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Ep.259 中央孤島、上陸

「――前方に島を視認!」


 物見をしていた騎士さんが声を上げる。僕達はその声に反応して船首に駆け出した。


 船首から先を見据えると、確かにうっすらと陸地が見える。

 あれが世界の中心部に位置する島、中央孤島か!


「ようやく着きますな。断崖に囲まれた孤島とは良く言ったものです」

「どこからか上がれそうですか?」


 島が近付くにつれてその様子が明らかになってくる。中央孤島に人が発展した形跡がないのは、険しい崖に囲まれた島だからだ。

 まるでこの島だけがせり上がったかのような断崖絶壁だ。

 そのため外から上陸することが困難で、多くの者が調査を断念してきた場所だという。


「いえ。この島は周囲を完全に崖で囲まれております。ですが崖を登るための準備は万全です。我々にお任せあれ」


 アランさんの頼もしい返答に、僕の杞憂は去った。

 いざとなれば、風魔術を駆使して空を飛べるウィニに頑張ってもらおう思っていたけど、大丈夫そうだ。



 そして僕達を乗せた艦はついに中央孤島の崖まで辿り着いた。

 魔の前までくると、それは島というより壁のようだ。見上げれば首が痛くなるほどの高い崖が、島への侵入を阻んでいた。


 確かにこれは、空を飛べない限りは登れそうにないなぁ……。


「よし、では上陸を開始する! フックショット射出!」


 アランさんが指示を飛ばすと、方々から復唱の声が返って来ては、艦に備え付けた大砲のような設備を動かして、崖の上に狙いを定めていた。

 その大砲の中に装填された鉄製の杭のようなものには太い縄がついている。これがフックショットというものか。


「ふむ。あの大木が良さそうだ。――放て!」


 アランさんの命令で、バシュンという音の後、縄を括り付けた鉄杭が3つ、勢い良く発射されると、崖の上で生い茂る木々に深く突き刺さった!


 その木と艦の間で縄がピンと張り、騎士が艦側に結び付けてあった縄を解くと、崖の方へと送っていた。


「上陸開始だ! 行けぃ!」


 その指示に従い、甲冑を脱ぎ捨てて身軽になった騎士が、背中に何かを背負いながら、それぞれ崖上まで伸びる縄を伝って巧みに崖を登っていく。その訓練された動きで、あっと言う間に崖の上まで辿り着くのだった。


 そして程なくして、崖の上から梯子が垂らされた。騎士さんが背負っていたものは、梯子だったようだ。


「――団長! 設置完了です!」

「よし! では順次上陸! 上陸後は周囲を警戒せよ! ……さあ皆様、参りましょうぞ」

「は、はい!」



 第5騎士団の手際の良い上陸により、僕達は難なく崖の上に到着することができた。


 そこは辺り一面が大木生い茂る、深い森となっていた。人の手が加えられていないこの島には当然道というものはなく、まさに未踏の地という光景が目の前に広がっている。


 猛獣や魔物がいるかもしれないと気を張る僕達だったが、どこか神秘的な雰囲気が漂っているような気がした。

 聖女サリアの手記によれば、この島のどこかに古い遺跡があるらしいが……。

 この深い森の様子だと、捜索も難航しそうな予感だ。



 ひとまず上陸を果たした僕達とアランさん達第5騎士団は、活動拠点の設置に取り掛かった。

 崖の下ではアランさんの艦に騎士を少数残して留守を預ける。

 ちなみに僕達の馬車とアサヒもお留守番だ。



 島の大きさからして、2、3日歩いてようやく一回りできる規模の島だという。隅々まで探すとなると、時を要する事が予想される。

 それに、この中は完全に未知の領域だ。何が潜んでいるか分からない中で、慎重な捜索を余儀なくされるだろう。


「クサビ殿、皆様。日が暮れて参りましたので、調査は明日から本格的に開始しましょう。今日はもうゆっくりお休みくだされ」

「はい、ありがとうございます! 明日からもよろしくお願いします!」


 僕達はアランさんにお礼をして、その場を後にする。

 明日から本格的な未踏に地の調査となる。遺跡の捜索には第5騎士団も協力してくれるということで頼もしかった。

 たくさんの人に背を押されているのだと思うと、心が温かくなる。

 僕達の見張りに立ってくれる騎士さん達にも、感謝の気持ちを伝えてからテントに入った。



 僕達は、騎士さんが用意してくれたテントを有難く使わせてもらうことにした。男女で分けてくれたので、僕はラシードと同室だ。


「いよいよだな、クサビ」


 寝台に座って武器の手入れをしながら、ラシードは僕に声を掛けた。


「うん。……早く時の祖精霊に会わないとね」


 きっと今もこの島にいると信じて。

 その願いに一縷の希望を抱いて、僕はしみじみと呟いた。


「なあ、あんまし背負いこむなよ? お前、なんでも抱えちまいがちだからよぉ。……俺達がついてるってこと忘れんなよ。なっ」


 ハルバードを磨きながら軽い調子でラシードが言う。そしてこちらを向いて白い歯を見せて笑って見せた。

 危ない。思わずうるっと来るところだった。


「……うん。重たかったらラシードに持ってもらおうかな?」

「はは! このラシード兄貴に任せろよ!」


 ……いつもこの明るさに助けられてるさ。ありがとう。


「明日は、道なき未知の冒険が待ってるぜえ! そう思うと、やる気が満ち満ちてくるだろ!?」


 ラシードは自分で言って恥ずかしくなったのか、それを紛らわすように立ち上がって妙に明るく僕に問い掛けた。


「……? うん、頑張ろうね!」

「おい待て! 今の笑うとこだぞ!」

「……?」


 ……どういうことなのか分からないけど、ラシードは明日へのやる気は十分みたいでなによりだ。


「マジかよ、クサビには通用しないのか……。マルシェにはウケたのによぉ」


 ラシードの言葉の意味が分からず説明を求めたが、ラシードは『このネタはボツだ』と言って不貞寝してしまった。

 やはり僕には分からなかった。明日マルシェに聞いてみよう。僕は一人首を傾げながら寝台に入るのであった……。

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