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第45話 魔術とは?

「あら、駄目ですの」


 駄目でしょう。私は親指と人差し指をVの字に開き小声『【雷電】』と言葉にする。すると、バチバチと放電しながら、親指と人差し指の間で電気がほとばしる。


「これぐらいで十分です」


「え?でもこんなに弱いと倒しきれませんわ」


 ミレーは何と戦う想定なのだろう。しかし、相手を気絶させればいいのだ。


「まぁ、見ていてください」


 私はそう言って、笑い上戸のファルの後ろに瞬時に回り込み、一人掛けのソファの影から出ているファルの頭部の影を踏む。小声で「【影縫い】」と言葉を発した。


「うぇ?」


 ファルは何か異変を感じ取り、笑うのをやめた。その首元に向かって一発入れる。


『バチッ』


 雷電に接触し、ビクッと体を震わせたファルを見て、影縫いを解除し様子をみると、ソファに座ったまま動かなくなった。うまく気絶をしたようだ。


「という感じです。要は気絶をさせればいいのです」


「気絶だけでいいですの?」


「ええ」


「それではヤれませんことよ?」


 殺らなくていい。私が貴族を殺したとなれば、面倒なことになりかねない。それならと言ってミレーは私にくれた指輪をもって部屋の隅の方に行った。


「副隊長。僕とヴィオは昼食をもらって来ます。ついでにティオの様子も見てきます」


 シャールはそう言ってヴィオと共に部屋を出ていった。そう、ここはぽつんと一軒家なので、食堂併設とかではなく、第13部隊用に作られた物を取りに行くシステムだ。何処までも異端扱いをされている。しかし、なぜ気絶しているファルに声をかけたのだろう。


「アーンージュー!!」


 シャールに声をかけられたからか、ファルが復活したようだ。思っていたよりも早かった。


「俺を実験台に使うなんていい度胸だな」


「実験台ではなく、実演」


「なお悪い!!っというか俺の体に何をした?」


 何をしたと聞かれても


「気絶するぐらいの雷撃を当てただけ」


「その前だ。アンジュを避けようとしても動けなかったぞ!」


 ああ、【影縫い】ね。しかし、ファルがわからないとなると、こういう使い方はしないのだろうか?


「別に影縫いを使っただけ、大したことないよね」


「は?」

「アンジュ。『カゲヌイ』とはなんだ?」


 ファルは意味がわからないという顔をし、ルディが興味津々に聞いてきた。


「意味はそのまま。【影縫い】は影を地面に縫い止めるってこと」


「いや、おかしいだろ。それぐらいで動けなくなるのは」


 ファルはおかしいというが、物の考え方の問題だ。


「影って人が動くと同じように動くよね」


「当たり前だろ」


「なら、影は体の動きから置き去りにされることは可能なのかということ」


「あ?」


「影と体は連動しているのであれば、影の動きを止めれば必然的に体も動きを止める。という考え方」


 まぁ、光の加減によって上手く使えないけれどね。


「アンジュ!闇の魔術は禁忌とされているから、誰も使わないというのに……ありがとう」


 ん?なぜルディからお礼を言われるのだろう?そして、またしてもぎゅうぎゅうと締め付けられる。

 だから、痛いと言っている!


「アンジュ。他に使えるものはないのか?」


 ルディの腕をバシバシ叩いている私に、ファルはよくわからない事を聞いてきた。何を使うのだろう。私が意味がわからないという顔をしていると、呆れたようにため息を吐かれ


「闇の魔術だ」


 闇?影と闇は同じ??よくわからないなぁ。


 うーん?影移動とか?闇の弾丸とか?ブラックホール!!いや、それは止めておいた方がいい。


「それは攻撃?防御?移動?何が知りたいの?」


「「は?」」


 ルディとファルの声が重なった。いや、私の方が『は?』と言いたい。それを知ってどうするわけ?


「……全部」


 ルディとファルが視線で何かを語っていたが、なぜかルディが答えた。あれ?ファルが知りたいわけじゃないの?

 まぁ、いいけど。


「簡単でいいのなら」


 抱きしめているルディから離れ一歩距離をとり、【影渡かげわたり】と言葉にする。私はどぷんっと足元の影の中に入って行き、ファルが座っているソファの影から出てくる。


「これ、影から影に移動するだけね」


「うぉ!いつの間に背後に!!」

「だけ?いや、かなり凄い」


 続けて、【影槍えいそう】、【闇の断崖だんがい】と口にする。

 足元の影から複数の影の槍を出現させ、飛ばすが、直ぐ前に闇の壁があり、影の槍を飲み込んでいく。


「今のは影から槍を作って、闇の壁を作っただけ」


「だけってなんだ!!黒い壁はなんで弾かないで、吸い込まれていくっておかしいよな」


 おかしい?ファルにおかしいと言われたが、そんなにおかしいことだろうか。

 ああ、攻撃は弾くしか無いという概念が邪魔をしている?うーん?


「闇とか光って形がないから、かなり自由度があると思うけど?」


「自由度?どういうことだ?これはアンジュが創った魔術ということか?」


 ルディが私に近づきながら聞いてきた。あ、しまった。

 私はジリジリと後退する。


 本来は決まった術式の呪文を言ってから、発動キーである術の名称を言うのだ。

 私は思った。それは、こっ恥ずかしいと。


 いや、だって『赤き火よ。火の神イグニスの右手よりいでし赤き火よ。我が右手に現れ燃えゆる赤き火よ。我が前に現れし敵を赤き火で貫き給え。火の矢フォイアーフレーシュ』ってな感じなのだ。


 何度、赤き火といえばいいのだ。うざいぐらいだ。

 恐らくイメージをしやすい文言にしたのだと思うのだけど、こんな長ったらしい文言を堂々と言って打てるのは火の矢、言わばファイアーアロー程度なのだ。恥ずかしい!!



 勿論、発動キーである術の名称のみでも魔術は使える。ただ、私は日本語の方がイメージしやすいのか、初めて使うときは日本語で言うようにしていた。


「アンジュ?」


 背中にトンと壁が当たった。あ、しまった。



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