十六年後。
カムナビ国。
夢を見ていた。
過去の自分自身の夢だ。
かつての自分と、それからこの世界に生まれ落ちた日の夢だった。
その夢の中で、くぐもった様な声が反響して聞こえてくる。
不快感はなかった。
むしろ
声はこちらに言葉を投げかけているようだ。
けれどふわりとした感覚の中で、確かな意味を持った言葉として捉えることが出来なかった。
そうして妙な心地よさに身を委ねながら少しばかり大きく息を吸い込むと、花のような香りと鼻先をくすぐる様な感触があった。
(……なんだ……?)
そのむず
「
「起きて、
頭の上から顔を覗き込んでいる少女、
先ほどから鼻をくすぐっているのは、覗き込んでいる彼女の髪だ。
まだ幼さの残る
赤みの強い
眉が隠れるほどの長さで揃えられた前髪と、胸の高さまである栗色の髪。
両サイドの髪は顎の高さほどに切り揃えられ、深い赤の髪紐で纏められている。
その脇からは彼女の4つ下の
少し気弱だが頭が良く、姉と同じく心優しい少年だ。
ちょっぴり泣き虫なあたりが生前の自分の幼いころを見ているようで、桃にとってはなんだか親近感の湧く子だった。
訓練中一息つこうとしていたのだが、いつの間にか眠ってしまっていたのだ。
「すみません、寝てました」
「お父様がお呼びよ」
気恥ずかしげに言った
それを聴いて、
「そうでしたか。起こしてくれて助かりましたよ」
「気持ちよさそうに眠っていたから、少し気が引けたんだけれどね。 あら、少し髪が乱れているわ。結んであげる。」
そういって彼女はそそくさと後ろに回り込むと、一旦
鍛錬後だから汗をかいていないかと
「はい。これでいいわ。」
そういって
そこには
かつてとは髪も顔も、目の色も違う姿がある。
美醜感覚で言えば、そこそこイケている顔だろうと、
「これ、ちょっと俺には可愛すぎやしません?」
「あら、たまにはいいじゃない。似合っているわ。」
「おそろいね」なんて言ってくるあたり、少し遊んでいる節がある。
そんな少女の無邪気な様子に、
「それあげるわ。あなたいつも似たような髪紐だもの。折角綺麗な髪をしているのだから、少しはお洒落してもいいと思うの」
「そんなもんですかね。まあ、ありがとうございます」
「姫様たちも呼ばれてるんですか?」
「いいえ?でも
そういって
姉の真似をしたい年ごろなのか、
「まあ俺はいいですけど、面白いものでもないでしょうに……ふぁ……」
不覚だった。
そこまで激しい訓練はまだしていなかったはずだが、まだ眠気が少し残っていたのか
「
「いやいや。
「あ、やっぱりお兄様は呼び捨て!私や
拗ねたように少しだけ頬を膨らませ抗議する彼女だが、
そして
今から十六年前、あの時産声を上げなかった赤ん坊の身体に自分が宿ってしまったのが始まりだった。
赤ん坊は
そして
領主の家臣の子として引き取られた以上
様付けが当たり前なのである。
唯一彼女の兄である
前世で死んで、この世界に来て、何の因果かこの体へ乗り移った事に、桃は未だに罪悪感を抱いていた。
なにせ本来はこの体の持ち主の人生だったはずだ。
――もし自分がこの体に成り代わっていなければ。
あのまま助かる可能性は限りなく低かったとしても、もし助かっていたらを考えてしまうのだ。
それが今更どうしようもない事だという事も、
成り代わってしまったものは仕方がないと割り切ればいい事なのだろうが、
「御館様。
「おう、入れ」
眠りこけていた縁側の一角と領主の部屋はそこまでは離れていない。
桃は到着するなり襖越しに声をかける。
桃の言葉に対して低く響く深みのある声が返ってきたのを確認して、桃はゆっくりと襖に手をかけた。