今日も僕はサヤとウィニと揃って冒険者ギルドにやってきた。
僕とサヤは今日の依頼をこなせば晴れてDランクに上がるはずだ。Eランクの依頼を受けて、今日で10回目となるのだ。いつも以上に気合いが入る。
街のいろんな場所で依頼を受けてきたおかげか、街の人にも覚えてもらえたようだ。こうやって人との繋がりが出来ていくんだな。縁を大事にしないとね。
ウィニは今日は依頼はせず、師匠のところに行くらしい。最近のウィニも、以前のようにぐうたらしているばかりではなくなった。
ギルドに入っても縮こまることはなくなったし、本人も何か思うところがあるらしく、師匠に教えを受けているところを度々見掛けるようになった。
……たまに居眠りして怒られてるけどね。ウィニらしい。
そんなウィニと別れ、僕とサヤは依頼掲示板に直行する。
どれがいいか吟味していると、横から近づく人影があった。
「ようクサビ! とサヤちゃ~ん! 依頼は決まったか?」
「あっ、ビルトンさん! こんにちは!」
「……こんにちは。」
話しかけてきたのは冒険者五年目でCランクのビルトン・クリプトンさんだ。
中肉中背で、特徴的なもみあげが素敵なナイスガイのおじさんだ。ちなみにナイスガイとは自称である。
僕には普通に接してくれるのだが、サヤに対しては少々ねちっこく絡んでくる為、サヤにはあまり好かれていないのだけど。サヤに限らず女性陣には割と避けられてるみたいだ。
面倒見は良いんだけど、女性への接し方が悪いんじゃないかと思っている。悪い人じゃないんだけどなぁ。
最近になってビルトンさんのように声を掛けてきてくれる冒険者が増えてきたんだ。毎日通っていれば顔も覚えられる。
もしかしたら一緒に行動することもあるかもしれないし、こういう人付き合いは大事だ。とは受け付けのヴァーミさんの受け売りなんだけどね。
「サヤちゃんはどんな依頼を受けるの? 手伝ってあげよ――」
「――ビルトンさんは今日は依頼ですかっ?」
サヤに絡もうとするビルトンさんに割り込んで会話を打ち切らせる。サヤは僕に目配せすると、受ける依頼をカウンターに持っていき、さっさとギルドを出ていった。
「あ〜行っちゃった。……まあ、そうだな。今日は依頼行くつもりだぜ」
「へ、へー! Cランクだと凄い依頼いっぱいあるんでしょうね〜! ビルトンさんすごいなぁ!」
とりあえずお世辞を織り交ぜた当たり障りない会話でサヤから引き剥がすことには成功したので、僕も依頼を受けて早いとこ出発しよう。
受ける依頼を決めてカウンターで受注した後、僕もギルドを出ると外の建物の角でサヤが待っていた。
少々不機嫌なご様子……。
「クサビ! ああいうのは相手にしなくていいの! 話しかけると面倒なんだから!」
僕が怒られてしまった。人付き合いって難しい。
「でも……守ってくれてありがと」
サヤが目を逸らしながら汐らしくなった。
僕はついその珍しい姿に思わず吹き出してしまった。
「な! 何笑ってんのよバカクサビ!」
「いてっ……ごめんって!」
……どつかれた。
サヤが子供っぽく怒っている。なんかこういうところ見るのは久しぶりだ。
少し平和だった頃に戻ったみたいで少しの寂しさと懐かしさを感じた。
「……それじゃ、わたしはこっちだから。アンタも頑張んなさいよ」
「うん。ありがとう。また後で!」
去っていく直前、サヤが一瞬微笑んだのが見えたが、直ぐに行ってしまった。
……さて、僕もいきますか。
僕が受けた依頼内容は――
――ボリージャ守備隊詰所の雑務
ボリージャの北門の守備隊の詰所にて雑務に従事していただきます。作業完了で依頼達成とします。
報酬 銅貨5枚 依頼者 ボリージャ北門守備隊 レッテ
というものだ。
先日同じような依頼を受けたことがあるので、場所は分かるし受けやすかったのだ。
程なく、北門の詰所に到着した。ここは僕とウィニが初めてボリージャに来た時に通った門がある方だ。
「こんにちはー。ギルドから依頼を受けて来ました、クサビ・ヒモロギです!」
「うん? ……ああ、君はこの前も来てくれた子ね! またよろしくお願いね?」
「こちらこそ! 今日は何をしますか?」
出迎えてくれたのは依頼者のアルラウネのレッテさんだ。ここの責任者だそうだ。
レッテさんはアルラウネだが、人間部分が多く、葉っぱのような鮮やかな緑の肌に、僕と同じ青髪をなびかせて、フリージアの香りがほのかに香る綺麗な人だ。
「今日は武器の手入れと、門の壁の修繕を手伝って貰いたいの。先に武器の手入れをしてもらって、人が集まってきたら壁の修繕のお手伝いをお願いね」
「わかりました!」
僕は武器の保管室で作業を開始した。
色々な武器が保管されているが、主に置いてあるのは槍だ。僕は一つ一つ丁寧に手入れしていった。
そして黙々と作業をこなし、2時間後には全ての武器を手入れし終えた。僕はふぅ。と一息つく。
レッテさんに報告しに行く。
「あら、もう終わっちゃったの? ありがとう! ……でもまだ人が集まってないのよ……。そうね、それじゃ人が集まるまでゆっくりしていていいわ。お昼ご飯買ってきてもいいし」
と、言うわけで僕は近場で軽食を買って詰所の外の適当なところで食べながら待機していることにした。
――だがそれは突然の出来事だった。