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第51話 使い捨てにされる

 ドアマンに開けられた扉の先の店内に足を向ける。しかし、店内には何もない。ただ大きなカウンターが視界の多くを占め、洋服は見当たらない。後は座り心地の良さそうなソファとローテーブルがあるのみだ。

 この洋服店の仕組みが私には全くわからない。


「ようこそお越しくださいました」


 人の良さそうな初老の女性が店内を見渡している間に現れていた。


「彼女に似合いそうな洋服を一通り揃えてくれ」


 あれ?ルディの顔はいつもどおり胡散臭い笑顔だけど、話し方が違う。これは貴族が下々に対する対応か。


「まぁまぁ、お嬢様のご洋服を?おまかせくださいませ。さぁ、お嬢様こちらへ」


 私は初老の女性に連れられて奥の部屋に行くことを促された。そして、閉じられた扉に鍵を掛けられた。鍵?


「大奥様。次の客って?」

「また、出来が悪い娘が来たわ。貴族の哀れな子羊ちゃんよ。」

「またー?適当に洋服選んじゃっていいですかー?」

「いいわ。どうせ、直ぐに新しい娘に代わるのだから」


 なんか感じがよくない。恐らくファルのお勧めの店なんだろう。だけど、気になる言葉があった。


「新しい子?」


「あら?聞いていたの。盗み聞きだなんて、意地汚い。そんなことしてるから、追い出されるのよ」


 いや、お前ら私の前で堂々と話していたじゃないか。


「大奥様。教えて上げればいいじゃないですか、いいように使われてボロ雑巾のようにボロボロに使い捨てにされるってね」

「ホホホ。所詮貴女なんて子羊なのよ。ああ、適当にここからここまでの子供用の服でも渡しときましょう」


 ああ、大体は理解した。子羊ね。

 私は踵を返して、閉じられた扉の方に向う。


「クスクス。そこからは出られないわよ」

「ホホホ」


 私は鍵のかかった扉に手をかけて、小声で呟く。


「【解除】」


 すると、一斉にあちらこちらの扉の鍵が解除される音が響き渡る。


「え?何?何の音?」

「何かしら?」


 私は堂々と扉から外に出る。ルディはというと、座り心地の良さそうなソファに座ってくつろいでいた。


「早かったですね」


 胡散臭い笑顔で言われた。そのルディにカツカツと近づいていき


「ここには私の気にいるものはないので、他のところがいいです」


「では、他のところに行きましょう」


 ルディは立ち上がって私の手をとって出口に向かって歩きだす。


「お待ち下さい!」


 初老の女性が追いかけてきたが、ルディは胡散臭い笑顔を浮かべながら言った。


「彼女が気に入るものが無いというから仕方がない。今回は縁がなかったということだ」


 ルディは私を抱えたまま馬に乗り、店を後にする。そのルディに一枚の紙を手渡す。


「ここに行って欲しい」


「構わないですが、何かありましたか?」


「何も」


「何も無いのに直ぐに出てきたのですか?」


「あそこって、私の様な者が行くところなんでしょ?」


「どういう意味です?」


「どういう意味もそのまま、店を教えてくれた人に聞いてみればわかるよ」


「……·」


 この感じだとファルからじゃなさそうだ。いったい誰から教えられたのだろうか。

 いや、貴族ってたしか屋敷に商人を呼んで買い物をするって聞いたな。ということは、貴族じゃない人から?

 でも、店の人は私のことを貴族の哀れな子羊と言っていたからルディを貴族と……いや、ちょっと待て。

 今のルディは貴族らしい服装かと問われれば、教会に来ていた貴族とは全く違う。どちらかと言えば従者の格好に近い。

 従者が哀れな子羊を主人の前に連れて行く前に洋服を揃えようとしているように思われた?ありえるー。





 ミレーとヴィオのお勧めの服店は普通だった。若い姉妹がやっている洋服店だった。


「まぁまぁ、これもいいんじゃないお姉ちゃん」

「これもいいわ。あ、これも」


 店に入った早々に店員である姉妹にひっぱられ、店にある洋服を当てられ、これがいいあれがいいと言われ続けている。


「私は動きやすい服を」


「駄目よ。女の子なんだから可愛い服を着ないと」

「そうよ。この清楚系ワンピースなんて似合いすぎ!」


 いや、そんなワンピースなんていつ着るんだ。ルディはと言うと姉妹が私に当てていった洋服をすべて買おうとしている。そんなに洋服はいらない。


「あのー、洋服は5枚までに抑えてもらえますか?そのうち3枚は動きやすい服装で」


 そう言うと3人から睨まれてしまった。


「アンジュ。すべて買ってあげると言っているではないですか」


 だからといって山のように洋服ばかりはいらない。


「可愛いものが2着だけなんて少なすぎよ!彼氏さんが買ってくれるというなら甘えておきなさい」


 いや、ルディは彼氏ではない。上官であり婚約者であることは認めるが、彼氏ではない……はず。


「そうよ。レースたっぷりのこの服なんて似合いすぎ!」


 妹さん。私の目にはロリータファションにしか見えない。なぜ、それにストッキングとパンプスを合わすのか。そのタイプのロリータファションにはニーハイに編み上げショートブーツが似合う!


「す、素晴らしいです!これでいきましょう。この組み合わせで!」


 はっ!違うー!!私は動きやすい服装の物を!


「アンジュ。着てみてください」


「いや」


「「さぁさぁこちらへー」」


「いやー!!」


 私は両腕を姉妹に抱えられ奥に連れて行かれるのだった。


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