朝の揺蕩うまどろみの中、鳥の鳴き声が耳に入ってくる。
『ウッキョー!ウッキョー!』
この耳をつんざくような鳥の鳴き声はここで飼っているのだろうか。毎朝、毎朝、嫌がらせように、叩き起こしやがって!
はぁ、仕方がない起きるか。ここ最近の精神をえぐる攻防を開始する。
「るでぃ兄。おはよう。今日はお休みだから、アンジュ起きたいなぁ」
相変わらず、婚約者だからというわけわからない理由で一緒に寝ているルディに声をかける。
「……·」
しかし、返事がない。無視か!無視なのか!
くそー。昨日の事が尾を引いているのか。
そう、昨日私は言ったのだ休みが欲しいと。冒険者ギルドに預けているお金を取りに行きたいと。もちろん一人で。
しかし、ルディはデートをしようと譲らなかった。だが、私もここを折れるわけにはいかない。
「るでぃ兄。力を緩めて欲しいな。アンジュ起きたいなぁ」
もう一度言ってみるが返事はない。力技でいってみる?しかし、私の身体強化なんてたかがしれている。現にベッドの中で捕獲され身動きがとれないのだ。
そんなにデートというものがしたいのか?昔からルディに連れ回されたが、大抵がルディとファルが受けた冒険者ギルドの依頼につきあわされていた記憶しかない。
私は個人的な私物が欲しいのだ。聖騎士としてここで暮らすのであれば、ある程度の日用品は必要だ。
今は見習い期間で無給だが、3年ぐらいは放浪の旅に出てもやっていけるぐらいのお金は貯めている。
切実に下着と服が欲しい。
ん?ここで腕輪の力を使ったらどうなるのだろう。転移をして一度この場から消えて元の場所に出現する?それとも少しずれて転移される?要は腕輪の近くに転移されるのであれば、この状況から脱出できるのでは?
ふふふふふ。どうなるか試してみようじゃないか。
「何をしようとしている?」
「ふぉ!」
え?私が何かしようとしているのがバレた?目を開けて、人を射殺しそうな視線を私に向けているルディが視界に入ってきた。朝から心臓に悪すぎる。
「るでぃ兄。おはよう。今日は天気がいいよ」
取り敢えずごまかしてみる。
「アンジュ。何をしようとしていた」
騙されなかったか。しかし、なぜわかったのだ?
「何かしようとしてたように見えた?」
「ああ、アンジュが楽しそうに考えごとをしているときはろくな事がない」
「え?楽しそう?私、楽しそうだった?」
楽しそうの割りにろくな事がないとは酷いな。
「で?何をしようとしていた?」
いや、ここで転移をしようとしてただなんて……ん?ちょっと待て、離れると転移をしてしまうのであれば、結局ルディと行動をともにしないといけないじゃないか!!
現実的な問題にぶち当たってしまった。
結局、デートをしないといけないのか。
「今、思い返したら失敗だった。だから、諦める」
「なんだ?諦めてしまうのか?」
なぜ、残念そうに言う。
「はぁ。どうせ、ろくなことがないのよね。私の考えは人に理解されないからいいよ」
ため息を吐きながら言うと、強く抱きしめられてしまった。これ以上強くされると、朝から吐くよ。
「違う。アンジュは目を離すと直ぐにふらふらと何処かに言ってしまう。俺を置いていってしまう」
そんなにふらふらしてないし、ルディを置いていったことなんてない。……たぶん。
「アンジュの行動は予想がつかない。俺がついて行けないとアンジュはそのまま何処かに消え去りそうだ。だから俺にとって、ろくでもないということだ」
そんなに変な行動はしていない。現に神父様には行動が読まれているかのように、目の前によく現れていたし。
「アンジュが居なくなれば俺は生きていられない。生きていけないんだ」
また朝から、くっそ重い言葉を聞かされてしまった。今まで生きていられたのだから、大丈夫だし。はぁ。なんで私なのだろう。
「何度も言っているけど、誓約があるからここから離れられないし、今日はデートなんだよね。早く起きたいのだけど」
するとルディがばっと起きて、私を解放し『すぐに用意する』と言って部屋を出ていった。やはり、デートというものがしたかったのか。
私は起き上がり、ベッドをもそもそと出る。毎朝のこの攻防は精神的に疲れる。本当にルディがわからない。情緒不安定?精神的に病んでいる?私の存在に依存?
10年前よりも酷くなっている気がする。
以前はかなり私が一人で行動することはできたというのに、今は四六時中べったりだ。
私が一人でウロウロできるのが、私の部屋の中とぽつんと一軒家の第13部隊の詰め所の中だけだ。はっ!これはもしかして軟禁というものでは!!
はぁ。この10年の間にルディに何があったのだろう。ファルからは教えてもらえなさそうだしなぁ。この宿舎の中で知っている顔とすれ違うけど、話かけられない。主にルディの威圧の所為で。
私は身なりを整えて、寝室を出ると、私の部屋のリビングに朝食を用意しているルディの姿があった。