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Ep.261 調査2日目

 そして新たな一日がやってきた。

 体調は万全。昨日の疲れも残っていない。絶好調だ!


 昨日と同じようにアランさんに挨拶をして、皆と朝食を取り、調査を開始する。


 今日は昨日の続きだ。だから昨日調査したところまで向かってからが調査開始となる。片道二時間くらいの距離を目印を辿って向かうことになる。


 とはいえ、見た場所でもここは未知の領域だ。僕達は道中も警戒しながら向かう事にした。



 そして約二時間掛けて、昨日の調査地点まで戻って来た。

 昨日はここで人工物らしき手掛かり発見して、重点的に周囲を探していたが、それらしいものは見つからなかった。今日はさらに東の方向に進んでみる。



 そしてさらに東へ進むこと1時間。

 大木連なる深い森を、新しい発見はないか目を凝らしながら進んでいた。

 見渡す限りの緑一色の光景は変わらずだったが、奥に進むにつれて澄んだ空気はさらに清らかな雰囲気を纏い始めた。


 木の上ではリスなどの小動物がこちらの様子を窺い、珍しい人の訪問に興味津々といった具合に眺めていた。

 小動物が長閑な様子でいるということは、この辺りに危険が潜んではいないのだろう。


 あまり刺激はしないようにするから、少しだけお邪魔するよ。

 僕は動物達をそんな思いで見つめ、そっと通り抜ける。



 さらに東を進んだ。

 時間はもうすぐお昼になるだろうか。

 そのうちウィニのお腹が正確な時間を知らせてくれる――……と思っていたらウィニの腹の虫が鳴った。


「……む」

「もう昼か。相変わらずウィニ猫の腹は便利だよな」

「ははは……。じゃあこの辺りで休憩しようか」



 僕達は大木に寄りかかり腰を下ろして体を休める。

 昼食はこんな緑に囲まれた場所で火を起こすのも危険なので、拠点で用意してきた携帯食を食べる。

 軽食程度のささやかな昼食となり、ウィニは少し物足りなさそうな顔で頬張っていた。



 その後、一応の空腹を満たした僕達は調査を再開する。


「今、島のどの辺りまで来たのかな」


 森を進んでいる最中、僕はラシードに何気なく言葉を投げかけた。

 するとラシードは荷物から丸めた羊皮紙を取り出して広げる。

 ここまでおおまかにマッピングをしてくれていたのだ。


「昨日の場所がここらへんだろ? そっからちょい進んで~だから……。――なあウィニ猫、ちょっとひとっ飛びして見てきてくれ」

「ぬ。帰ったらお礼はごはんでもらおう」

「わかったよ!」


 にんまりと頷いたウィニが魔力を練っていく。すると散らばっていた木の葉や草が、ウィニの足元の周囲を渦巻くように動き出す。風の魔術を発動させているのだ。


 そしてウィニは勢いよくまっすぐ上に飛び出した!


「――ぶわぁ!?」

 その時の突風であたりの葉っぱやら草やらが僕達に飛び散る……。

 土が口に入った。ぺっぺっ。


「男ども、上を見ないように」

「「ハイ」」


 サヤから即座に釘を刺され、僕とラシードは瞬間的に意図と理解して返事した。

 ……ウィニ、下はスカートだもんね。一応女の子だから見ないけどさ……。

 忠告は僕にも言っていたが、サヤの視線はラシードを凝視していた。それもマルシェのジト目付きである。



 やがて、そんなやりとりがあったなど露知らずのウィニが降りてくる。

 空から見渡せるのはかなり便利だけど、次使う時が来たら僕は離れておこう……。


「ただいま」

「おかえりなさい、ウィニ。どうでしたか?」


 着地してドヤポーズで降臨したウィニが鼻を鳴らして、猫耳族特有のしなやかな動きで、ラシードの肩にしがみつき、羊皮紙のある地点を指差した。


「だいたいこのへん」

「おお、結構真ん中は近そうだな!」


 ウィニによれば、もうすぐ島の中央地点に差し掛かるそうだ。

 今日の調査開始地点から、今まで進んで来た距離を測ってみると、もう数時間あれば中央には辿り着けそうだ。


 まだ日は高い。

 僕達は中央地点を目標に定めて、さらに奥へと歩き出した。



 ……そしてさらに時間は経ち、僕達は目標の地点に差し掛かった。

この辺りが島の中央だと思うのだが……。


 周囲を見渡しても広がる景色は変わらず一面の緑一色で、遺跡らしきものは見当たらない。


「中央にならもしかしたらと思ったけど……アテが外れたわね……」

サヤが落胆を声に乗せる。


「……うん。でもまだ諦めるのは早いよ。もう少し進んでみよう」


 そう言って僕は一歩を踏み出した。



 ――――その時、僕は強烈な違和感を感じた。


「……っ!?」


 一歩踏み出した瞬間、目の前に広がっていた緑深き森から一変、開けた真っ白な空間に、大きな遺跡がそびえ立っていた……!


「こ、これは……!? 皆――!?」


 僕は仲間の方へ振り向く。

 …………しかし後ろにいたはずのサヤ達が跡形もなく消え去っていた……!


 僕は突然の事態に目を見開き剣を抜く。

 敵の魔術か、それとも罠に掛かったのか! と。


「――クサビッ! ……あっ……――!?」

「サヤ!」


 僕達が来た道の方向から、突然慌てた様子のサヤが駆け込んで、周囲の異変に気付く。

 その後次々と仲間達が現れ、驚いていた。


「突然クサビが目の前から消えたから、慌てて追ってきたのよ……! ここは……一体…………?」

「僕も突然こんなところに出て……後ろ振り向いたら皆居なくて……」


 この不思議な場所の開けた空間に立派で真新しい遺跡が建っているが、よく見ると周囲の地形そのものは変わっていないように見える。


 遠くまで見渡そうにも、途中から真っ白な壁に遮られて、その先を見ることは出来ない。


 まるでこの遺跡を中心に空間が広がっているかのような……。


「みんな、ここから別の空間になってるよ。みてて」


 ウィニが僕達が来た方の白い壁に手を入れたり出したりを繰り返していた。そして、ひょいっと白い壁の向こう側へ飛び込み、姿が完全に消える。

 ……僕は一瞬焦ったが、ウィニはすぐに戻ってきた。


「ね」

「……どうやら元の道には戻れるようですね」

「それならいいんだが……まるで時間が止まってるみてぇだな、ここは」


 確かに、生物の気配がまったくなく静寂に包まれていた。風の流れすらもなく、この空間だけが時を止めているかのようだった。


 ……これが時の祖精霊の遺跡であるならば、有り得るのかもしれない。



 僕達は意を決して遺跡を調査することにして、足を前へと踏み出すのだった。

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