(全く、派手にやりおって)
轟音と共に上がった水飛沫へ目を向けて、
派手に名乗りを上げながら突っ込んでいってくれたおかげで、一気呵成に此方へ向かってきていた敵兵の注意が逸れた。
加えて酒呑童子が敵の最中で暴れている事で、陣形が乱れている。
あのままであれば奥まで押し込まれていた可能性もあった為に、今はあの力強さが心強い。
「
護衛の兵の一人が、声を掛けてくる。
敵兵の士気は高く、その勢いは力強い。
「わかった。しかし数で勝る我らがここ迄押し込まれるとはな」
「それだけ敵方も必死なのでしょう。さあ、こちらへ」
「必死か。確かにな」
こちらの兵が降らせた矢の雨もお構いなしに、目の前で味方が撃ち抜かれてもその歩みを止めることはしなかった。
酒呑童子が飛び込んでいったのは、そんな兵達の最中だったわけだが、さすがにこれには敵兵も驚いたらしい。
無理もない。
たとえ一騎当千の強さを持った将でも、万の兵には押し潰される。
其れすら関係ないと単身突撃してきた酒呑童子のその行動は、彼の性格を知らねば敵味方を問わず正気を疑う事だろう。
おかげで動揺した敵の陣形が割れて乱れた。
高台から戦場を望めば、乱れた敵の陣形がこれまで以上に良く見えた。
(……陣形が伸びているな……)
「
「お呼びでしょうか」
「酒呑童子が暴れてくれているお陰で、相手の陣形が乱れている。其方は別動隊を率いて川を迂回し、向こう岸の相手の陣の側面を突け」
「前線の維持はいかがしましょう」
「我が夫と
「承りました。では」
「頼んだぞ」
酒呑童子があまりに派手に暴れる為に目立たないが、
酒呑童子もまた、領主の座を追われた
敵の迫る矢車城で、彼らの存在がどれほど心強かったことか。
「……二人とも、無事で戻れよ」
勢いづく敵を抑える為に危険へ飛び込ませてしまうことになる二人を、
それでも信じるのが領主の務めと、その重みを背負って彼女は再び戦場を見つめた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「んぬぉぉおおらあ!!」
前線に立つ
しかし敵の勢いは衰えることなく、攻められる側となっている
「こいつら、前回とは大違いだ!数じゃこっちの方が上だってのにっ!!」
迫る敵兵を突き殺し、或いは馬上から叩き落し、薙ぎ払って両断する。
矢車城の時とは兵の目の色が明らかに違っていた。
今戦っている彼らは正真正銘、
正真正銘、
(――
風見鶏の様に情勢を見てどちらに付くか決める事は、なにも悪い事ではない。
むしろ家族や家を守るために誰もが取る選択肢だ。
だからこそ、その誰もが取る選択肢をあえて取らずに覚悟を決めた者達は恐ろしい。
(俺には、分からねぇ)
実の兄弟を裏切るなど、始めはなんて碌でもない奴だと思ったのが正直なところだったからだ。
しかし当の
――私は、裏切られても仕方ないと思っているよ。お互いに守りたいものがかみ合わなかった。それだけの事だ。
(
それが
或いは単純に、彼の境遇や人柄がそうさせているのか。
「――いや、比べるもんじゃ無ぇな」
家族を守る。
民を、将を、父や妹を、親友を守る。
大切なものを守りたいのは、
同じだからこそ、その意思と覚悟を尊いと思うからこそ、戦うべきだ。
その重さや尊さに、きっと違いなど無い。
「おおおおぉぉおおお!!!」
突き込まれた槍を掴み、敵兵の身体を吹き飛ばす勢いで槍を横に薙ぎ払う。
馬を転進させ、さらに並居る敵兵の最中へ馬の腹を蹴って突き進んだ。
その様子を、陣立ての中から
「ったく、叫びゃあいいってもんじゃねぇぞ」
口ではそう言いつつも口角を上げながら
「頼もしい限りですな」
そう言って幹久は矢を番えると、
「お前がそうやって危ない所を射抜いてくれてるからいいが、あいつは張り切り過ぎだ」
「ほほ、
幹久が矢を迫る兵に、矢を射かけながら懐かしむように
それを聴いた
「しかし、敵さんの勢いは衰えずか。
振り返らずに言った
桃は城に火を放った後、その足で部隊を再編成し此方へ合流するらしいと、
「今しがたこちらにも
「城に火は?」
「そちらも滞りなく」
「なら、急ぎ狼煙で合流地点を伝えろ。桃の軍と合流後反撃を始める。お前は合流地点に回り込んで道を確保しておけ」
「畏まりました」
音も無く
何人かの将には、崩れかけた前線の維持に回ってもらっている。
桃の任務が完了した報を確認し、裏も取れている今、合流は時間の問題だ。
押されているとはいえ
あの状況で
彼女の夫である実弟、
「さて、俺も合流の準備をしないとな」
供の兵を呼んで、
そして槍を手に、