左手で剣を下段に構えながら疾走する。
走りながら剣に強化魔術を込めつつグリーン・ソーサリアを捉えた。
仲間と協力者のノクトさんと一斉に四方から奇襲する。
グリーン・ソーサリアは正面から突貫してくるサヤに気付いて杖を手に立ち上がった。
そこに僕、ラシード、ノクトさんが死角からグリーン・ソーサリアに迫る!
剣の間合いに捉えた僕は、下段に構えていた剣を振り上げて上段の構えに切り替え、魔物の首を狙って渾身の力を以て斬り下ろした!
至近距離で魔物の隙だらけのうなじに剣が吸い込まれる。
――取った! 相手は対処出来ずにいるぞ!
――――ギィィィン!――――
「――ッ!?」
グリーン・ソーサリアの首に刃が食い込まんとしていたその時、突然剣が弾かれた……!
それは同時に攻撃したラシードやノクトさん、一時遅れて届いたサヤの刃も同様で、4人は大きく仰け反った。
魔物に刃が接触する瞬間、刃と魔物の間に薄い壁のようなものが見えた。
そして、この状況を狙っていたかのように、グリーン・ソーサリアの顔はさらに歪みを増し、下劣に笑う……。
――マズイ! 何か――――
その直後、グリーン・ソーサリアが杖の底をを地面に突き立てると、中心から炎が噴き出して激しい衝撃と熱を撒き散らし、僕達を飲み込んだ!
「ぐ……っ! あああっ!」
爆発音と仲間の苦痛を訴える声、そして痛み。
防御もままならないままそれらを同時に受けて僕は吹っ飛ばされた。
……全身に痛みが走り、耳鳴りが酷く視界が霞む。
僕はどうなった? 立っているのか、倒れているのかすら判断できない。
だがその状態でも全身にひしひしと伝わる確かな危機感はあった。
このままではやられる……! 体を! とにかく体を動かせ……!
「……うぅ……!」
自分が倒れていたと理解した僕は、剣と突き立て支えにしながらやっとの事で立ち上がり敵を探す。
刀を突き立て立ち上がろうとしているサヤを庇うように立って魔術を連発しているウィニと、側面から突きの連速で牽制する傷だらけのラシード。そして軽傷のノクトさんが2本の短剣で攻撃し、グリーン・ソーサリアの動きを止めていた。
……僕とサヤはさっきの爆発の直撃を受け、ラシードはどうやら辛うじて防御が間に合い、ノクトさんはあの至近距離だったにも関わらず、掠めた程度で済んだようだ。
……くそ! 早く戦いに復帰しなければ!
僕は、手持ちに用意していた回復のポーションを取り出して飲み干す。
少しずつ回復していくタイプのポーションだから、体への負担は少ない。
痛む体に鞭打って、僕は再び強敵に向かって駆け出した!
「くさびん! こいつ、防御障壁もつよい!」
「そうかっ! さっきのはそれか!」
皆の元に辿り着いた僕は、サヤの前に立つウィニと並んで剣を構えた。
ラシードとノクトさんの攻撃を避ける素振りすらなく障壁で受け止め、すかさず魔術で反撃してくる。
やはりかなりの強敵だ。こうなっては奇襲は失敗だ。正攻法で倒すしかない!
「でも、あの障壁、普通のと違う……気がする」
ウィニが眉間に皺を寄せて注意深く魔物を観察しているようだった。
あの障壁を破らない限り、奴にダメージは通らない。
「何か……打ち破る手があるはずよ……!」
サヤが自身に回復魔術を掛けて復帰して、すぐに僕を回復してくれた。おかげでこれで動けるが、どう攻める……?
「――ッラァ!」
ラシードが体に捻りを加えた一回転の勢いを乗せてハルバードを力任せにぶん回す。
それはグリーン・ソーサリアの背中を捉えるが、やはり障壁が阻みラシードは激しく仰け反った。
「うお……!! …………クソッ! 破れねぇ……!!」
「…………」
今の一撃はかなりのパワーがこもっていたように見えた。それでも奴の防御は崩せないとなると、単純な力押しじゃ駄目なのか……!
そしてラシードの反応を見たノクトさんの眉が僅かに動く。
注意深く状況を分析し、打開策を見出そうとしていた。
「――絶叫……慟哭……。汝に落ちる雷霆の涙……!」
僕とサヤが復帰した時から魔術の構築を始めていたウィニの杖の宝玉が紫色に輝いた。
「――ライトニングスコール……ふんっ」
ウィニが杖を両手で天に掲げる。
するとグリーン・ソーサリアの頭上に突如雷雲が発現し、轟音を鳴らして数多の稲妻が雨のように降り注いだ!
幾度もの雷撃が魔物に集中して放たれている。凄まじい威力を誇るが、果たして……。
「やったか」
「――バッカヤロッ! それ言ったら……ッ!」
ラシードの叫びに、ウィニがマズイと言わんばかりの顔をしながら両手で口を塞いでいる。
「――グギャギャギャギャ!」
降り注いだ雷撃で土煙が舞い上がっていた先から、グリーン・ソーサリアが余裕の笑い声を響かせて姿を現す。
ダメージを受けている様子はない。ウィニの魔術も障壁で防いだというのか!
「……これは、相手が悪いか……?」
ノクトさんが短剣を構えながら、焦りの表情を浮かべている。
強力な物理攻撃も、絶大な威力の魔術も奴の障壁に阻まれてしまう。グリーン・ソーサリアとは、そこまでの強さを有しているのか。
……どうする。このまま闇雲に攻めても消耗するだけだ。何か勝機の糸口は……。
「ゲヒャ!」
……! グリーン・ソーサリアが杖の一振りで炎の波を発動させてこちらに放ってきた!
「――っ!!」
避ける余裕は与えられずに僕、サヤ、ウィニはそれぞれ魔力を防御に回して炎の波を耐え凌ぐ。それでも体に痛みは走る。
「固まると纏めてやられるぞ! 散れッ!」
「……了解!」
ラシードの警告に弾かれるように散開してグリーン・ソーサリアを取り囲んだ。
包囲しているのは僕達なのに、優勢なのはあのゴブリンだ。くそっ! 一体どうすれば……っ!
グリーン・ソーサリアは己の優位をひけらかし、醜く笑っている。
ゴブリンの見た目をした化け物は、どれから仕留めようかと、じっくり吟味するかのような嫌な視線を僕達に向けていた。