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Ep.66 捜索依頼

 次の日の朝。

 今日の予定はパーティの3人で依頼を受けに行く事にした。


 支度を整えて冒険者ギルドに向かう途中、サヤが昨日、この先の旅の安全な道を調べてくれていて、その詳細を語ってくれた。

 有益な情報を得ることが出来た。さすがサヤだ!

 サヤは常に先を見据えているんだな。僕も見習わないと!




 ほどなく、冒険者ギルドに到着して中に入る。

 カウンターには受付けの人は居るけど、ヴァーミさんではなかった。今日はお休みなのかも。


 僕らは依頼掲示板の前で張り出された依頼に目を通す。

 今日はどんな依頼があるかなっと――


 ――トゥースボアの討伐

 街の近くにトゥースボアの群れが発見されました。これを掃討して頂きたい。 群れと言っても数は6体です。よろしくお願い致します。

 報酬 銀貨3枚 依頼者 ギルド安全課


 ――素材集めを頼むよ。

 指定する素材を集めて来て欲しいんだ。急ぎで欲しくてね。報酬は弾む。よろしく頼む。

 おっと、何に使うのかは聞かないでくれよ。

 報酬 金額2枚 依頼者 ムツリース・ケベダ 


 ――探して欲しい!

 昨日、3人で一緒に街の外に素材を集めに出掛けたんだ。街から一時間ほど離れた場所で、俺たちは別々に素材を集めてたんだ。そしたらアルラウネの子が集合場所に現れなくて、暗くなってきたから街に先に戻ったんだと思ってたんだ! でも今日になってもまだ帰ってなくて……。

 お願いだ! 彼女を探してほしい!

 報酬 銀貨2枚 依頼者 マリオット・サザール



「この依頼、うまうま」

 ウィニがウキウキと体を揺らしながら、素材集めの依頼の張り紙を指差して言う。

 ……ほんとだ。 内容にしては破格の報酬だ。

 なんの素材を集めるのかにもよるだろうけど……。


 確かに報酬はかなり良い。……だけど、僕は別の依頼が気になって仕方がなかった。


「ねえ、二人とも。 僕はこの依頼を受けたいんだけど、駄目かな?」

 そう言って僕は、行方不明者捜索の依頼の張り紙を手に取った。


 この依頼者の文面から伝わる、心配する気持ちや不安。

 この人も苦しんでいるんだ。何より行方不明の人は今も何処かで大変な目に遭っているかもしれない。

 怪我をしているのかもしれない。怯えているのかもしれない……!


 そう思ったら僕の心は決まっていた。例え報酬がなくたってやると決めていた。その状態からいち早く解放してあげたいと思ったから。



 僕は真剣な様子で張り紙を見つめる。


「……当たり前じゃない。早く見つけてあげないとね! ウィニもいいでしょ?」

 そんな様子にサヤは僕を見て優しく答えた。


「ん。そこがくさびんのいいところ」

 ウィニは眉尻と口角を少し上げながら頷く。


「ありがとう。じゃあ早速受けてくるよ!」


 すると、後ろから誰かが近づいてくる。

 振り返ると、酷く疲れた様子の細めのお兄さんが、必死な形相で話しかけてきた。

「君たち、もしかして俺の依頼を受けてくれるのか!?」


「えっ? ……もしかして、マリオットさんですか?」


 話しかけて来たのは、今しがた僕達が受けようとしていた依頼をギルドに頼んだ、依頼者のマリオットさんだった。

 彼は早朝、ギルドが開かないうちから外で待っていて、ここに依頼を出してからずっと中で待っていたのだという。


 僕達はカウンターの受付けのお姉さんから依頼を受領し、マリオットさんに詳しい話を聞く。


「……ここから1時間くらい歩いた所に泉が湧き出る場所があるんだ。昨日そこに俺と弟と、行方不明になったアルラウネのマレイの3人で、花や薬草を集めに行ったんだ」


 どうやらマリオットさんと弟さんはこの街にやって来てから、薬草を調合して道具屋に納品したりして生計を立てているらしい。

 いつも懇意にしている納品先の道具屋があり、昨日はそこを手伝うマレイさんが勉強の為にと同行したのだそうだ。


 マリオットさん達は手分けして素材を集め、集めたら集合場所で合流する流れだったのだが、日が暮れ始めてもマレイさんは現れず、マリオットさん達は先に帰ったのかもと思い、自分達も帰ったのだと。


 今思えばどうしてそんな判断をしたのかと、マリオットさんは頭を抱えながら答えた。


 僕はより一層、何とかしてやらなければと意気込む。


「――分かりました。僕達が必ずマレイさんを見付けて連れ帰ります!」

「ありがとう……! どうかよろしくお願いします!」


 僕達は安心させるように強く頷き、ギルドを出て急ぎ街から1時間の距離にあるという泉を目指した。





「…………この辺りかしら」

 僕達はマリオットさんが言っていた、街外れの泉へやってきた。森の中に直径25メートルくらいの、綺麗な水が湧き出た泉があった。そこだけは開けた空間が出来ている。


 ちょうど泉のあたりに日光が差し込み幻想的な景色となっていて、辺りは神秘的な雰囲気を醸し出している。

 泉の水は透き通るように清らかで、神聖さすら感じる。


 だが、今は景色に見惚れている場合ではない。マレイさんを探し出さなくては!


「この辺りを探してみよう。 皆、気をつけて」


 僕達は用心しながらマレイさんを探し始めるのだった。


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