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第21話 焼き肉屋

 翌日、鬼塚は普通に学校に来ていた。

 さすがの立神も噛みついたとはいえ甘噛みだった。

 顔は擦り傷のようなものがいっぱいついているが、特に問題はなかった。

 だが、ライオンの口に噛まれる恐怖はかなりのもので、鬼塚も暴力でまともに勝負しようという気はなくなっていた。

「あの野郎、一体なにを考えてるんだ!」

 鬼塚は腰ぎんちゃくに文句を言った。

「いや、あいつはなにも考えていないと思うよ」

「まあ、それもそうか。あいつが考える頭があるとは思えんな。ハハハ」

「そうだよ。あいつは頭の中身もライオンだからね」

「それにしても、あいつのパワーだけは手が付けられん」

 そこに立神がやってきた。

「オッス!」

 立神は相変わらず能天気な様子である。

 鬼塚は立神を睨んだ。

「よう、お前、昨日あれからどこに行ったんだ? 探してたんだぞ」

 立神が意外なことを言う。

「お前のせいで医務室で治療してたんだよ」

 鬼塚はぶっきらぼうに言った。

「そうだったのか。ボクシングを教えたら焼肉を奢ってくれるはずだろう。今日奢ってくれ」

 立神はそういうことは覚えていた。

「ボクシングを教えたらって、よく言うよ。お前が昨日やったのはボクシングじゃねえ。それなのになんで焼肉を奢らないと……ハッ、待てよ」

 鬼塚はひらめいた。

「いいぞ。奢ってやるよ。今日の放課後、一緒に焼き肉屋に行こう」

 鬼塚は立神にそう言った。

「おう、頼むぜ。さあ、腹一杯食うぞー!」

 立神は上機嫌だった。

(そうだよ。こいつを痛めつけるいい方法があるじゃねえか。焼肉を食いに行ったが最後だ)

 鬼塚はほくそ笑むのだった。


 放課後、鬼塚は立神を連れて焼き肉屋に行った。

 そこの焼き肉屋は高級店で、いつも鬼塚家が使っている店だ。

 鬼塚は父親の会社の部下に、睡眠薬を持ってくるように命じていた。

 鬼塚の父親は、跡取り息子にとにかく甘かった。小さい頃からなんでも言うことを聞いてあげていた。そして、いずれは会社を継ぐということがはっきりとしているので、会社の部下もまだ未成年の鬼塚の手下のように動くのだった。

「さあ、好きなだけ食ってくれ」

 鬼塚は立神に言った。

「ああ、遠慮なんてしねえ」

 立神はそう言うと、どんどん本当に遠慮なく注文した。

 肉が次々に出てくる。

 それを、立神は鉄板にガバッと乗せて焼けるか焼けないかのうちに食べるのだった。

(こんな食い方をして、腹を壊さないのか? いや、ライオンだから生で食う方がむしろ普通か)

 鬼塚はそんなことを思うのだった。

「なあ、なにか飲み物もいるんじゃないか?」

 鬼塚が言った。

「じゃあ、コーラくれ」

 立神はガバガバと肉を口に運びながら言った。高校生なのでさすがに生ビールは飲まない。

「おい、コーラだ」

 鬼塚は店主に言った。その時に目で合図を送った。

(フフフ、そうやって機嫌良く食べてるのもいまのうちだ。出てくるコーラは睡眠薬入りだからな。それを飲んだら、お前は当分目を覚まさない)

 店員がコーラを持ってきた。

「さあ、コーラも飲めよ」

 鬼塚は睡眠薬入りのコーラを立神に勧める。

 立神はそんなことも知らずに、出てきたコーラをゴクゴク飲んだ。

「カハァ、うめえな」

 立神はますます機嫌が良くなるのだった。

 鬼塚も適当に肉を摘まみながら、立神が眠りにつくのを待つのだった。

 しばらくすると、立神がうとうとし始めた。

 それでも、立神の手は動き、箸で肉を摘まんで口に放り込む。

(なんだよ。こいつの食い意地は)

 鬼塚は早く寝ろと思いながら、様子を見ていた。

「ああ、なんだか腹が膨れたら眠くなってきたなぁ。ハアーア」

 立神は大きくあくびをした。

 もうすでに五十人前を食べていた。そろそろ腹も膨れたというのも確かにあるのだろう。ライオンの目がトロンとしてきた。

 そして、そのままテーブルにうつ伏せになり眠った。

「ガアアアア、ガアアアア」

 立神は人間のものではない猛獣のようないびきをかいた。

 頭部がライオンなので当然なのかもしれないが。

「立神、立神」

 鬼塚は立神の肩を揺すった。しかし、なんの反応もない。

「よし、眠ったようだ。こいつを運び出せ」

 鬼塚の命令に、手下のような部下が立神に近づいた。

 すると、立神は寝ぼけたのか、急にガバッと上体を起こすと、その近づいてきた部下の腕に噛みついた。

「ギャアアアア」

 部下はあまりのことに悲鳴を上げた。

「バカ! 騒ぐな。起きるだろう」

 鬼塚は噛まれた部下に言った。

 そこに別の部下がすぐに来て、立神を噛みついている腕からはずした。

「ムニャムニャ、ガルルル。ムニャムニャ」

 立神はまたテーブルにうつ伏せになった。

「よし、慎重に運び出すんだ」

 鬼塚の計画としては、眠った立神を父親の会社の倉庫に運び込んで痛めつける予定だ。

 部下がまた立神に近づき、慎重に抱えようとした。しかし、立神は大柄なので、一人ではなかなか上手くいかなかった。

 仕方がないので、鬼塚を含めた三人で運び出すことにした。

「この野郎。重いな」

 鬼塚は立神の脚を持っていた。そして部下が立神の上半身を抱えている。

「さあ、外のクルマにこのまま移動だ」

 鬼塚がそう言った時、立神が急にガオッと動いた。

 すると立神の足が鬼塚の腹をとらえた。

「ウグッ」

 鬼塚は腹を蹴られてうずくまった。

「この野郎、寝ぼけやがって。クッ、痛い」

 すると、今度は立神は、

「俺は最強だー!」

 と言いながら、上半身を抱えている部下を振りほどいて、ガオーっと立ち上がった。

「うわ、うわああ」

 部下は弾き飛ばされた。

「なんだよ。こいつの寝ぼけ方は? 取り押さえろ!」

 鬼塚は慌てて部下に命じた。

 部下も必死で寝ぼけている立神を取り押さえようとするのだが、パワーが違った。

 立神は飛び掛かってくる部下を軽く弾き飛ばした。

 そして、未だうずくまっている鬼塚の方を向いて急に止まった。

「うん? おさまったのか?」

 鬼塚はそう言うと、立神はゴソゴソと動いて、ファスナーを降ろしイチモツを出した。

「えっ」

 鬼塚はなにをするんだと呆気に取られて見ていると、立神がそのまま鬼塚に向けて、ジョバジョバジョバとまき散らすように大量の尿を放出した。

「ぐわあああ。やめろ!」

 鬼塚は頭から立神の小便をシャワーのように浴びてしまった。

「この野郎! 許せねえ」

 鬼塚は怒って立ち上がり、立神に殴りかかった。

 しかし、立神はそんな鬼塚に力いっぱいパンチを喰らわせた。

 バコーンと弾き飛ばされた鬼塚は、テーブルをなぎ倒しながら床に倒れた。

「ガオオオ!」

 立神はどんな夢を見ているのか、急に吠えた。

 ライオンの雄叫びに、部下たちは震えあがった。

 すると立神は、おもむろにズボンを降ろしてしゃがみ、ブリブリブリと床に大量脱糞するのだった。

「ギョエエエ!」

 部下たちはその行為と強烈な臭いに悶絶した。

「うわあああ、やめてくれー!店がめちゃくちゃだ!」

 店主が叫びながら奥から出てきた。

 立神はすっきりしたのか、座敷の方へと移動し、畳に上がるとそのまま眠った。

「もうやだ!」

 鬼塚は叫んだ。

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