「短いだろ?」
「そおっすよね。短いっすよね」
「それが、関係ありますの?」
「ない。全く関係ない」
「あ、あのー。やっぱり短いと思います」
やはり、短いという答えが多い。ミレーとシャールは私の質問が意味をなさないと思ったようだ。
そして、私を抱えているルディはというと、先程から『アンジュに嫌われている。アンジュに嫌われている』と壊れたレコードのように繰り返している。何かいけないスイッチを押してしまったようだ。
ファルを見てみると首を横に振られてしまった。私がなんとかしないといけないのか。
「やはり、アンジュを殺して俺も……·」
それ以上言わせないと、後ろを振り返りルディの黒髪の頭を撫でてあげる。そうすれば、ルディは言葉を止めてしまうことは、10年前からわかっていた。
「アンジュはるでぃ兄のことが好きですよー」
と、へらりと笑う。しかし、視線を合わせてはいけない。人を射殺しそうな目と視線を合わす勇気は私には持てない。
もう、落ち着いただろう。私は正面に向き直ると、ファルがお腹と口に手を当て、
「ファル様、話を続けるけどいい?」
「ぶはっ!あ、ああ。いいぞ。ぐふっ」
本当にファルの笑いのツボがわからない。もう、箸が転がってもおかしいと笑い出すのではないのだろうか。あ、箸は存在しなかった。
「皆は短いと言ったけど、私は長いと思う。200年前の状況はよくわからないけど、周期ごとに聖女が存在するのであれば……うっ!るでぃ兄、力が強すぎる」
後ろから無言でぎゅうぎゅうに締め付けてくるルディに文句を言って、続きを話す。
「今の状況と聖女がいた時代の状況は酷似していると思う。そこに現れたのが10歳の聖女。今、13部隊で回している魔物の討伐に聖女を入れるとすると、聖女は休む暇もなく魔物討伐につきあわされていただろうと推測される」
誰かが息を飲む音が室内に響いた。
「確か伯爵令嬢だったよね。キルクスには貴族の女の子がいなかったから、きっと貴族の令嬢が聖騎士になることは少ないってことだよね。何も騎士として鍛錬を積んでいない子供がいきなり魔物討伐に駆り出されるということは相当キツいと思う。そして、この国だけならいいけどね」
「え?」
ヴィオの声が静かな空間に響いた。
「他国から要請があれば、どうしていたか。無視をしていた?聖女を他国に派遣していた?隣国の巨大な常闇をから出てきたドラゴンを討伐したという『聖女とドラゴン』という物語もあるぐらいだから、各国を回っていたと思う。旅団を組んでか、少数精鋭かは知らないけど。それが何らかの形で死を迎えるまで8年続いた」
聖女の死については、書物には残されていない。ただ、眠るように息を引き取ったと記述があるのみ。
「聖地は聖女の生家とあるから、兄としては妹を家に連れて帰りたかった。まぁ、ここからは私の偏見が入るけど……」
私は一つため息を吐き、一つの予想を口にする。それは私の未来の一つでもある。
「この国の貴族って聖女を神聖視しながら、創り出そうなんて馬鹿なことをしてるじゃない?それなら、聖女の死体から色々むしり取ろうとすると思うんだよね」
「「ひっ!」」
誰かの悲鳴が重なって聞こえた。
「爪とか骨とか髪の毛とか」
うっ!何でいきなりまた締めにかかってきた。
「それは、家族としては怒るよね。誰も入って来るなと、200年経っても燃え続けるって相当の恨みだと思う」
「アンジュの言いたいことはわかった。だが、真実は違うぞ。聖騎士クヮルティーモーガンは聖女メリアローズを殺した。一般には伏せられた真実だ」
ファルのその言葉に思わず笑ってしまった。
「クスッ。ファル様、歴史とは誰が作るものですか?勝者が、生き残った者が、作るもの。私はね。真実はもっと残酷だったと思っていますよ。まぁ、それが真実というなら、それでいいです。青い火のことは今後口にはしません」
聖騎士の兄が聖女である妹を殺した。それはある意味事件だ。だが、私は聖女は自ら命を絶った思っている。自死は神への冒涜とされ、許されざる行為だ。その骸は野ざらしにされ埋葬することを許されない。
それを聖女が行ったとなれば、大問題だ。だから、周りの者か兄が隠蔽したと考えられる。
「その話。私も不可解に思っておりましたの。聖騎士である我々が聖女様の命を奪うなんて恐ろしいことできるはずはありませんもの」
「まぁ、
「あ、そ……そうですね。『天使の聖痕を化現されし、聖なる者を命をかけて守らん』ですよね」
ふーん。これは聖女とは言っていないということは、過去には男性もいたということだろうか。
「私、アンジュさんの話を聞いて思いましたの、家族ってそうあるべきですわって」
ん?ミレーはどうしたのだろう。
「200年も燃え続ける怒りの炎。素晴らしいですわ。私は1000年落ち続ける稲妻を作ってみせますわ」
ミレーの恐ろしい誓いを聞かされてしまった。ミレーはいったい何に恨みごとを抱いているのだろう。