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Ep.260 調査1日目

 そして翌日。


 今日はいよいよ、本格的に中央孤島の調査を行う日だ。


 アランさんに挨拶をした後、僕達は朝食を取ると、早速調査を開始する。

「では5つの小隊は調査を開始せよ! 残りは拠点の防衛だ!」

「「――了解!」」


 僕達のパーティの他に、第5騎士団の5つに編成された小隊がそれぞれ別の方角の調査に向かうことになった。

 僕達も島の西側に位置する拠点から、東に向かって遺跡を捜索することにして、拠点を出発する。



 森の中は、朝日の差し込みが弱いのか少し薄暗い印象を受ける。

 だがそこは自然が生む神秘の美しさもあり、どこか幻想的ですらある。

 森の木々には見たことがない葉っぱが生い茂り、所々に見知らぬ植物も見受けられた。


 時折鳥か虫か分からないが、甲高い鳴き声が耳に届いたりして、緊張感を感じさせない不思議な雰囲気に包まれていた。

 僕達のパーティと別れて、それぞれ別方向に散っていった騎士達も、森の様子に気を取られているようだった。



 僕達も気を引き締め直して、慎重に遺跡を捜索する。


「しかし森の中となると目印が何もないからな。方向感覚が狂うぜ……」


 ラシードの言う通り、広大な森の真ん中だと自分が今どこにいっているのか分かりづらい。

 特に、遺跡なんて見つかるはずのない未踏の地で探すのだから尚更だ。


「……ん。あそこ、何かある……」


 ウィニが猫耳をピクリと動かして森の奥を指し示した。


「……本当だ、何かあるね」


 僕もその先を見つめるようにして、そこに目を凝らした。するとそこには、岩肌らしき何かが見えた気がした……。

 僕達はウィニに案内されて、奥へと進んで行く。


「……あれは」


 植物が生い茂る森の中、地面に転がる石造りの彫像の欠片のような何か。

 蔦が巻き苔で覆われている、随分前からこうして地面と共存しているこの彫像。微かだが彫刻された跡があった。これは明らかに自然にできたものではない。


 ……もしかして、この近くに……?


「これ、どう見ても人工物よね……」

「……ええ。ですが、これは……」


 サヤとマルシェは目の前の物体に、僕達の目的に繋がる手掛かりの予感を感じていた。


「この辺りにまだこういうのがあるかもしれない! 手分けして探してみよう!」

「よっしゃ! まかせとけ!」

「ん。探検する」



 それから僕達は謎の彫像を見つけた現場の周辺を、さらなる遺跡の痕跡がないか念入りに調べた。

 ……そうして小一時間が経過したが、辺り一面草木に蔦や苔ばかり。特に目新しい発見はなく、合流した仲間達の報告も同様だった。


 他の場所を調査している騎士の小隊が何か見つけているかもしれない。

 そう思い立った僕達は、一度拠点に戻ることにしたのだった。



 戻りの道は、調査の一環であらかじめ木に目印を刻んであったので、それを辿って戻った。進捗としては慎重に調査していたからまだまだ島の全容には至らない。


「勇者様がた、お戻りになりましたか」

「ただいま戻りました。アランさん」


 活動拠点に戻ると、アランさんが出迎えてくれた。

 そして拠点を見渡すと、昨日よりも設備が立派になっていて、キャンプ場のようだった拠点が、今ではちょっとした休息所のようだ。


「長丁場になるかもしれませんからな。幸い資源は現地で調達できます。我が第5騎士団は、他の騎士団とは一風変わっておりましてな。こういった自給自足が必要な任務にも対応できるよう、日々訓練に勤しんで参ったのですよ」


「……凄いですね……! こんな立派な小屋まで建てちゃうなんて!」


 僕は騎士さんの仕事ぶりとアランさんの手腕に感動しながら答えた。


 騎士の中には設備の建設に特化した者もいる為、彼らの知識と魔術を最大限に発揮して任務を行っている。

 今回の孤島への同行に第5騎士団を選んだ王様の着眼点は流石と言わざるを得ない。


 正直もっと過酷な環境に身を置くのだと覚悟していたんだけど……。本当に感謝の念に尽きないよ。


「調査が進めばもっと奥地にも拠点を築くことが可能になるでしょう。勇者殿は存分に目的を果たされよ」

「感謝します。アランさん! 明日も頑張ります!」


 僕達はそれぞれ感謝の気持ちを伝える。

 すると、後ろから聞きなれた音が。


「……おなかすいた」


 ウィニの夜を告げる鐘。もとい腹の虫である。


「おおっと! ウィニ殿がはらぺこのご様子ですな! 簡易的ですが食堂を設営しましたので、よろしければ我が部下達と共に、如何ですかな?」

「おぉ……! いく! すぐいく!」


 僕達が返事をする間もなくウィニが前のめりにアランさんに絡み、食堂へと急かした。アランさんはウィニにしがみ付かれながらも、高らかに笑っていた。 凄い偉い人なんだけど、心の広い人でよかった。


「ウィニ猫のやつ、飯くれるとなりゃ誰にでも懐くよな……」


 僕達はがアランさん達の後を追いながら歩いていると、ラシードがウィニを見て呆れ気味に言葉を吐いた。


「あら、ラシードさん。もしかしてヤキモチですか?」

「ちがっ……! なんでそうなるんだよ!」


 ラシードのぼやきにマルシェがくすくすと笑いながら揶揄う。

 普段クールなマルシェにすら茶化されるなんて、なんだかパーティ内のラシードの扱いが定まって来たなあ。


「ウィニに好かれたいなら食べ物上げれば少しは靡くかもよ?」

 と、面白がってサヤも乗って来る。


「あいつには日頃からたかられてるっつの……。て違うぞおまえら。俺の好みはもっと、ボンでキュッでボン! なお姉さんなんだからなぁ!」

「うわー……」

「体目当てですか……」


 サヤとマルシェの視線が冷ややかなものに変化してラシードから数歩離れた。

 僕は散々な言われようのラシードの必死に否定する姿が不憫でおかしくて、つい笑ってしまったのだった……。



 その後、騎士の皆と一緒に食事をして空腹が満たされると、僕達は司令部として使っている小屋で、会議という名の報告会が始まった。そこには調査に参加した僕達の他に、各小隊長が集まった。


 結果として初日は僕達が発見した人工物以外は、これと言って成果が得られなかったようだ。だが人工物の存在により、遺跡がどこかにある可能性が高まったのは収穫だった。


 それから報告の中で共通した点は『魔物の気配がしない』ということだった。

 島中が深い森で覆われており、鳥や原生する動物は生息しているものの、大型の獣や魔物には出くわさなかったという。それは僕らも同じだった。


 とはいえまだ調査はこれからで、もっと奥地に行けば危険が潜んでいるかもしれない。変わらず油断せず、慎重に調査を進めよう。ということで纏まり、会議は閉会となり解散した。



 その後は、各々体を洗い就寝するだけだ。

 僕達は、本当に良くしてくれる騎士団の皆への感謝を形にしたくて、お風呂セットを披露することを仲間に提案した。

 こういう場所では、体を拭くのが精々だから、お風呂に入れたら嬉しいと思うんだ。


 パーティの皆も満場一致で、お風呂セットを皆で使おうということになり、アランさんも含め、騎士の皆は大喜びで使ってくれた。少しでも感謝の気持ちを返せていたらいいなと、僕はつい笑みが零れた。



 そしてその夜のこと。


 用意されていた、僕達パーティ用の小屋から剣を持って外に出る。

 すると小屋のドアも前で見張りをしてくれている騎士さんが気付いて声を掛けられた。


「勇者様、どちらに?」

「あ、ちょっと剣の練習したくて……。見えるところに居ますから、大丈夫です」

「このような夜更けにも鍛錬ですか。向上心のあるお方だ……。――あ、失礼しました。承知しました、お気をつけて!」

「ありがとうございます。すぐ戻りますね」


 先日、退魔の精霊と言葉を交わしたあの日から、僕はひっそりと練習していたのだ。

 勇者アズマの幻影が見せた、あの光の技を。


 僕は剣を抜いて構え、光が迸るイメージを想像しながら瞑目し、集中する。

 イメージだ。剣を高く掲げると剣先から白く眩い光が広がるんだ……。

 そして弾ける。弾けた光は辺り一面に粒子となって舞い散る…………。


「――――っ!」


 僕は目を見開いて剣を高く掲げた!

 魔力が体から抜ける感覚。それは左手を伝い、神剣へ――――。


 ――その瞬間、剣先から光が!


 パッと、明かりを灯すかのような小さな光が剣先に灯る。

 真っ白い光だが、弾けてくれない……!


「~~~~~~っっ!」


 僕は踏ん張るように力を込めて、なんとか光が弾けないものかとあがく。

 だが、力技ではどうにもならず、白い光は敢え無く消えてしまった……。



「はぁ……っ、はぁ……っ」


 直後、突然の脱力感が僕を襲い、膝を付いてしまった。

 魔力は大量に消費している。つまり魔術は発動はしている。……だがなかなか形にするにはまだまだ鍛錬が必要のようだ。


 この技がなんなのか分からないままだったが、最初の掴みは出来てきたんだ。このまま続ければきっといつかは――


「ゆ、勇者様! 大丈夫ですか!」


 近くで見ていた見張りの騎士さんが、突然膝を付いた僕に駆け寄ってくれた。心配掛けてしまったなぁ……。


「大丈夫です……。今新しい必殺技の練習をしてるんですよっ。皆には内緒ですよ?」


 僕はふざけたような調子で騎士さんに笑って見せる。

 すると騎士さんはほっとしたような表情で手を差し伸べて、僕を立たせてくれた。


「……それは私も得をしてしまいましたね。ですが今日はもうお休みください。明日も長いでしょうから」

「はい、そうします。ありがとうございます!」


 そう言って僕は小屋に戻り、自分の部屋の寝台に横になる。

 程よく脱力した体は、寝台に沈むように休息を求め、僕の瞼は次第に重くなっていくのであった…………。

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