私は、ふと思い出し、タンクさんに顔を向ける。
「そういえば、タンクさん!」
ずいっと近寄る私に、押され気味に「お、おう。」と答える。
私は続ける。
「タンクさん失恋したって、聞きました!失恋って悲しい事だって、私知ってます!私で良ければ相談にのりますから気軽に話してくださいね!」
タンクさんは私の話を聞いて、「ちょっと待て。」と言い、左手で私の前に壁を作る。
「その話。誰から聞いた?」
そう、静かに聞くタンクさんに、私は疑問符を浮かべつつ答える。
「リズさんですが?」
「リズぅ!!」
私の言葉を聞いた瞬間、タンクは低い声を上げ、リズさんの方を見る。
リズさんは背を低くして、どこかへ行こうとしていた。
タンクさんに名を呼ばれた彼女は、背を伸ばし、慌てた様子で話す。
「ほ、ほら。よかったじゃないか。リチュはお前の話を聞いてくれるってよ。」
「勝手にホラ吹きやがって!! 許さねぇからな!!」
タンクさんは背中にしょっている大斧を持ち上げる。
「やっべ!これ、まじでキレてるわ!!」
リズさんは、タンクさんから逃げ出し、彼は彼女を追いかける。
「逃げるな!」
「ちょっと待ってくれ!お前の本心を隠したうえで、あの質問に答えるにはそう言うしかなかったんだよ!お前に気を使ったんだぞ!」
「黙れ!」
タンクさんとリズさんは、追いかけっこを続ける。
「争いは───」
私が2人を追いかけようとしたが、それをリードさんが止める。
「放っておけ。彼らはちょっと、じゃれてるだけだ。」
「おい!リード!! お前も結構性格悪いよな!」
リズさんはそう叫んだ。
──────────
「あんなに怒らなくてもいいのによぉ。」
リズさんは、タンクさんに殴られて、出来たたんこぶをさすりながら愚痴を言う。
タンクさんは、「俺はとりあえず、ダイヤとかいう男が森の周りにいないか見てくる。それまでに、ちゃんと誤解をといておけよ!」とリズさんに言って、森に入っていた。
たんこぶをさするリズさんの頭の上に、ウィングさんが乗る。
「なんだよ?」
ウィングさんを睨むリズさんに向かって、ウィングさんは風魔法をかける。
すると、リズさんのたんこぶがみるみるうちに消えていく。
ウィングさんの風魔法を感じたのか、さっきまで寝ていたチュンチュさんが起きて、慌てた様子で、リズさんの肩に乗り、歌を歌う。
「あ、ありがとう。こっちのナイトバードは結構優しいんだな。昨日も私に治療してくれたしな。」
リズさんは、頭の上に乗る、ウィングさんを見る。
そして、次にチュンチュさんの方を見る。
「こっちも、ああ。多分回復魔法が出来ないのも知れないが、優しいのは伝わった。だが───。」
リズさんが最後に、ヘッドさんと睨みあう。
「お前だけは、やっぱ気に入らねぇわ。」
そんなリズさんに、リードさんは飽きれたように言った。
「ナイトバード相手に、威嚇しあうのやめてくれ。恥ずかしくないのか?」
「うるせぇな。こいつは私の頭をつついてくるし、睨んでくるし、むかつくんだよ。」
今にも喧嘩しあいそうな2人の視線を妨害するように、ヘッドさんの目の前で、手の壁を作る。
「そ、そういえば、タンクさんの言っていた。誤解ってなんですか?」
「そ、それは…。」
私の言葉に、リズさんは誤魔化すように目をそらす。
「なんですか?」
私は、リズさんの目を追いかけるように、顔を移動させる。
「や、やめろよ!人の形じゃなくなってきてるぞ!そ、それより。」
リズさんが、後ろを向いて言った。
「タンクのやつ、遅くないか?少し様子を見に行かないか?」
リズさんの言葉に、リードさんも頷く。
「確かに、ちょっと遅いな。少し様子を見に行ってくる。」
「わ、私も行くぞ。」
リードさんとリズさんは、村の出口へと向かう。
「あ。私も行きます。」
「お、おい!なんでリチュまで、ついてくるんだよ!」
私を拒否するリズさんに向かって、私は言う。
「何かあった場合、数が多いほうがいいでしょう?それに、タンクさんの言っていた誤解の話が気になります。」
「だ、だからそれは…。」
私はなかなか、話さないリズさんに同じ質問をしながら、森の奥へと走っていった。
──────────
「タンク⁉」「タンク⁉」「タンクさん⁉」
私達が、森の奥をしばらく歩いていると、倒れているタンクさんと、その前に、緑色の髪と目をした。私を騙して人間の敵にしたピエロ少女がいた。
「ぷふ~。この雑魚男の仲間じゃ〜ん。それに、雑魚スライムもいるじゃない。」
ピエロ少女は、私に向かって馬鹿にするような笑みを向ける。
「アンタ。人間と仲良くなれたんだ。あんなに嫌われてたのに、体でも売ったの?」
クビを傾げる私を無視して、リードさんが言う。
「スライムの村を調べた結果。人間に危害を加えてないことが分かった。だから俺らはこいつらを信用した!それだけだ!!」
「ふん、ど〜だか。すぐにその本性さらけ出してやるわ!! この『猛獣使い・クローバー』がね!」