


「……··」


 まぁ、そう言うことを言いたいのではないのはわかっている。組織として上官の命令を聞かなかったことが問題だといいたいのだと思う。


「まぁ、皆さん無事だったからいいのでは?」


 私がへらりと笑って言うと、横からカップを差し出されてきた。


「そ、そうです。あ、紅茶です。どうぞ」


「ありがとうございます」


 そう言ってヴィオの入れてくれた紅茶の入ったカップを受け取る。


「わ、私なんて何もお役に立てませんでしたのに、あ、アンジュちゃんは一撃で倒してしまいました。副隊長はお怪我もなく、ご無事でしたので、そ……そのようにお叱りにならなく……て·も……」


 段々と声が小さくなり最後には聞こえなくなった。ヴィオは顔を伏せたまま別のカップをルディに差し出して、そのままファルの方に行った。彼女なりに私をかばってくれたのだろう。


 そう思い紅茶を一口、口に含む。……·そして、飲み込む。背を向けたヴィオに視線を向ける。もう一口飲む。……これを皆が飲んでいるわけ?

 ルディに視線を向けると眉間にシワを寄せながら飲んでいる。

 飲んでいる。


 もう一口飲む。

 ファルが受け取ったカップに口を付け、すぐさま中身を地面に捨てた。


 あ、その反応でいいのか。


 もう一口飲む。はぁ。これは毒で間違いないよね。


「ヴィオーラ!疲れた心にとどめを刺さすな!無意識に毒を入れるのをやめろ!俺を殺す気か!」


 ああ、毒は無意識なのか。そして、叫んでいるファルにはもう死の鎖は巻き付いてはいない。だから、この毒如きでは死なないから大丈夫だ。


「す、すみません!す……直ぐに入れ直します!」


「いや、もう今日は入れるな。何度入れ直しても今のヴィオーラの状態じゃ。毒が入ることになる」


 ヴィオは心情に左右されるタイプなのか。それは厄介だ。カップの中の紅茶を飲み干す。確かに毒だけど、まだ優しい毒だ。即効性はないし、蓄積するものでもない。全身が痺れるぐらいの毒だ。

 私の毒の聖痕ほどじゃない。


 そう、私の4つ目の聖痕は毒だ。何の毒かはわからないが、赤紫の花の聖痕だ。


「あ、あ〰〰飲んでしまったのですか!!」


 私が飲んでいたカップを奪い取って、ヴィオが叫びだした。


「アンジュ!!」

「おい!吐き出せ!」


 ルディが私の腕を取って脈を測りだす。ファルは駆けつけて、毒を吐くように促してきた。


「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……·」


 ヴィオはコメツキバッタのように頭を地面に打ち付けて謝りだした。男爵令嬢の癖にこういう謝り方をするのか?

 貴族の令嬢なら『あら、毒ぐらいで騒ぎ立てることはありませんことよ』ぐらい言うかと思ったのだけど。


「優しい毒でした。ごちそうさまでした」


 私が大丈夫アピールをすると、ヴィオは『や、優しい毒?わ、私の毒なんて、役立たずですぅーーーー』と言いながら何処かへ走って行ってしまった。


「ミレー!ヴィオを回収して撤収だ!」


 ファルが慌ててミレーに指示を出し、ティオに手を貸しながら騎獣に乗るように促している。何を慌てることがあるのだろう。


「ミレー、一人で大丈夫っすか?俺手伝いに行った方がいいっすか?」


 ティオも何か心配事があるようにヴィオが去っていった方を見ている。


「いや、いい。ティオとシャールは先に戻ってきちんと治療を受けるように。俺が、毒の森になる前にヴィオを回収に行く。アンジュは2刻はそこで安静にしていろ!その後にシュレインと戻ってこい!」


 それだけファルは言って、ヴィオが乗っていた騎獣に跨って、ヴィオとミレーが消えて行った方向に駆けていった。


 毒の森かー。それは嫌だね。



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