片や
彼らは
そしてそれに対峙するのは、
数は劣るが背後に拠点のひとつである川崎城を背負い、大将の
双方川を挟んで睨みあったまま、朝から数刻にわたり動かずにいた。
「……思ったより、数が多いな」
「それだけ敵さんも本気って事だろうよ。奴さん、自分たちの手勢だけじゃ足りないと判断して他所から兵を募ったらしい」
呟いた
彼は前回と同じように
その気配と声に、
「父上……。けど、今更
先の矢車城の戦において、
領主と
元々領主を裏切ったという事で、
矢車城の戦の前のように、
しかしその健在が明らかになり、しかも
領主の敵となれば逆賊となるのは必至であり、まして勝ちの目をひっくり返されかけているとなれば、
そんな
「考えられる相手は幾らかいるが、一番可能性が高いのはお前たちが遭遇したっていう面頬の武者の勢力か」
「あいつらの……、そういえば、あの時の盗賊連中、
「そうだ。奴らの装備は
「てことは、あの時の連中と面頬の武者たちは」
「同じ勢力の人間の可能性がある。って事だぁな。なにかしらの利益があって、奴らに力を貸すような連中がいるって事だ」
「もしかして、それって……」
そこまで聴いて、
河童兄弟が妹を襲撃した際も、面頬の武者の襲撃の際も、敵の狙いは桃である可能性が高かったという。
少し前に聞かされた、桃の出生と力の話。
それを聴いた時は驚いたが、彼に対する見方が変わるわけではなかった。
むしろ、彼に感じていた底知れなさの正体の一端を知れた気がして、安心したくらいだ。
しかしそれは身内である
桃自身が言っていた通り、その身分や力を利用しようとする勢力がいる。
(……もしかして、桃を欲しがってる連中が、
到達したひとつの推論。
もし彼らの狙いが桃の身柄なのであれば、猶更負けるわけにはいかない。
「考えるのはそこまでだ、
黙り込んだ
そしてその背を叩くと、黙って正面の川向うに目をやった。
「仕掛けてくるようだ」
聴こえるのはざぶざぶと水をかき分ける軍靴の音。
陽の光に反射して煌くその飛沫が、敵勢の多さを物語っている。
川を挟んでの対峙の場合、先に仕掛けた方が基本的には不利。
しかし相手は、それすら覚悟した上だろう。
「気を引き締めろよ。骨の折れる戦になるぞ」
「――ああ」
それを守る様に、
「……負けらんねぇ」
緊張で乾いた唇を舐め、
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ぬぅん!!」
鬨の声を上げながら向かってくる敵兵へ、酒呑童子は馬上から大槍を振り抜いた。
その一撃の動作で、目の前の敵が纏めて吹き飛んでいく。
しかし
「……へぇ」
その様子に、短く感心したように酒呑童子は声を漏らした。
先の戦ではいいように手玉に取られていた相手の軍勢は、今回は士気高くこちらに立ち向かってくる。
そしてどうやら彼らを率いる将もまた、
川岸で互いに陣取っているとき、ちらりと顔を確認したが、あれは妖怪だ。
それも、自分の見知った相手だ。
「やあああああ!!」
「ふん!!」
騎馬で突進してきた槍兵の槍を掴み上げ、酒呑童子はそのまま相手を持ち上げる。
そのまま掴み上げた槍ごと相手を振り回して上空に放り捨てると、騎首を向かってくる敵勢の波へと向ける。
その様子を見て、
「酒呑!どこへ行く!」
「敵が勢いづいているからな。俺は敵の中央で暴れて注意を集める。婆さんは女狐殿の御守りを頼む!」
「勝手な事を……」
「なあに、心配すんな。敵さんの将を倒せば勢いも削げるさ。頼んだぜ婆さん!」
酒呑童子はそのまま騎馬を駆り、敵勢の、川の最中へと飛び込んだ。
向かってくる、あるいはすれ違う敵兵を木偶の如くなぎ倒しながら酒呑童子は雄たけびを上げた。
「命が惜しくば退けぇい!!天下御免の浮浪雲、酒呑童子様がお通りだぁ!!」
「くっ……!!怯むなかかれ!奴を止めろォ!!」
「はっはっぁ!!いいねぇその意気、骨があるのは好きだぜぇ!!」
馬に刎ね飛ばされかねないと、敵兵が埃を吹き分けるように散った。
それでも武器の矛先は此方に向けたまま。酒呑童子はその様子に心底楽しそうに駆け抜けた。
その疾走を、止めたのはひとつの大きな影だった。
「!!」
酒呑童子がそれに気づいて、馬上から飛ぶ。
それと同時に、彼の乗っていた馬は危機を察したように一目散にその場を逃れた。
酒呑童子はそのままざぶんと音を立てて川の中へと着地すると、上から来るであろう衝撃に備えた。
上空から武器を叩き下ろしたその影の一撃を大槍で受け止めた酒呑童子の身体が、僅かにその重さで沈む。
まるで家が倒壊したような轟音が響いて、周囲の川の水が波打つ。
その重みに耐えきれなくなった川底が沈み、ひび割れて浮き上がるのが分かった。
周囲の兵がどよめく。
しかしそのどよめきは、酒呑童子を妨害した影の正体を見て歓声へと変わった。
「っははぁ、危ない危ない。よお。久しぶりじゃあねえか。
「そうじゃなぁ。伊吹の。いや、酒呑童子と呼んだ方がよかったか」
現れたのは、牛のような角を生やした大女であった。
手には金棒。酒呑童子の持つそれよりも細身ながら、長く、棘も多い。さながら茨のようだ。
胸元を大胆に曝け出した女は着流しに身を包んでいたが、しかしそこから除く手足は無駄のない筋肉によって覆われており、まるで肉食の獣のようでもあった。
背丈は酒呑童子以上に高く、身の丈2メートルを超える彼の更に頭ひとつ分は大きい。
「いんや。しかし鬼人のお前が人間に付くとはな。
「お主に話すことは無いな。わしからすれば浮世の雲の如く自由を謳歌するお主の方こそ、意外だよ」
「知っての通り、俺は自由な男なんでな。気の向くままに動いたらこうなったってだけさ。で、お前何しに来たんだ?再開を祝して飲み明かそうって訳じゃあないだろ」
「馬鹿を言え。貴様の酒に付き合うては体がもたぬわ。分かっておるだろう。貴様を叩き潰しに来たのよ」
「そいつぁ重畳だ。お前との戦を楽しめるんならこの戦、それだけで釣りがくる」
「抜かせ。楽しむ余裕など与えんよ。その頭蓋、粉々に叩き砕いてこの川へ曝してやろう。お前たち!!この男は私の獲物だ!手を出すなよ!」
「いいね。これを味わえるから、戦は面白い。さあ、楽しい一騎打ちと行こうぜぇ!!」
戦場で二人の鬼が対峙する。
その暴威は周囲の兵士を巻き込みながら、両者共に牙を剥き、互いの喉を食い破らんとその眼を