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Ep.64 Side.S 情報屋を探して

 今日は一日休みにしようと皆で決めた。


 目が覚めた私は今日をどう過ごすか考えていた。外はいい天気だし、何かしてないと落ち着かない。

 とりあえず朝ご飯でも食べながら考えよう。


 クサビは今日はどうするのかな。


 同じ部屋のウィニはまだすやすやと丸まって眠っている。休みだし起こすのも悪いわね。このまま寝かせておこう。


 私は身なりを整えて部屋を出て、隣のクサビが借りている部屋をノックした。


 だけど返事はない。まだ眠ってる?

 ……少し迷ったけどそっと開けてみた。


「……クサビ、寝てるの?」


 部屋にはクサビは居なかった。私は少し残念な気持ちになりながらドアを閉めて外に出た。



 なんとはなしに外に出て辺りを見渡してみる。

 まだ人通りは緩やかで街の活気も少しいつもより穏やかだ。


「アイツは……いないか…………」


 気がつけばクサビの姿を探していてその度になんだか残念な気分になった。……本当に何処行ったのよ。


 最近のクサビは村にいた頃のような頼りなさはなくなり、その背中に頼もしく思うことも多くあった。

 剣術の面では私の方が上だし、たまに抜けている事もあるけど、変わったなって思ってる。



 のほほんとしてたあの頃のクサビは、なんかほっとけなくて私がいないとダメだと思ってたけど……


 ……もしかしたら今は私の方が、クサビが居ないとダメになっちゃったのかもしれない……なんて。

 いや、同郷だし、幼馴染だし、それで気になってるだけなのかもしれないし。……でもそれ以前から私はアイツの事を――



 本当は気付いて欲しい私の気持ちを、自分自身で暴いては恥ずかしくなる。そしてそんな自分に、何をしてるのかと我に返ると自然と溜め息が漏れた。


「…………はぁ」


 アイツ鈍いから、きっと気づかないんだろうなぁ。


 ……頭がモヤモヤするわ。何処かで朝食にしよう。

 悶々とする自分に喝を入れて、私は外に繰り出した。



 北門の近くにある小さなお店にやってきた。

 ここは朝から食事ができて、手軽なものがすぐに出てくるから一人で来るのも気楽で入りやすいお店だ。


 人間族の、人の良さそうなおじさんが店主で、配膳はアルラウネの子が元気に働いている。雰囲気も明るくて好きだ。


 中に入ってカウンター席に着く。中のお客さんは疎らだ。落ち着いて食事するには丁度いい。



「はいっ! どうぞーっ」

「ありがとう!」


 朝食はポトフとパンを注文した。ここのポトフは少し薄味だけどほっとする。

 配膳の子が持ってきてくれて、ポトフを口に運ぶ。


 朝食を味わっていると、近くに座って食事している二人組の若い男性の会話が耳に入ってくる。


「――なあ、最近この街に情報屋が滞在してるらしいぞ」

「情報屋ぁ? そんなに話題になるほどのものかー?」


 私はつい二人の会話に聞き耳を立ててしまう。

 商人のお父さんが言っていた、周囲の会話には聞き耳立てよとの教えの影響だ。情報は武器となり得るからね。


「なんでもその情報屋、帝国の方から来たんだってよ」

「帝国っていや、魔族の侵攻が激しい所だろ」


 魔族の侵攻を食い止めている、リムデルタ帝国の話をしているようね。

 最前線がどんな状況なのか、知っておく必要があるかもしれない。


「噂だとその情報屋、帝国から神聖王国経由で南からここまで陸路で来たとかいう話だぞ」

「ほー。そんな遠回りしてきたのか? なら魔族の状況とかいつの情報になるんだかわかんねぇな!」


 ……なるほど。サリア神聖王国を通って陸路でボリージャまで来たという事は、私達が行こうとしてるルートと同じね。

 何があるのか聞いてみるのもいいかな。

 情報屋か……。どこにいるのかしら。



 私は食事と勘定を終えて、さっき話していた二人組の男性に話を聞いてみる事にした。


「あの、すみません。さっき情報屋と聞こえたのですが、どこに居るのか知っていたら教えて頂けませんか?」


「あ、ああ……。噂なんだけど、歓楽街の入口付近に居るらしいよ」

「君、情報屋に用なのか? でも女の子一人で歓楽街の辺りを彷徨くのはお勧めしないぜ」

「親切にありがとうございます! 私、意外とこれ使えるので大丈夫ですよ」


 私は明るく振る舞い、腰に指した刀を見せながら笑う。 


「そうか、君は冒険者なのか。確か情報屋は緑の髪の男で赤い布のマントを羽織っているらしいよ」

「教えて下さって助かりました。探して見ますね!」

「気をつけてなー」


 私は二人にお辞儀してお店を出る。 



 ここボリージャの街には歓楽街が存在する。

 そこは表の街並みとは雰囲気がガラっと違い、酒場や娼館といった、主に夜に営業をしているお店が立ち並ぶ。

 その店で何が行われているのかは、クサビにはとても教えられない。


 例外無く美形のアルラウネの従業員も多いそうで、世の男どもはそれ目当てでこの街までやってくる人も多いそうだ。


 もしもクサビが歓楽街に迷い込もうものならアルラウネの人達の餌食にされかねない。それはなんとしても阻止しないと。


 お、お持ち帰りなんて許さないんだから!


 私は一人でプンプン怒りながら歓楽街への道を歩いた。




 歓楽街の入口に差し掛かった。

 まだ早い時間なのでお店は開いていないので人もあまり居なかった。


 噂ではこの辺りに情報屋がいるらしいけど……。まあいつでもいる訳じゃないわよね。ただの噂だった可能性もあるし。


 さて、どうしようか。

 しばらくここで張ってみようか……。


 私は少し離れたところで歓楽街の入口が見渡せる場所で待つ事にした。


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