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第41話 瞬殺

「はぁ。わかりました。しかし、危ないと思えば助けに入りますよ」


 そう言ってルディは手を離してくれた。しかし、私の中では無給期間がもうすぐ終わるということで頭がいっぱいになっていた。

 私は機嫌よく冒険者の人たちに声をかける。


「お手伝いは必要ですか」


 声をかけると5人いる冒険者たちが私の方をみて固まった。ん?石化の毒でもかかったのだろうか。もう一度尋ねる。


「お手伝い必要?」


 その間にも魔物から攻撃はされているので、太い前足を茨で巻き付けておく。

 すると、5人が同じ反応を示した。顔を赤くして、コクコクとうなずいたのだ。


 了承は得たので、茨を解除して、太刀で前足を斬り落とす。

 なかなかいい感じだ。骨が引っかかるかと思ったが、豆腐でも切るようにすんなりと刃が入った。


 そして、すぐさま後ろに回り込み、蛇の頭を斬り落とす。鱗も問題がなく斬れた。立て続けに、炎を吐こうとしているヤギの首を斬り、そのまま横に薙いでライオンの頭部も斬る。瞬殺だ。


 地面に倒れる巨体の上に立ち、太刀に付いた血肉を振るうことで落とした。なんだか思っていた以上の武器になってしまっている。

 これの鞘が欲しいな。斬れ過ぎて怖いぐらいだ。


「アンジュ。怪我はないですか?」


 いつの間にかルディが側に寄ってきて、私を抱える。いや、私は刃物を持っているから危ないよ。


 ふと、冒険者たちがいた辺りを見ると、人っ子一人いなかった。もしかして、私の戦い方がエグくて引かれてしまったのだろうか。


「怪我はないけど、冒険者の人達はどこに行ったの?」


「王都の方に帰って行きましたよ」

 ━あいつら、俺のアンジュに見惚れるなんて許せないよな━


 最後の方はよく聞こえなかったけど、まぁ、無事に戻って行ったのならいいか。


「アンジュ。その剣」


 ルディが私の太刀に視線を向けながら言う。


「私のも作ってくれませんか?」


 外面のいい胡散臭い笑顔でその言葉を言われたら、イラッとしてくる。教会の裏の森でこっそり焼き芋をしているのを神父様に見つかって、同じセリフを言われた事を思い出してしまった。私の食料を奪い取る気かと。


 しかし、刀を?それはどうだろう?根本的に扱い方が違うから、勧める気にはならないなぁ。


「るでぃ兄。これは片刃の剣だから、今使っている剣とは違う。だから、扱いにくいと思う」


「アンジュは使えているのに?」


「るでぃ兄は気がついているんじゃないの?私の戦うときの体の動きがおかしいって」


「そうですね」


「私は頭の中で体の動きを再現することで、動いているから、普通じゃない」


 そう、遠い昔の記憶の映画や時代劇の殺陣を頭の中で再現しているにすぎない。だから、体に覚えさせて動いているわけじゃない。


「なら、問題ないですね。アンジュの動きを覚えれば使えるということですね」


 は?そんなことできる?いや、見取り稽古なる言葉があることから、できるのかもしれない。

 え?私、ルディの刀を作らないといけない?


「さぁ。戻りましょうか」


 胡散臭い笑顔のルディに抱えられたまま、巨体の遺骸から下りて、もと来た道を戻って行く。少し離れたところにいた他の隊員と合流するが、なぜだかキラキラした目を向けられていた。

 そして、ファルはお腹を押さえてヒーヒーと笑っている。何に笑う事があったのだろう。




 私はその後、ルディ以外の4人からも刀を作って欲しいと言われた。。

 私は抵抗した。嫌だと。タダ働きをさせる気かと。


 すると、次の日ヴィオからおずおずと差し出されたモノがあった。毒物かと警戒してみれば、色とりどりの魔石を差し出してきた。


「こ、これはわ……私が討伐した魔物のま……魔石になります。これで作って欲しいです」


 シャールは氷の器を差し出してきた。


「僕の作った溶けない氷の容器に氷菓子を入れておくと、いつでも氷菓子が食べられる。これをやるから作ってほしい」


 ミレーは指輪を差し出してきた。


「これは私の呪い……いえ、想いがこもった雷撃の指輪ですわ。アンジュに近寄る不埒な輩に使うといいですわ。ですから、私のものも作って欲しいですわ」


 この人、呪いって言ったよ。一体何を呪ったのだろう。


 ファルは大きな箱だった。

 開けてみると……え?


「鞘?」


「俺の木の聖痕を駆使して作ってみたぞ。目測で作ってみただけだから、合わなかったら作り直す」


 抜身の刀に布を巻き付けていただけの太刀を手に持ち、布を外して鞘に収めてみる。何も引っかかるところもなく、収まった。ファルの目測すごい!

 っていうかファルって木の聖痕なんだ。


 最後にルディが手のひらの大きさぐらいの箱を渡してきた。


「急いで作らせた物だ」


 胡散臭い笑顔ではなく、すごく真剣な顔をして渡してきた。いったい何が入っているのだろう。



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