ふと、目が覚めた。目を開けると、使われていない暖炉が横向きにぼやけて見える。
あれ?
雨が降っているのか
「アンジュ。何があったんだ?」
その声の方に視線を向けると、私を見下ろしているかのような、ルディが落ち着きがなく視線をオロオロとさまよわせている。
見下ろしている?
慌てて起き上がり、状況の把握をする。
私は何故にルディに膝枕されている状況になっている!それも、ファルの定位置と言っていい3人掛けのソファにだ。
「え?ごめん。私の方が理解不能」
「ブフッ!シュレインがこんなに慌てるなんてなぁ。面白いなぁ。ああ、アンジュは、武器を作って疲れて寝てしまっていただけだ」
また、なにかのツボにハマったらしいファルが、笑いながら説明してくれた。
ああ、寝てしまっていたのか。いや、それが何故に膝枕になる?
「アンジュ!何があったんだ?どうしたんだ?」
ルディが私の肩を揺さぶりながら聞いてくるが、寝ていただけなのに、何があったもないだろうに。
「え?何もないけど?」
「じゃ、何故泣いている!」
泣いている?頬を触ると確かに濡れている。雨じゃなかったのか。
「夢見がわるかったから?」
昔の夢を久しぶりに見てしまったからだろう。
「誰の夢を見て泣いていたんだ?そいつが悪いんだろう?アンジュを泣かした奴は誰だ?」
いや、夢だし。だから、人を視線だけで射殺しそうな目を向けないでほしい。
「誰の夢と言われても、血の繋がりだけがある家族の夢。誰が悪いと言われてもねぇ?強いて言うなら貧困が悪い?子供を金で買おうとする貴族や教会が悪い?ああ、この世界が悪い」
そう、この世界が悪い。人の生命がゴミクズのように軽い世界が悪い。聖女を神聖視しながら、聖女を創り出そうとしている愚か者がいる世界が悪い。
そもそもだ。なぜ、世界に穴なんて開くのか。まるで、世界が異物を取り込んで、世界の
そして、何故に私はルディに抱きしめられているのだろうか。それも骨がギリギリと音が鳴っている。これは絞め殺されているということだろうか。
「アンジュが家族の事を話さないのは覚えていないからだと思っていた。そうだよな。出会った頃からしっかりしていたアンジュが家族のことを忘れていないはずないよな」
それぐらい覚えているよ。覚えているから、力を緩めて欲しい。体を離そうと腕を突っ張ろうとするが、全く動かない。
あ、でも。
「家族のことは覚えているけど、兄弟の名前は覚えていない。それぐらい希薄な関係だったから、って痛い痛い痛い!これ以上絞めるな!内蔵が出る!」
このままだとマジで死ぬ!こんな時こそ!!
『バッシュ……ンォォォォン』
稲妻が屋敷を貫いた。呪いの指輪の力は半端なかった。いったいどれほどの呪いを込めたのだろう。
「なぜ、それを俺に使う」
ルディはこれほどの呪いの攻撃を受けても、何事もなかったようにいる。いや、恐らく回避をしたのだろう。ルディは立って私を見下ろしていた。
「私は痛いって言ったよね!骨がミシミシ言っていたのだけど?」
「それは悪かったが、ミレーの雷撃を使うことはないよな」
使う必要があったかと言えば、別に呪いの指輪を使う必要はなかった。しかし、呪いの指輪の威力を試したかったのも事実。
「それは勿論。使ってみたかったから」
そう言って私はへらりと笑った。
その時、廊下の方からバタバタと足音が聞こえ、勢いよく扉が開いた。
「何がありましたの?!」
「敵襲?」
「あ、この剣。私と相性がいいです」
ミレーの言っていることはわかるけど、シャールが言う敵襲の敵って何をさしているのだろう。ヴィオはマイペースに忍刀を褒めているが、毛細状の溝の意味を理解したのだろうか。
「ぶふっ!敵襲じゃないから安心しろ。シュレインとアンジュの痴話喧嘩だ」
いや、違うし。
しかし、いつまでファルは、お腹を押さえて肩を揺らしているのだろう。
「そうだ、シャール。お前、教会に連れてこられる前の事を覚えているか?」
いきなりファルはシャールに対して質問をした。
「は?何を言っているんですか?そんな幼い頃の記憶なんてないですよ。あって、5歳ぐらいの教会が燃えてしまったときの記憶があるぐらいです」
住んでいる教会が焼けてしまえば、それは記憶に残りそうだ。
「普通はそうだよな」
そう言いながら、ファルは私を見る。いったい何?
まぁいい。それよりも。私はミレーの元に向かう。
「あの、ミレーさん」
「何かしら?」
「この指輪の出力を押さえられませんか?」
はっきり言ってこれは間近で稲妻が落ちていることと同じ威力があると思う。こんなの私が恐ろしくて使えない。使った瞬間、黒焦げの骸が出来上がっていそうな気がする。