ルディは私の顔の横の壁に手を付き、私の顔を上から見下ろしていた。形的には壁ドンだけど、目がイッている。私の答えによってはその首を斬るぞと無言の圧力がかかっているようだ。
「え、えーと。例えば火は何色?と問われれば?」
「赤だろ?」
「そう、赤。これに自由度を模索すれば?」
「……··」
ルディはいったい何を言い出したのかと、言わんばかりに眉間にシワを寄せだした。
もう、視線だけで人が殺せそうになっているよ。
「えーと少し離れて欲しいのだけど、【
私は指先に赤い火を灯す。ロウソクに火をともすぐらいにしか使えない小さな火だ。
それの温度を上げていく。すると、色が変化していき、赤から白へ。白から青白い色へ。
その様子を12個の目が見ている。12?周りを見ていみると、ミレーが作業が終わったのかこちらに来ており、シャールとヴィオも戻って来ていた。そして、ベッドの住人であるはずのティオまでここにいた。
「なにそれ!なにそれ!ありえないよ!」
シャールがありえないと騒ぎ立てる。
「な、なんて、こ……神々しいのでしょう」
ヴィオはまるで神に祈りを捧げるかのように、手を組み祈りだした。
「ああ。まるでこれはサントゥアーリオの火ですわ」
そう言ってミレーも祈りだしてしまった。ティオに至っては滂沱の涙を流している。
え?意味がわからない。首をかしげていると、盛大なため息が落ちてきた。
「アンジュ。その火を消しましょうか」
外面のいい胡散臭い笑顔のルディに言われ、青い炎を消した。何故にこんな反応をされるのかさっぱりわからない。
「どうして、赤い火が青になったのですか?」
胡散臭い笑顔のルディに、質問されたが、元々説明はしようとは思っていたよ。
「これ?ただ単に火の温度の違い」
「え?」
「ほぇ?」
「あら?」
「は?」
ありえないと言っていたシャールが、祈りを捧げていたヴィオとミレーが、滂沱の涙を流していたティオが目を丸くして私をみた。
「これだから、アンジュは」
私がなんだって?ファル?
「火は温度によって色が変わってくるよ?それに、火は赤色って教え込まれているから、駄目なだけで、例えば『怒れるイグニス神の青き炎を化現せよ』とかの文言にしてみればいいと思う」
だから、大したことではない。常識の概念というものが邪魔をしているだけだ。
「ちょっといいっすか?」
「なんでしょう?」
ティオが律儀に手を上げて聞いてきた。
「なんで怒れるってなるんっすか?そこは浄き青き火じゃないんっすか?」
キヨキ?浄き……?浄める火ってこと?それだと浄化の意味も含まれるから、聖属性になるよね。そもそもなんで青い火が拝まれているわけ?
「それって浄化される火ということ?」
「そうじゃないっすか?聖女様の聖域って青い炎に囲まれているじゃないっすか?」
いや、そんなこと知らないし。
「その聖域に入ろうものなら骨すらも残らず燃えてしまうって聞くっすよ?」
「は?高温で一気に焼くと骨も何もかも燃えてしまうのは当たり前だけど?」
「え?」
え?って何?
そもそも1万度を超えた火に囲まれた聖域が良くわからないのだけど?
それにその中を突っ切ろうとした奴がいるのか。聖女の……えーっと不朽体というものだったか、死んでも腐らないという聖人の遺体。それを見たかった?いや、そんなことでは命を張らないだろう。何かを手にしたかった?遺髪とか?爪をとか?
ああ、この国の奴らなら有り得そうだ。なら、それを見越して聖女かその周りの者が青い炎で囲ったか。
おお!!これだと辻褄が合いそう!
「ねぇ。200年前だっけ?その聖女様……?の周りに火を使う人はいた?」
「それなら、聖騎士クヮルティーモーガンです。聖女メリアローズの兄です」
胡散臭い笑顔のルディが教えてくれた。兄かー。それならやっぱり。
「じゃ、怒りでいいよね。悲しみ、憤り……ああ、憎悪っていう感じがしっくりくるかも、あと己の不甲斐なさかなぁ」
「わかんないっす」
え?わからないって言うのが、わからないけど?ティオと私は互いが互いを理解不能だという顔をする。
「アンジュがそう思った理由を説明してくれ」
定位置のソファに戻ったファルから言われた。これって説明すること?この話いる?
私が黙っていると、ルディに背中を押され、一人がけのソファに誘導され……なぜここでルディの膝の上に座らされるのか、これも理解不能だ。
そして、他の四人はファルの前に整列する。
「アンジュ。青き炎は聖なる火だ。それを表立って憎悪などというと問題になる」
はぁ。
「青き炎を今まで発現した者はいない。それぐらい神聖なものだ」
はぁ。ファルの言いたいこともわかる。だけどねぇ。
「私ね。貴族も教会も聖騎士も嫌いなんだよね。その人たちの教えで聖女メリアだっけ?その聖女が天使の聖痕を発現したのが10歳で、亡くなったのが18歳だよね」
「あっているが、聖女メリアローズだ」
ファル。私が固有名詞である名前を聞き取れないのを知っているくせに、揚げ足を取るな。
「その8年を短いと思うか、長いと思うか」