巨大な蛇の姿をした化け物、ヨルムンガンドが動き出した!
同時に僕達も一斉に攻撃を開始する。
剣士は猛然と距離を詰めるべく駆け、魔術師はそれぞれの魔術を放つ。
四方から魔術の帯がヨルムンガンドに飛来していく。
そして全力で駆ける僕とサヤの間を紫の雷が一直線に追い越し、大蛇の胴体に襲い掛かった!
ウィニのイレクトディザスターを強化した、フルミネカタストロフィだ。
その紫電の閃光がヨルムンガンドの胴体に当たると激しい衝突音を起こし、その胴体を僅かにくねらせた。
かなりの火力を誇るが、ダメージは僅かだ。
ヨルムンガンドの赤い目がさらに赤く発光して、ウィニの姿を捉える!
そこに――
「余所見してンじゃ……ねェッ!」
大蛇の側面からすかさず飛び込んできたのはラムザッドさんだ!
高く跳躍し魔力を練り上げて、紫電が唸りを上げた右の拳を横っ面に叩き込んでいる。
殴られた衝撃でヨルムンガンドが少し弾かれたが、やはり決定打には不足していた。
「……チッ! 手応えが薄いぜ……!」
そうぼやいたラムザッドさんに向けて、ヨルムンガンドが激昂しながら口から瞬時に熱線を吐いてきた!
「――させませんわ!」
素早くアスカさんが防御障壁を発動させると、ラムザッドさんの前に展開される。
巨体から放たれる熱線もまた巨大で、ラムザッドさんを完全に吞み込んでしまった……!
「グォォォォッ……! クソがァ!」
炎の中からラムザッドさんの声が聞こえた。この声からは力尽きている様子はない。きっとアスカさんの支援が功を奏したのだ。
次に間合いに入ったのは別方向からのナタクさん、そしてそのまた別方向からのルイントスさんだ!
二人は同時に到達した。
ナタクさんは納刀したまま腰を低くして居合の構えを取り、即座に抜き放つ。ヨルムンガンドの背後からはルイントスさんが長剣を掲げ、刃が輝くと刀身に風の刃が巻き付くように発生し、そのまま斬りつけた!
「――斬ッ」
「てやぁッ!」
ナタクさんの一閃は同時に三ヶ所を斬りつける。
ルイントスさんの剣は肉薄したヨルムンガンドの胴体に触れると風の刃が抉るように斬り刻んだ。
二人の気合が重なり二つの斬撃がヨルムンガンドの胴体に傷を付け、鋭い刃は体表を突き破って血飛沫を散らした!
しかし、斬られた胴体はすぐさま繋がり、みるみるうちに傷が塞がっていく。
今の二人の攻撃で熱線のブレスを止める事には成功したようだ。それに晒されていたラムザッドさんは素早くアスカさんの近くまで飛び退き回復を受けた。斬撃を見舞った二人は即座にヨルムンガンドから離れる。
そこに僕達が厄災に到達。
僕、隣を駆けるサヤに続き、マルシェとラシードがそれぞれ渾身の技を繰り出す為の動作に入る。
その時、近衛騎士達の支援魔術やチギリ師匠が撃ち出した大火球も同時に着弾し、ヨルムンガンドは僅かに動きを止めた!
僕は手にした解放の神剣に魔力と一緒に決意を込める。
それに応えるかのように剣は赤く輝き始め、赤い軌跡が生み出された。
今までの修行で、僕は深い集中状態でなくとも熱剣を発動する事が出来るようになっていた。
深い集中状態を発揮すると周りがゆっくりに感じ、動きが軽やかになる代わりに魔力の消費が激しくなる。
だから通常の状態で熱剣を出せないか、ずっと鍛錬してきたのだ。
僕の横ではサヤがナタクさんと同じ居合の構えでさらに加速し、ラシードはハルバードを頭上で回転させながら追従する。マルシェはその後ろから駆け込み、高く跳躍した!
――そしてそれぞれの修行の成果が身を結んだ一撃をヨルムンガンドに叩き込んだ!
近くで見るとその巨大な姿から放たれる威圧感をひしひしと感じる。
それでも怯むことなく、僕はヨルムンガンドの分厚い横っ腹に、駆け抜けざまに横一閃に剣を振り抜いて赤い軌跡を辿らせた。
胴体に剣が食い込むと、奴の弾力性の高い体表による抵抗が跳ね除けんと手に伝わってくる。それに負けじと熱を帯びた刀身が深く侵入していく!
「うおあああああ!」
横這いになっている胴体を斬り裂きながら駆け抜ける!
そしてそのまま奴の至近距離から離脱した。
すぐさま踵を返してヨルムンガンドの様子を確認すると、僕が斬り裂いた熱剣による傷は、塞がり始めようとしていたが、傷口が焼かれたせいか治癒は低速のようだった。
……よし! 攻撃が通用するぞ! 通用するなら……倒せるっ!
そして仲間達の攻撃がヨルムンガンド目掛けて矢継ぎ早に叩き込まれる。
サヤの魔力を溜めた強烈な居合、ラシードが繰り出した業火を纏ったハルバードによる叩きつけ、そして跳躍したマルシェの急降下からの突き刺し。
それぞれの攻撃に対してヨルムンガンドは苦痛の声を上げていた。
僕は奴への攻撃で移動した結果、北側に位置するチギリ師匠と合流する。
ヨルムンガンドに向けて剣を構えながら師匠の隣に立った。
「……妙だ。厄災とも謳われたほどの魔物が、この程度の攻めの応酬で右往左往するとは思えん」
チギリ師匠は魔術を放ちながら、疑念の目を厄災に向けていた。
確かにヨルムンガンドの放つ異様な雰囲気には気圧されそうになるものの、攻撃の勢いはさほどではなかった。
封印から解けたばかりで、寝起き状態なのか、かつて聖女サリアが付けた傷のせいなのか。どちらにしても今は奴に強力な一撃を叩き込み続けるしかない!
「もしかすると、手負いというのが効いてるのかもしれませんね! このまま畳みかけて倒し切りましょう!」
「……そうだと良いのだがな。油断は禁物だよ、クサビ」
「はいっ!」
気合を込めた返答と同時に僕は足の強化魔術を解放して一気に飛び出し、師匠は巨大な氷の杭を放つ。
僕は氷の杭と共に再びヨルムンガンドを見据えて剣を構えるのだった。