「何故、いつもと変わらないんだ?」
私を見たルディの第一声だ。いつもの格好。それは銀髪を邪魔にならないように丸めて一つにして、濃い灰色の隊服を着ている。だから、私は答えてあげた。
「今の私にはこれしか着るものがない。本当は着るものが欲しくて、今日はお金をおろして買い物に行こうと思っていた」
唖然と私を見るルディ。いや、私の部屋の現状を見てどこに私物があるように思えるのか。そもそも、旅に最低限必要な物を入れた背負えるリュック型の袋しか私物がないというのに。
そのルディはというと、いつもの隊服とは違い、シャツにブルーグレーのベストに同じ色のズボンをはいており、とてもラフな格好だった。見た目はいいから、黙って座っていれば黒王子なんてあだ名がつくような佇まいだった。あ、そもそも王族だった。
ルディが突然立ち上がり、ルディの部屋に繋がっている扉から慌てて出ていってしまった。
いったい何が起こったのだろう。
まぁいいか。私は一人で朝食を食べ始める。……なんだか、久しぶりの一人の食事だ。寂しいものだ。さびしい?
まだ、私にこんな感情が残っていたのか。
「だから、無理だって言っているだろ?シュレイン」
ルディが文句を言っているファルを連れて戻ってきた。ファルはいつもどおりの隊服姿であり、今から詰め所に向かうのだろう。
「そもそも、アンジュのサイズの服なんてないだろう?年下のシャールにしたって、アンジュより背が高いぞ」
うっ!ファル、気にしていたけど、気にしないようにしていた事をわざわざ口に出さなくてもいい。
「だから、シュレイン。アンジュはそのままでいいだろう。その代わり服でもなんでも買ってやればいい」
「いや、なんでもはいらないから」
ここはきっちりと言っておかないと、必要ないものまでも買われそうだ。
その後はいつもどおり朝食を食べ……そう、いつもどおりに。
そして、出かけるのに、出かけるというのに…外套を深々と被った怪しい人物がいる。今は夏を過ぎたとはいえ、日中はまだ暑い、隊服でも暑苦しいと思うほど暑い。
それなのに更に暑苦しい格好をした人物がいる。
「るでぃ兄。その暑苦しい外套を脱いでもらえる?」
「いや、しかし」
「はぁ。気にしているのなら、髪の色ぐらいわからない感じで変えられるけど?私が銀髪を灰色にしてたぐらいに、こんな感じに」
そういって私は呪を唱える。
「【光を抑え影を纏え】」
キラキラとしていた銀髪は濁ったような灰色に変化した。知り合いが見ればアレ?と首をかしげる程度だが、知らない人がみれば、銀髪ではなく、程々に存在する灰色の髪になるのだ。
するとルディはフードを外した。10年前は普通にキルクスの街の中を歩いていたというのに、本当に何があったのだろう。
私はルディの頭に手をかざして呪を唱える。
「【天の光と空の青を映し給え】」
濃いめのブルーグレーの色になった。これだと街の中に2、3人ぐらいはいるだろうという色だ。
「ぶほっ!シュレインが普通に」
ルディの姿がファルのツボにはまったようだ。まぁ、大して変わってはいない。素材はルディだから変わりようはないけどね。
ルディは外套を脱いで姿鏡で自分自身の姿を映している。
「まぁ、気休め程度だね。完璧に色を変えてしまうと違和感が出てしまって別人になってしまうからね」
「アンジュ!!」
自分の姿を確認していたルディにぎゅうぎゅうに抱きしめられ、そのまま抱きかかえてしまった。
「ファルークス。後は頼んだぞ」
「了解」
いや、なぜそのまま出かけようとする。私は歩ける。歩けるよ。
そして、私は足が6本ある馬に乗せられ、王都の中を移動していた。流石王都、人が多い。それに今どこにいるかさっぱりわからない。一応、冒険者ギルドの場所も聞いていたけど、目印として言われた物が全くもって見当たらない。
メインストリートと思われる道沿いにある一軒の建物の前で馬が止まった。それは大きな入り口の扉の上に『ジュメイラ』と書かれている看板に、扉の前にドアマンと思われる男性がこの日差しの強い中でピシッと身なりを整えて立っているのだ。どうやらお店らしい。
どう見ても冒険者ギルドじゃない。ここは何処だ!!
「なに?ここ」
「アンジュが欲しいと言っていた洋服のお店ですよ」
ルディが馬から降りながら胡散臭い笑顔で教えてくれたが、私は先に冒険者ギルドに行きたいと言ったはずだけど。
私はジト目でルディを見るけど、ルディはと言うと胡散臭い笑顔のまま私に手を差し出してきた。
「お金は気にしなくても大丈夫ですよ。アンジュの気に入った物を好きなだけ買ってあげますよ」
そんなことを言うと破産するまで買うぞ。まぁ、洋服ばかりいらないけど。
馬鹿な事を考えながら、ルディの手を取り、地面に降り立つ。
洋服……なんだかここ高級そうなんだけど……。