シャールとヴィオが持って来てくれた昼食を、ダイニングの大きなテーブルで食べている。昼食はラタトゥイユのような野菜の煮込んだものと何かの肉を焼いたものとパンだ。
ゴロゴロ入った野菜はいいのだけど、お昼は毎日これだ。確かあちらの世界では軍食に用いられていたようだけど、流石に毎日は飽きる。一週間も経っていないけど飽きる。
いい加減に違うものが食べたい。
しかも、広いダイニングがあるというのに、ここを使用しているのが、ルディとファルだけだ。これはあれか!下民とは一緒に食べれないというやつか!
となると、私もここを使わない方がいいのか?
「アンジュ。さっきの話だが」
ファルは食べ終わり、食後の珈琲を飲みながら、私に話しかけてきた。
私はというと、もう食べれないと拒否をしているというのに、ルディが食べさせようとしているのを押し留めている。
だから、ファルの相手をしている状況ではない。
しかし、ファルは構わず話し続ける。これは、いつもというか、教会にいるときから変わらない行動なので、ファルにとってはどうでもいいことなのだろう。
「真実は残酷だと言った理由はなんだ?」
は?その話をぶり返すわけ?もう、終わった話だし。ルディもファルの言葉に、私に肉の刺さったフォークを突きつけるのを止めた。
「その話は終わったことだから、もういいよね」
「アンジュ。普通は折れた骨は瞬時にはくっつかない。傷を治す聖痕はある。病を治す聖痕もある。だが、折れた骨を治す聖痕は今まで出現していない。できるのは聖女様だけだ」
おふっ!こんなところに落とし穴があったとは、骨は治せないのかー。傷は治せるのに?
「何があったと考えているんだ?」
何があったねぇ。でも、これは私の最悪の予想であり、口に出すのもはばかれるものだ。
「確信がないから言わない。ただ、私の考える結末は聖女の自死」
私の言葉にルディもファルも何も反応を示さない。これは予想されたものだったのだろう。
「きっと聖女を護るという誓いには、聖女の心を護る意味は含まれないのだろうね」
「じゃ、例えばアンジュが考える事がアンジュ自身に起こればどうす「ファルークス!!」……シュレイン。これは聞いておかないといけない」
ファルの言葉をルディは座っていた椅子を倒しながら、瞬間移動でもしたようにファルに詰め寄り、胸ぐらを掴んで言葉を止めるが、ファルは何事もないように言葉を続けた。
「アンジュが何を考えているか聞いておかないといけない」
「ファルークス!!」
私が何を考えているかねぇ。ああ、本当にこの国は嫌いだな。人がうまく逃げようとしていたのに、もう逃げることができないところまで来てしまった。
教会側の決められた行動範囲。神父様からの監視の目。誓約。聖騎士。もう、雁字搦めだ。
「例えば」
言い合っていた二人の視線が私に突き刺さる。
「例えば、私が考える最悪の事態に、私が陥ったとすれば、そうだね。この王都を中心に常闇を開くのも悪くないかもね」
「「は?」」
「冗談。冗談」
そう言って、私はへらりと笑う。でも、多分閉じることができるのであれば、開くこともできるのではないのだろうか。そう、扉を開け閉めするように。
きっと、それはとても面白いことが起きそうだよね。
私は私の言葉に呆然としている二人を置いて、ダイニングを出る。続き扉の向こう側は第13部隊の詰め所と言っていいのかわからないリビングに戻る。そこには食べ終わった4人がテーブルを囲っていたが、3人がティオに片刃になった剣の自慢をしていた。特にヴィオの忍刀推しが凄い。
「なんで、3人共そんな剣になっているんっすか!ずるいっす!俺が動けないことをいいことに新調したんっすか!」
「あ、アンジュさんに作って、も……もらいました」
「ティオも作ってもらえば?」
「でも、ただじゃありませんことよ?」
最後のミレーの言葉にティオが私を見つけて詰め寄ってきた。
「いくらっすか!いくら払えばいいんっすか!」
「金貨10枚」
「……高いっす。そんなに貯めてないっすよ」
金貨1枚が50万
「ティオさん。お金は計画的に使ったほうがいいですよ」
「ぐふっ!!」
「何に使っているか知らないけど、僕が貸してあげようか?500万
「500万ぐらい?!シャール!そんなに持っているっすか!」
「え?使うところなんて、あんまりないよね」
「シャールはお子様っすから」
「なんだってー!!」
何やらティオとシャールが言い合っているので、その隙きにミレーとヴィオに聞いてみた。
「王都で騎士の女性が行くような洋服のお店を教えて欲しいのだけど、できれば安いところ」
切実な問題だ。聖女云々や刀云々よりも私は着るものを得ることの方が先決だった。