人のいなくなった売り場から拝借(はいしゃく)した工具箱の中身をチェックしていたジュニアが立ち上がった。
「さてと、どこから行く?」
「ああいう書面を出したり写真を載せたり、自己顕示欲(じこけんじよく)の強いヤツはそれなりのヒントを置いていくんだろ」
上着の袖をまくるイチがチラリと時計に視線を走らせる。
「爆破予告時間まであと30分」
「むやみに走り回ることもないかな。
えと。バベルと雷はこの商業施設と爆発物だよね。
この手で守銭奴を倒す。王になる。
ハトとリンゴ」
スマホの画面を見つめるジュニアがつぶやくように言葉を唇に乗せる。
「王は権力の象徴だ。守銭奴は……お金? 権力。
んー。この場合は他者を使う『立場』かな。
となると、元従業員が上司や経営者に恨みを持っての犯行ってところかな。
動機単純すぎ?」
「さあな。
その辺の解明は
次の動き方が決まらなければどうにもならない。
長い付き合いで、ジュニアは答えに納得してからでないと動かない性格なのは分かっている。
「ハトとリンゴは?」
先を促(うなが)したイチの中で、何かが引っかかった。
ハトとリンゴ。
ごく最近に聞いたフレーズだ。
「『ハトがついばむリンゴはその始まり』
スタート。合図。
んー。爆破は予定時刻かあったんだ。ハトに委(ゆだ)ねていたら、いつ起爆(きばく)するかなんて分からない。
『ハト』は何かの置き換え」
なおも思考に集中するジュニアに、イチも内心焦りが募(つの)る。
発見したら終わり。じゃない。起爆の解除も含めてタイムリミットは午後3時。
「3時」
ハトが出るのは3時間ごとだったろ。
この商業施設に入る前に、ジュニアと交した会話がイチの中で蘇(よみがえ)る。
「ジュニア、時計だ。
ここの外から見たデカい仕掛け時計!
午後3時にハトがリンゴを食べに来る」