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Ep.162 小柄なる者の依頼

 馬のアサヒを迎えた日から数日、僕達は依頼を受け続けて、着々と活動資金の貯蓄を進めていた。


 そろそろ聖都マリスハイムへ向けての旅を再開してもいいかもしれない。馬車を手に入れたことで街道の旅はより早く、より快適になるに違いない。


 と、思いつつ今日も冒険者ギルドに足が向き、いつものように依頼を確認するのだが。


「稼ぎの良さそうな依頼はあるか?」

「うーん、そうだなあ……。……あっ」


 僕達は全員揃って依頼掲示板を眺めて吟味していると、僕はある依頼が目に留まり、その依頼の紙を手に取る。



 ――――護衛を募集します!

 仕入れを終えて聖都に戻るところのしがない商人です!

 同行者を探してます!!

 道中のお食事等々はお任せくださいっ!!

 その代わり僕を守ってくださいッッ!

 一緒に聖都マリスハイムまで行ってくださいーッッ!!

 報酬 金貨40枚(荷が無事な分だけ増額します!)

 依頼者 ポルコ・オッティ



「えらくハイテンションな依頼だな……」

「そうだね……、ははは。でも見てよ、行先がマリスハイムだよ!」

「おぉ……。しかも3食昼寝付き……!」

「昼寝は付いてないわよ……」


 まさにおあつらえ向きとも言える依頼内容で僕達の意思は満場一致し、即座に依頼用紙をカウンターに持ち込んだ。


「ミシェルさん、この依頼を受けたいんですけどー」


 僕は受付けに立つミシェルさんに依頼用紙を提出すると、ミシェルさんはいつも通りの笑顔で内容を検めた。


「はいっ。……ふむふむ。マリスハイムまでの護衛依頼ですか! 承りました〜!」


 そういうとミシェルさんは受注の手続きを進めて、受注の証明代わりに押印した依頼書の半分を渡してくる。

 依頼を受ける時の見慣れた光景だ。


「はい! ではこちらを持って依頼者の方にお声掛けくださいね! ……それにしても、クサビさん達もついにこの街を発たれるんですねぇ〜……」


 笑顔の中に僅かながらに哀愁が混じった表情のミシェルさんがしみじみと告げた。


「そうなっちまうな〜。……ミシェルちゃんに会えなくなるのはツライぜ」

「あはは」


 この反応は僕でもわかる。笑って流されてるぞ、ラシード。


「そろそろ資金も貯まってきたので、本来の目的に戻らないといけないですしね。短い間でしたけど、本当にお世話になりました!」


「お別れは寂しいですけど、これからの活躍をお祈りしてますねっ! またいつか顔を見せに来てくださいっ」

「ああ、ミシェルちゃんに会いに来るからよ、待っててくれよな……?」

「あはは」


 ……ラシードには強く生きて欲しい。


「ミシェルさん、またこの街に来た時は一緒にお買い物行きましょうね!」

「もちろんですっ! またサヤちゃんの元気な姿を見せて下さいね!」


 いつの間にかサヤもミシェルさんと親睦を深めていたようで、仲良さげに話している。

 ちなみにウィニは眠たそうに欠伸をしていて我関せずと言った様子だ。



「――ひとまず依頼者に会ってきます。また顔出しますね」

「ハイ! 行ってらっしゃい〜!」



 ミシェルさんとの会話も程々に、僕達はギルドを出て依頼者のポルコさんが宿泊しているという宿へと足を運んだ。

 店の人に依頼者の所在を尋ねると、今は食事処にいるということで早速向かうことにした。



 宿の中の食事処にやってきた。適度な広さでまばらにお客が席に座っている。

 先程の店の人にポルコさんの特徴を聞くと、小柄な種族『ツヴェルク』の男性で、褐色の肌に紫の髪色だとか。


 ツヴェルクという種族とは、僕も実際に見たことはないのだが、容姿は非常に小柄で耳が長く、成人でも5歳児ほどの身長までしか伸びない種族なのだとか。

 ツヴェルクというのは、彼らの言葉で『小人』という意味らしい。


 ずんぐりむっくりな人っていう情報だったけれど。

 ……ずんぐりむっくりって、なんだ?


 そう思いながら店内を見渡すと、テーブル席に子供一人で座っているのを見掛けた。

 たしかに見た目はどこからどう見ても子供のよう。

 だが褐色肌で紫の髪という特徴と合致していたため、彼がツヴェルク族のポルコさんに違いない。


「――こんにちは、お邪魔してすみません。あの、ポルコ・オッティさんですか? ギルドの依頼を受けてやってきました」


「はい! ポルコ・オッティですっ!!」


 食後のお茶を楽しんでいたポルコさんは、すこぶる元気な返事の後、僕が提示したギルドの受注証明を見て、カッと目を見開き口を『お』の字に広げて反応した。


「おおぉ〜〜! ということは、僕の依頼を受けてくれた冒険者さんですね!? ぃやったーー!」


 椅子の上に立ち上がりぴょんぴょんと跳ねて大喜びするポルコさん。なんだか無邪気な子供みたいで可愛らしい。


「ほうほうふむふむ……! Bランク冒険者の希望の黎明さんですかっ! よろしくお願いします〜〜〜!!」


 ポルコさんの仕草が常に全力で元気いっぱいだ。

 なんだろう。元気いっぱいな子犬みたいな印象だ。



 僕達は席に座り、ポルコさんから依頼の詳細を確認する。


 ポルコさんはマリスハイムに夫婦でお店を構えていて、店番を奥さんに任せ、エルヴァイナには仕入れに立ち寄ってのだそうだ。

 そして仕入れを終えマリスハイムに帰る事にしたポルコさんは帰途に着くまでの護衛を募集していた、という経緯だ。


 依頼を出して直ぐに受けてくれた事に全身で喜びを表現するポルコさん。あとは出発はいつになるかだが……。


「僕はいつでも準備はできてますから、皆さんの準備が出来次第出発ということでどうでしょうか!」

「はい、それでお願いします! では今日は準備に当てさせてもらって、明日には出発出来ると思います!」


 ポルコさんの元気につられながらも詳細を詰めていく。

 今日は旅の支度と、お世話になった人達への挨拶して回る事にして、明日から旅の再開となった。


 今回は護衛しながらの旅となる。誰かを守りながらというのは初めてだから、一層気を引き締めて行かないと!



「――それでは明日の朝、北の入口で合流しましょう!! よろしくお願いします〜〜〜!」

「はい! ではまた明日!」



 僕達はポルコさんと別れて外に出る。

 今日はこれから別行動でそれぞれ旅の支度を済ませて、挨拶回りに時間を当てることにした。


 明日から始まる護衛依頼と、かねてよりの目的地のマリスハイムにいよいよ迫れるという高揚感が僕の胸を踊らせるのだった。


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