僕達が出現した場所から遺跡の入口に辿り着くまでに、様々な植物や動物の彫像などが配置され、彫像に刻まれた模様は昨日発見した彫像のものと酷似している。そしてそれらは石造りと相まって荘厳さを醸し出していた。
この荘厳さは、古代遺跡というものを象徴するような光景だろう。
遺跡の外観からは想像できないほどに広い入り口をくぐると、内部の光景もまた別次元に思えてくる程に荘厳だった。
中は遺跡というより、神殿と呼ぶ方が相応しい造形だった。
床も天井も壁も白一色で統一された空間で、床は自分の姿が映るほどに綺麗で、長い年月を経ているとはとても思えなかった。
ここはまるで真っ白に塗りつぶされたかのような光景だ……。
入口から左右には何本もの白い石造りの柱が建物を支え、中央には奥へと続く長い通路。その先は段差があり、さらに先には、台座に乗せられた大きな宝玉が清らかな光を放ち、神殿全体を遍く照らす。
その光も相まって神秘的な雰囲気の神殿は、神々しさすら感じられた。
僕達は静寂極まる神殿の長い通路を歩く。あまりに静かすぎて、聞こえるのは僕達の足音と息遣いだけ。
そして台座の前の段差に差し掛かり、僕達は歩みを止めた。
……何故立ち止まったのかはわからない。
ただ、まるで王様に謁見する時のような雰囲気と緊張を感じたのだ。
その場違いな雰囲気に押されるように、僕は一歩一歩ゆっくりと段差を上っていく――。
「――止まれ」
段差の半分を過ぎたその時、僕達の進行方向から、凛とした声が響いた。
思わず僕は足を止める。
すると僕達の眼前に、突然眩い光を発しながら一人の女性が姿を現したのだ。
その女性の姿は美しいとしか言いようがなく、その佇まいから見る者に畏敬の念を抱かせる威厳すら感じさせた。
……この女性が、時の祖精霊だということは明らかだ……。
「――よくぞ辿り着いた。蒼空の髪の少年よ。久しいではないか。…………ん、いや、其方にとっては初顔であるのか」
時の祖精霊は僕を見据えながら意味深に首を傾げると、何事も無かったように話を続けた。
まるで僕と会ったことがあるような、独特な言い回しだ。
僕はその精霊の言葉に引っ掛かりを覚えつつも、精霊の言葉を待った。
「我は時の流れを司りし精霊の祖。悠久、永劫の時の観測者なり。汝らは我が力を求めてここに来た。そうだな?」
「……は、はい」
僕は緊張から掠れる声で精霊に答えた。
他の皆は言葉を発することなく、固唾を飲んで精霊の言葉を待っている。
そんな中精霊が僕に向けてゆっくりと口を開いた……。
「――我が力が欲しければ、我が試練を果たせ」
時の祖精霊の言葉に、僕達の体が強張るのを感じる。
――試練……? それは一体……?
「汝がここに至った目的は知っている。現世に君臨する魔王、その討滅。その手段を得る為に過去へと移るのが目的だ。そうだな?」
「――っ! は、はい!」
全て見透かされている事に驚く。祖精霊ともなると心でも読めるのだろうか……?
「蒼空の髪を持ちし少年よ、解放の神剣の光灯さんとする勇者よ。汝の心に問う。それに応える事。それが我が汝に課す試練だ」
「……はい!」
「――但し、汝一人でだ。我の試練は温くはないぞ」
「――――心得ましたっ!」
「では汝にしばし時をやろう。……汝らの時間で言えば、そうよな……。――明日、一人で此処に来るがいい」
覚悟を決めろという事か。
「……わかりました」
「ではな」
それだけ言うと精霊は光の粒になって消え去ったのだった……。
その直後視界が眩しく光り、視界が白一色に包まれる。
思わず目を瞑って、次に開いた時には視界は緑一色の森に戻っていた……。
狐につままれたように呆ける僕達だったが、どうやら元の場所に戻されたようだ。
辺りを見ると、木々から漏れる日の光で空はまだ明るいままだとわかった。それも太陽の位置がまったく変わっていない。
それはまるでほんの数分しか時が流れていなかったかのようだ。
やはり、時の祖精霊の空間の中は時間の流れが違うようだ。
「……クサビ。明日の試練のことなんだけど……」
「……うん」
「……大丈夫なの?」
サヤが心配そうに僕に声を掛ける。
どんな問いなのかわからないから正直僕も不安は残るが、やるしかない!
「大丈夫さ! 僕は必ず試練を乗り越えて戻るよ!」
「……そうね。……信じて待ってるわ!」
サヤや皆の表情には、僕が帰ってくるまで待つという強い決意が読み取れた。僕はそんな皆の気持ちを一緒に連れて、試練に挑むよ。
それから僕達は拠点に戻り、アランさんに報告した。
「左様ですか! 調査2日目にしてもう成果を出されるとは、流石ですな。ではこちらも明日は活動拠点を中央付近に前進させますぞ」
それからアランさんに不思議な空間の事や、その中にあった遺跡の事を伝えると強い興味を示した。
「ふむ……。かしこまりました。ではその空間についても調査を進めます。勇者殿は精霊の試練に集中なされよ」
「私達もその調査を手伝ってくるわ。クサビ、頑張ってね!」
「くさびん、ふぁいとー」
「おまえなら大丈夫だ! バッチリやってこい!」
「何もお手伝いできないのが心苦しいですが、信じていますっ」
サヤ達が僕に笑い掛けながら励ましてくれた。
「皆……! うん、任せてよ! 良い報せを持ってくるから!」
僕なら大丈夫だと、皆信じてくれているのだ。これなら明日はどんな試練が来ても乗り越えられる。僕は強くそう思った。