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Ep.61 希望の黎明

 ――時間が少し経過した頃、ようやくサヤは怒りを収め、ウィニはしこたま怒られてなんとか許された。

 食べ物の恨みは恐ろしいのだ。ウィニよ。それを学ぶのだ。



 僕は場の雰囲気を変えるために、話題を変えようと思って口を開いた。


「そういえばさ、僕達のパーティ名ってまだ決めてないからさ、今決めちゃおうと思うんだけど、どう?」


「そういえばそうよね。決めちゃいましょうか」

「はぃ。わたしも賛成……です……」


 ウィニは随分懲りたみたいだね……。もう人のものは勝手に食べない事を願うばかりだ。


 気を取り直して、僕達はいい名前がないか話し合う。


 ……とは言っても、漠然と名前決めよう! と言われても思いつかないよな……。うーん。


 食後のお茶を楽しむチギリ師匠が見守る中、僕、サヤ、ウィニは唸る。

 ここに来るまでに会ったパーティだと、エンデレーン検問所で別れた風の旅人の3人だけだ。

 風の旅人かぁ。自由に旅する感じが出てて良い名前だなあ。


 そう考えていると、サヤが手を挙げてもじもじと声を上げた。

「なら『楔の守り人』とかどう……かな?」


 楔とは、僕とサヤの故郷に伝わる道具だ。それを用い木石を割り広げたり、重い物を押し上げたりする。


 僕の名前の由来にもなっているものだ。両親は、楔のように運命も切り開いていけるような子に育つようにと願いを込めて名付けたのだとか。


「楔の守り人か。……って、これじゃ僕を守る人って意味じゃないか!」

 自分の名前がパーティ名に入ってるのも落ち着かないけど、守られてばかりみたいでかっこ悪いじゃないか。

 今はそうでも、いつか誰かを守れる人間になりたいな。


 サヤは顔を赤らめて、上目遣いで僕を見る。

「う、うん。私……クサビの事これからもずっと守っていくし…………」


 なんか変な空気になってしまって気恥ずかしい。師匠が今お茶を吹きそうになったのは見なかったことにしよう。


 今度はウィニが手を上げる。

 立ち直ったようで随分自信ありげである。


「さいきょうウィニエッダとお供たち!」

 席から立ち上がって久々のドヤポーズダブルピースバリエーションでウィニが自信満々に披露した。


「却下だね」

「うん。却下ね」

「んな!」



 ……これは難航しそうだぞ。

 僕も何かいい名前がないか捻り出す。


 うーん。魔王討伐隊……いや目的だとしても安直すぎる。

 それなら……。伝承捜索団…………これじゃ同レベルだ却下だっ!


 うーんうーんと唸る僕達に、興味深げに見ていた師匠が助け舟を出した。


「目的から連想するのもいいだろう。もしくは発想を転換し、求めるものから着想を得るなどだな。例えばだが君達の目的は魔王討伐だろう。闇をもたらす魔王を討伐すると言うことは、言い換えれば人々に陽の光を取り戻すという事だな」


「なるほど……」


 陽の光……。太陽……。

 僕は記憶を巡らせて言葉を探し出す。



 故郷の朝の情景。夜明け前に高台に登って眺めた黎明の光は凄く美しかったな。


 次に思い浮かべたのは…………


 ――炎にまみれる故郷。

 無惨に倒れる顔見知りの人達……。父さんの最後の穏やかな顔――


「……っ!」

 僕に顔に苦悶の表情が浮かぶ。思い出したくない記憶が潜在的に染み付いていて、呼び起こしてしまったのだ。

 その記憶を辿る旅は止まらない。


 ――母さんと逃亡した高台。崖に追い詰められ僕を庇う母さん……。そして母さんの言葉――


 ――――「クサビ……。その……っ……解放の神剣は……はぁ……はぁっ……魔王を討ち果たす事ができる剣と……伝えられているわ……くっ……! その、剣こそが! 世界の希望……っ」――――


 母さんのこの言葉が今でも鮮明に焼き付いて離れない。


 …………。

 その時、僕の頭の中に一つの言葉が浮かび上がった。



「――希望…………」

「……え?」


 僕はいつの間にか閉じていた目を開け、思考を現実に戻す。


「――『希望の黎明』……ってどうかな?」

 口に出してみると、どこか腑に落ちたような心持ちを感じた。


「解放の神剣がこの世界の希望だと言うなら、僕はそれを携えて魔王から人々に光を取り戻したい。平和な夜明けを見せたいんだ」


「それで希望の黎明……。…… うん! 今の私達にピッタリだわ!」

「おぉ。やるな、くさびん」


 二人とも賛同してくれた。

 師匠も頷いてどこか満足そうな表情を浮かべている。

「なかなか良い名だな。その名の通りの活躍をいつかしてほしいものだね」


「よし! じゃあ僕らのパーティ名は、希望の黎明だ!」

「ええ!」

「ん!」


 早速登録してくるわ! とサヤはカウンターに向かった。

 僕も皆の心が一つになったような一体感と、決意を確かめた高揚感で熱に浮かされる感覚を覚えていた。


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