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第42話 婚約の誓約が!!

 箱を開けてみると銀の腕輪が入っていた。


「腕輪?」


 何?この腕輪?


「婚約者がいるという証ですよ」


 あ、そうなんだ。それって急いで作らせないといけないもの?私が意味がわからないという顔をしていると、左腕を取られ、銀の腕輪をはめられた。

 はめられた瞬間。真っ黒に腕輪が染まった。キモッ!なにこれ!


「やっぱり、黒くなるのですわね」

「予想通りすぎる」

「あわわわ」


 ルディが別の箱を出してきて、同じ腕輪が入った物をまた差し出してきた。


「アンジュ。俺の腕にはめてほしい」


 意味がわからないが、ルディの差し出された左腕にはめる。今度は何も変化はしない。


「で?これって何の意味があるわけ?」


「ある程度距離が離れると腕輪の元に転移されるものですよ」


「は?腕輪をつけているのに、腕輪の元に転移?」


 すごく矛盾していることを言われて混乱する。


「ぶぐっ!アンジュ。それはそれで面白いが、例えば、アンジュがシュレインと離れすぎるとシュレインのところに転移されるということだ」


 は?

 ファルが吹き出しながら説明してくれた。


「無いわ!どれぐらい離れたら転移されるの!っていうか。ファル様は腕輪なんてしてないよね!」


 婚約者がいると言っていたファルが腕輪をしているようには見えない。そう言いながら腕輪をはずそうと試みるも手首にピッタリとくっついているように外れなくなっている。

 もしかして、ヴィオが『あわわわ』と慌てていたのはこれのことだったの!


「え?そんな呪いのアイテムなんて普通は送らない」


「呪いのアイテム!!るでぃ兄!どういうこと!!」


 慌ててルディに問い詰めるも、瞳孔が開いた視線を向けられ言い返される。


「アンジュが昨日の冒険者に色目を使ったのが悪いよな」


 色目!!いつ私使った?いや、使った覚えなんてない。


「使って無い!」


「いや、使った。それに大丈夫だ。聖騎士団の敷地内なら、反応しない」


「狭っ!王都の街の中に買い物にも行けないじゃない!冒険者ギルドにも行けないじゃない!っていうか、私の休みはいつ!」


 この6日間、私は休みをもらっていないというか、殆どが開店休業状態と言っていいかもしれないけど、冒険者ギルドには行きたい!


「デートなら明日でもいいですよ」


 先程までとは打って変わって、機嫌よく胡散臭い笑顔でルディが答えた。


「ちがーう!!冒険者ギルドに私の貯めたお金を預けているの!」


 今の私は無一文というか、元々国を出るための最低限のお金しか手元に無いのだ。服もこの隊服と代えのシャツと下着数枚しかない。言うなれば着の身着のままと言っていい状態だ。

 っというか切実な問題がここ5日ほどで出てきた。


 私、太った。


 正確には騎士養成学園なるものに通い、一月半、朝と夕方に宿舎で出される食事を取り、聖騎士団に来てからはルディに朝昼晩と食事を取らせられるから、骨と皮と少しの筋肉だけだった体に肉が付いてきたのだ。恐ろしいことだ。


 今はまだいいが、このままだと私は子豚になりかねないほどに太りそうだ。そうすると、今着ているものが着れなくなるという切実な問題が出てくる。


「欲しいものがあるなら、買ってあげますよ」


 下着が欲しいなんて言えるはず無い!


「自分で買う。っていうか、この腕輪は本当に何?転移の腕輪ってこと?」


「いいえ、契約の腕輪です。契約に違反すると手首が落ちるものですね」


 なに!!私はガチャガチャと外そうとするが外れない。手首が落ちるって怖すぎるわ!それに契約って何!はっ!!私、ルディと何の契約をした?

 ……あれか!婚約の誓約か!


「アンジュが私の婚約者でいることと、一年後に婚姻をすれば、手首が落ちることはありませんよ」


「え?一年後に婚姻?初耳だけど?」


「これが写しです」


 そう言って渡されたものは、金縁ではない紙に書かれたもので、私のサインがされたものだった。腹が立ったから、こちらの世界の文字でアンジュと書いてその後ろに小さく【杏樹】と落書きをしたものそのままだった。おそらく転写の魔術なのだろう。


 それにはあのとき書かれていなかった一文があった。婚約期間を一年とし、その後婚姻するということを回りくどい言い方で書かれていた。

 詐欺だ!結婚詐欺だ!違う意味で結婚詐欺だ!


 私はふるふるしながら写された誓約書を見て、ルディに視線を向ける。


「アンジュが無かったことにしたいと言うが、時間が経てばバレてもおかしくはない。俺が囲えばある程度は守ってやれる」


 ルディは小声で私に言ってきた。やはり常闇の穴を閉じたのはやりすぎたか。しかし、あのままだと恐らく近い内に死を撒き散らす太歳が外に出ていただろう。


 私は力があっても権力はない。私にここから逃げるすべがないのであれば、貴族から権力を振りかざされれば、頷くことしか選択ができなくなる。


「はぁ。わかった」


 ここは私が引くべきだろう。しかし、行動範囲はもう少し広めがよかった!

 はぁ、離れると強制的に転移をする腕輪か。


 私はルディから距離を取る。ヴィオがあわあわと言っている隣に立つ。その私の姿をルディは不審げに見ている。


 何も考えずに小声で『【転移てんい】』と日本語で言ってみた。すると左腕から魔力が抜き取られたと思ったら、一瞬重力から解放され目の前にルディがいた。そして、床に降り立つ。


「ちょっと!この腕輪、普通に転移ができてしまうじゃない!」


 呆然と私の姿を見ているルディに指をさして、腕輪の不備の文句を言う。

 これは問題だ。下手をするとルディがいつでも私の目の前に現れることになってしまう。……いや、殆ど一緒にいるから問題ではない?



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