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第39話 行方

 カイリとジュニアが黒のツナギに着替えて自室から出てきた。


「リカコも出るのか?」

 制服のスカートの下にレギンスを履き、ブラウスの肩から下げた銃ホルダーのベルトを締めている。


「そして持ち歩いてるって言う事実ね。予備のリール出してくるよ」

 苦笑いのジュニアが部屋に戻って行った。


「ただ待ってられるほど気が長くないの。

 言ったでしょ? 表の仕事は苦手なの。ちゃんと裏方に徹するし、テイザーガンはあくまで自衛用よ」

 リールのセット状態を確認すると、2丁の銃を左右のホルダーにセットする。


 長い髪を1つにまとめ、ジュニアから予備のリールを受け取るとポケットに滑り込ませた。


「しかし、なんでカエはよく狙われるんだろうなぁ」

 ポツリと呟くカイリにジュニアとリカコの冷たい視線が刺さる。


「今更?

 カエは書類上〈おじいさま〉の孫だからね。矢面に立ちやすいんだよ。何かあった時には真っ先に狙われるし。

 ほぼ生け贄だよね。

 それに昔から小柄でパワーもスタミナもなかったし、スピードや運動能力はいいけど僕やイチほどじゃない。

 リカコみたいに情報収集、処理能力もないし、銃の命中率も高いわけじゃない。

 その分メゲない根性は随一だけど。カエも自分がトカゲの尻尾だってわかってると思うよ。

 でもだからって他にはどこにも行けないでしょ?」


 ジュニアの言葉にカイリが頭を抱える。

「ジーザスっ! うちの末っ子はなんて運命だったんだ」

(でもカエちゃんって、いるだけでみんながフォローしたくなる子なのよね)

「て言うか、気づいてなかった事にびっくりだよ」


 ###


 車に乗せられてから小1時間は走ってる気がする。


 後部座席の窓はカーテンが敷かれて、外の光さえシャットアウト。

 角を曲がるたびに頭の中の地図を照らし合わせていたけど、相手もそれを読んでやたらめたらと曲がってるようで、途中で諦めた。


 ま。インカムをオンにしているし、ジュニアが探してくれるのを待つしかない。


 それより何より、M360Jの拳銃を所持していた事。

 あたし達を狙う理由が気になる。


 昨日、あのまま拉致られてたらイチを巻き込まなくて済んだのかなぁ。


 車が大きくカーブして砂利を轢いていく振動を感じる。

 ゆっくりと停車する車内でイチと視線を合わせた。


「降りろ」

 痩せ男が銃を振り、前の席から男達の降りる音を聞く。

 車内で撃たれなかったからって、移動先で撃たれない保証はない。


 むしろ危険度アップだし。


「あたし達みたいな普通の高校生を拉致ラチった所でなんの得もないんじゃないの?」

 一応シラを切ってみるけど。


「普通の高校生?

 世の中の普通の高校生は、夜道で襲って来た不審者の喉を潰して返り討ちにしたりはしない」


 そうでした。


 痩せ男が自分のスマホを取り出す。

「鳥羽太一。間宮香絵。残りは後3人だ。」

 こちらに向けたスマホの画面にイチとあたしの写真が写っていた。


 ###


 刑事ドラマにでも出てきそうな、ザ・廃工場。


 おそらく昔は事務所として使われていた2階の奥の部屋に押し込まれる。

 ほこりまみれの会議机とパイプ椅子が部屋の隅に置き去りにされていた。


「どう思う?」

 手前の部屋では痩せ男が電話を掛け、運転手の男がこちらを見張っている。


 あたしの問いかけに、イチがチラリと手前の部屋に視線を走らせた。

「どこの指揮系統で動いているかはわからんけど、立ち回り方から見ても間違いなく警察関係者。ターゲットは俺たち5人全員」


「絶対越智ダヌキ、絶対越智ダヌキ、絶っっ対越智ダヌキっ!」

「何で3回も言うんだよ。全く。本庁に暗殺請負の部署がない事を祈りたいな」


 ボソボソと会話をする。


「インカムはまだ反応無しか?」

 見張りに悟られないように、ブラウスの袖口にインカムを押さえて頭を抱えるように両手を耳にかざす。


 イチは何でもポケットに入れっぱなし。

「無音。

 1時間くらい走ったかな? 4時頃として、ジュニアも丁度帰って来たくらいじゃない?」


 常にインカムに向かって誰かが話しているわけじゃないけど、オンになれば外の音が聞こえるはず。


「……。この後、場がどう動くかなぁ。

 やっぱり。1人ぼっちじゃなくて良かった」

 イチの手がぽふぽふとあたしの頭を叩いてくれた。


 ###


 ほこりまみれのパイプ椅子には座る気になれず、壁に背を預け膝を折る。


 イチは気にせず床に座ってるけど。

 どれくらいの時間が経っただろう?

 この時期はだいぶ日が長い。磨りガラスを通して見る空は、まだ夕焼けには程遠そう。


 ノブを回す音にあたし達も立ち上がる。

「上と連絡が付いた」


 ニヤニヤと、痩せ男と大柄男が入ってくる。

「俺たちが警察関係者だとは気付いているだろう?

 M360J〈SAKURA〉。こいつを見た時のお前たちの目でわかった」


 銃を向けてくる痩せ男に、イチがあたしをかばうように一歩前に出てくれる。


「残念だなぁ、まだ子供の頃からいろいろしごかれて、辛い思いもしたんだろうにな」


 急に何言ってる?

 さして同情している様子もない表情。


「ま、組織なんてのはそんな物だ、要らなくなったもの、邪魔になったものは切り捨てる。

 上は思った事を言うだけ。実行するのはいつだって俺たちの様な下っ端だ」


 切り捨て。

 急に心臓が握られた様な痛みを覚える。


 嫌だ、言わないでっ。


「この拉致の首謀者は

 櫻井警視総監だ」

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