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Ep.262 祖精霊との邂逅

 僕達が出現した場所から遺跡の入口に辿り着くまでに、様々な植物や動物の彫像などが配置され、彫像に刻まれた模様は昨日発見した彫像のものと酷似している。そしてそれらは石造りと相まって荘厳さを醸し出していた。


 この荘厳さは、古代遺跡というものを象徴するような光景だろう。


 遺跡の外観からは想像できないほどに広い入り口をくぐると、内部の光景もまた別次元に思えてくる程に荘厳だった。

 中は遺跡というより、神殿と呼ぶ方が相応しい造形だった。


 床も天井も壁も白一色で統一された空間で、床は自分の姿が映るほどに綺麗で、長い年月を経ているとはとても思えなかった。


 ここはまるで真っ白に塗りつぶされたかのような光景だ……。

 入口から左右には何本もの白い石造りの柱が建物を支え、中央には奥へと続く長い通路。その先は段差があり、さらに先には、台座に乗せられた大きな宝玉が清らかな光を放ち、神殿全体を遍く照らす。


 その光も相まって神秘的な雰囲気の神殿は、神々しさすら感じられた。


 僕達は静寂極まる神殿の長い通路を歩く。あまりに静かすぎて、聞こえるのは僕達の足音と息遣いだけ。

 そして台座の前の段差に差し掛かり、僕達は歩みを止めた。


 ……何故立ち止まったのかはわからない。

 ただ、まるで王様に謁見する時のような雰囲気と緊張を感じたのだ。


 その場違いな雰囲気に押されるように、僕は一歩一歩ゆっくりと段差を上っていく――。


「――止まれ」


 段差の半分を過ぎたその時、僕達の進行方向から、凛とした声が響いた。

 思わず僕は足を止める。


 すると僕達の眼前に、突然眩い光を発しながら一人の女性が姿を現したのだ。

 その女性の姿は美しいとしか言いようがなく、その佇まいから見る者に畏敬の念を抱かせる威厳すら感じさせた。

 ……この女性が、時の祖精霊だということは明らかだ……。


「――よくぞ辿り着いた。蒼空の髪の少年よ。久しいではないか。…………ん、いや、其方にとっては初顔であるのか」


 時の祖精霊は僕を見据えながら意味深に首を傾げると、何事も無かったように話を続けた。

 まるで僕と会ったことがあるような、独特な言い回しだ。


 僕はその精霊の言葉に引っ掛かりを覚えつつも、精霊の言葉を待った。



「我は時の流れを司りし精霊の祖。悠久、永劫の時の観測者なり。汝らは我が力を求めてここに来た。そうだな?」

「……は、はい」


 僕は緊張から掠れる声で精霊に答えた。

 他の皆は言葉を発することなく、固唾を飲んで精霊の言葉を待っている。


 そんな中精霊が僕に向けてゆっくりと口を開いた……。


「――我が力が欲しければ、我が試練を果たせ」


 時の祖精霊の言葉に、僕達の体が強張るのを感じる。

 ――試練……? それは一体……?


「汝がここに至った目的は知っている。現世に君臨する魔王、その討滅。その手段を得る為に過去へと移るのが目的だ。そうだな?」

「――っ! は、はい!」


 全て見透かされている事に驚く。祖精霊ともなると心でも読めるのだろうか……?


「蒼空の髪を持ちし少年よ、解放の神剣の光灯さんとする勇者よ。汝の心に問う。それに応える事。それが我が汝に課す試練だ」


「……はい!」


「――但し、汝一人でだ。我の試練は温くはないぞ」

「――――心得ましたっ!」

「では汝にしばし時をやろう。……汝らの時間で言えば、そうよな……。――明日、一人で此処に来るがいい」


 覚悟を決めろという事か。


「……わかりました」

「ではな」


 それだけ言うと精霊は光の粒になって消え去ったのだった……。


 その直後視界が眩しく光り、視界が白一色に包まれる。

 思わず目を瞑って、次に開いた時には視界は緑一色の森に戻っていた……。



 狐につままれたように呆ける僕達だったが、どうやら元の場所に戻されたようだ。


 辺りを見ると、木々から漏れる日の光で空はまだ明るいままだとわかった。それも太陽の位置がまったく変わっていない。


 それはまるでほんの数分しか時が流れていなかったかのようだ。

 やはり、時の祖精霊の空間の中は時間の流れが違うようだ。


「……クサビ。明日の試練のことなんだけど……」

「……うん」

「……大丈夫なの?」


 サヤが心配そうに僕に声を掛ける。


 どんな問いなのかわからないから正直僕も不安は残るが、やるしかない!


「大丈夫さ! 僕は必ず試練を乗り越えて戻るよ!」

「……そうね。……信じて待ってるわ!」


 サヤや皆の表情には、僕が帰ってくるまで待つという強い決意が読み取れた。僕はそんな皆の気持ちを一緒に連れて、試練に挑むよ。



 それから僕達は拠点に戻り、アランさんに報告した。


「左様ですか! 調査2日目にしてもう成果を出されるとは、流石ですな。ではこちらも明日は活動拠点を中央付近に前進させますぞ」


 それからアランさんに不思議な空間の事や、その中にあった遺跡の事を伝えると強い興味を示した。


「ふむ……。かしこまりました。ではその空間についても調査を進めます。勇者殿は精霊の試練に集中なされよ」

「私達もその調査を手伝ってくるわ。クサビ、頑張ってね!」

「くさびん、ふぁいとー」

「おまえなら大丈夫だ! バッチリやってこい!」

「何もお手伝いできないのが心苦しいですが、信じていますっ」


 サヤ達が僕に笑い掛けながら励ましてくれた。


「皆……! うん、任せてよ! 良い報せを持ってくるから!」


 僕なら大丈夫だと、皆信じてくれているのだ。これなら明日はどんな試練が来ても乗り越えられる。僕は強くそう思った。

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