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第43話 ああ、空が飛べれば

「ぐふっ!ま、まさか呪いの腕輪が自由に腕輪のところに転移ができる代物だったなんてな。ぶふっ!」


 ファルは何かがツボにハマったようで、先程からお腹を抱えて、ソファに転がっている。


 ルディはと言うと、少し離れては私の元に転移をして、少し離れては転移をするということを繰り返している。何かを検証中なのだろうか。


 そして、私はというと、今はミレーの剣を刀にしている。本当に潰してもいいのかと何度も確認したけれど、いいと言われ、打刀と言われる刀に近い形にして長さも刃渡り70セルメルぐらいになった。 


 その前にヴィオとシャールの刀を作ったが、ヴィオはレイピアを使っていたので、止めた方がいいといったのだけど、『が、がんばります』と言われてしまった。何を頑張るのだろう。

 なので、反りがない忍刀風にしてみた。突き刺すにはいい形だろう。そして、毛細状の溝を作ってみた。どう使うかは本人次第だ。


 シャールは短めの双剣だったので、脇差しを2本作る事にした。ほんとに良かったのだろうか。



「これは思ったより便利かもしれませんね」


 検証結果が出たようだ。胡散臭い笑顔のルディに便利だと言われてしまった。しかし、私はとても迷惑だと思う。

 ミレーの刀も出来上がったので、本人に渡してみる。


「あら、もう出来ましたの?基本的には剣と変わらないのですのね。私も外で剣を振って来ますわ」


 ヴィオとシャールは出来上がった刀を持って外に行っているので、ここにはいない。ミレーも二人に続いて部屋を出ていってしまった。


「いやー。転移っていつも大掛かりな陣を使っているけど、その腕輪を改良したら、いらなくないか?ぶふっ!いつも苦労して苦労して5人を飛ばしているのが、馬鹿らしいな。ぐふっ!」


「誰も検証をしなかったのだろ?しかし、腕輪と腕輪の力を共鳴させて、その共鳴が届かなくなったところで転移されると聞いていたが、この感じだと違いそうだな」


 はぁ。転移は5人飛ばすだけで精一杯なのか。転移って大変なのか。そう思いながら、暖炉の前の耐熱石の床に寝そべる。 


 疲れた。流石に3本いや4本はきついな。集中力の限界だ。


「アンジュ。こんなところで寝るな」


 まだ、寝てない。

 しかし、ウトウトしてきた。体がふわりと浮いたところで意識が途切れ、深い眠りに落ちていった。




 夢を見た。いや、ただの過去の記憶だ。母親と父親が言い合っている。内容は私の売りに行く場所で揉めているようだ。


 母親は大きな街の教会がいいと言っており、父親は貴族に売りに行こうと言っている。

 私からすれば、どちらでも一緒だ。


 母親が金払いのいい教会の噂を聞いて回っていたのを知っている。

 父親はこの辺りで聖質を持つ子供を買ってくれる貴族の噂を集めていたのを知っている。


 どちらに対しても希望は抱けない。物語だと、ここから幸せを掴むのが王道だろうけど、誰もが幸運を掴むことなんてできやしない。そんなのは一握りの人だけだ。


 バタバタと家の中に入ってくる複数の足音が聞こえてきた。はぁ、帰ってきたのか。


「アンジュ。お前はいいよな。働かなくて」


 チクリと言って去っていく1番目の兄。


「ほんとー。夏には3歳になるんだから、水汲みぐらいできるでしょ!」


 2歳児に無茶を言う2番目の姉。


「何がケガをするから外に出ないだ!腹が立つ」


 2番目の兄よ。それを言ったのは父であり、私は外に出ないとは言っていない。


 3番目の兄が私の腕を掴み、外に連れ出す。出た瞬間に4番目の兄と3番目の姉から井戸の水をかけられた。


「お前なんて邪魔だ」

「死んでしまえばいいのに」

「そんな濡れたままで家に入って来ないでよね」


 修理を繰り返したようなボロボロの扉が私を外に置いたまま閉められた。

 これは父と母が私を特別待遇をし続けたからだ。特別と言っても、私を外に出さないそれだけだ。だが、この家のように貧しい暮らしの家は子供が働き手なのだ。普通なら遊びながら、家の仕事を覚えていくのだが、それさえもさせずに家から出すことを両親は拒んだ。


 今ならその両親の行動の意味がわかる。金のなる木を人さらいに攫われないためだ。珍しい銀髪を持つ私を。


 しかし、兄弟たちはこの雪が降る中一人家の中で過ごしている私が許せないのだろう。

 雪混じりの風が、体温を奪っていく。寒いな。いや、心が寒い。


 いつかここではない何処かに旅にでよう。私をアンジュとして見てくれる場所を探しに。

 そのためなら、教会だろうが、貴族だろうが従ったフリでもしてやる。知識を蓄え、爪を研ぎ、牙を隠して、その時を待とう。


 吹雪く雪の中に立ち、村の遠く向こうに聳え立つ山々を見る。


「ああ、空が飛べれば、あの山を超えることができるだろうか」


 2歳児らしくない言葉が溢れる。


『アンジュ、俺を置いていくな』


 ん?



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