「お前ら逃げろ!!」
タンクさんが、私達に向かってそう叫ぶ。
それを見てクローバーさんが、タンクさんを笑う。
「フフッ!本当にこいつらを守りたいのね。アンタは。
そうだ!こいつらに聞かせてやるよ。アンタの武勇伝。」
クローバーさんが、小馬鹿にするような顔をしたまま、私達を見る。
「聞いてよ。こいつ、アンタらを守る為に、必死で戦ってたのよ。」
その後、クローバーさんが、『クローバーさんとタンクさんが出会ってから、私たちが来るまで』の話をし始めた。
私はその話から、その光景を思い浮かべた。
──────────
「まったく、リズのやつは。勝手に変なこと言いやがって…。」
そんな事を呟くタンクの後ろから、クローバーがブラックドラゴンに乗って現れ、彼に話しかける。
「お兄さ~ん!ちょ~っとアタイと話さねぇ?アタイはクローバー。猛獣使いのクローバー。付き合ってよ、鎧のお兄さ~ん。」
タンクが、自分に話しかけてきたクローバーを見て驚く。
「お前は!? あの時ドラゴンに襲われてた少女!! なんで、ブラックドラゴンと一緒にいるんだ!!」
驚くタンクに、クローバーが腹を立てる。
「あのさぁ!ドラゴン、ドラゴンって。この子には『ノワール・トルネード・グレーティスト・オメガ』っていう、とってもハイセンスな名前があるんだけど!?」
しかし、彼女はすぐに、タンクを小馬鹿にするような態度をとる。
「それにぃ。アタイがなんでこの子と一緒にいるか分からないって?アンタ、バカ?どう見たって、あの時この子を使って、アンタらを騙して、あの
タンクは、彼女の言葉に怒りを覚えた。
「お前。今なんつった?」
「ぷふ。なぁに?もしかしてアタイにバカにされた事、気にしてたりするぅ?」
「そんな訳ないだろ!! ふざけるのもいい加減にしろ!!」
タンクが背中に携えていた大斧を取り出し、クローバーに向かって振り下ろす。
「おっと。危ない。」
クローバーはそれをいとも簡単に、ドラゴンごと移動して避ける。
「お返しするよ!!」
そして、クローバーがそう言うと、ドラゴンが尻尾でタンクを押し飛ばす。
「ぐはっ!!」
吹き飛んだタンクは、後ろにあった大木に叩きつけられる。
「あのねぇ。アタイは別に、アンタと戦いに来たわけじゃないの。話さないって聞いたじゃない。」
「何が聞きたいって言うんだよ!」
「ダイヤの居場所。知らない?」
クローバーの言葉に、タンクは驚く。
「ダイヤを知っているのか⁉」
「知ってるよ。だって、ダイヤとアタイは仲間同士だもん。で、どこにいるの?昨日から連絡が取れないんだよね。」
頭をかく彼女に向かって、タンクが言う。
「そいつは、俺の仲間が殺したらしいが。」
タンクの答えに、クローバーがまた、小馬鹿にしたように笑う。
「ぷふ~。バッカじゃないの?アタイら悪魔族が、そう簡単に死ぬわけないじゃない。そんなウソついても無駄無駄。」
何も答えないタンクを見て、クローバーが続ける。
「ま、いいや。話してくれないなら。どうせ、あいつ。『ヒューマ』の村に行くって言ってたし。そこ襲えば見つかるかな。」
クローバーのその言葉に、タンクは怒声を上げる。
「待てよ。そ、そうはさせねぇぞ。」
痛みに耐えながら、ゆっくりと立つタンクを見て、クローバーが笑う。
「ぷふ。どうするの?アタイのノワール・トルネード・グレーティスト・オメガにアンタ1人で勝てると思ってるの?」
「勝てるとは思ってねぇが、それでも、リードにリズ。それに、
猛獣をもビビらせるような、威圧感を出すタンクを見て、クローバーが言う。
「ふ~ん。…、ほんとバカ。」
ドラゴンが前足で、タンクをはじく。
吹き飛んだタンクは、木々を2、3本分貫通して吹き飛んだ後、うつ伏せに倒れる。
「ぷふ~。あんなに、いきまいといて、この体たらく。雑魚すぎ~。」
ドラゴンに乗ったクローバーが、タンクの目の前に移動する。
そして、ドラゴンが前足を上げる。
「じゃあ。死ね。」
ドラゴンが、タンクを押しつぶそうとした時、タンクの名を叫ぶ者が2人と1匹。
リードとリズ。そしてリチュだった。
──────────
「どう?こいつの武勇伝。いきまいた割にめちゃくちゃあっさり負けて、だっさくね。」
クローバーさんは話を終えた後、ゲラゲラと笑う。
それを見て、リズさんが激怒する。
「何がダサい⁉ 命がけで、守ろうとしたタンクを馬鹿にするな!!」
リズさんの怒りに、クローバーさんは笑顔のまま言う。
「なんでよ。どれだけ命を賭けたって、結果、守れなければ何の意味もないじゃない。」
しかし、彼女はその後、少し笑顔が消える。
「そう…。助けられなければ意味ないのよ…。」
しかし、その悲しげな表情は一瞬で終わる。
「アンタらもこの、さいっきょーの猛獣使い。クローバー様が殺してあげる。そうしたら、この雑魚男の頑張りなんて無駄になるでしょ?」
クローバーさんのその言葉に、リズさんが挑発する。
「ふん。何が『さいっきょー』よ。ただ、そのドラゴンが強いだけで、アンタはただの、虎の威を借りる狐じゃない。」
その挑発に、クローバーさんは腹を立てたようだった。
「は?アタイはね。どんな猛獣でも操れるの!それこそが、アタイがさいっきょーって証よ。例えばそこのナイトバード!!」
クローバーさんが、ブラックドラゴンの背から降りて、私の頭の上で寝ているヘッドさんを指さす。
他の2匹は殺伐とした場の空気を感じたのか、いつの間にかどこかへ行ってしまったのだが。ヘッドさんはそんな中でも私の頭の上で寝ていた。
「ヘッドさんですか?」
私が頭の上に目を向け、その子の名前を呼ぶ。
「へぇ。『ヘッド』っていうのね。スライムの癖に良い名前をつけるじゃない。」
クローバーさんが私の目の前に移動する。
そして、そこでなぜか私の目の前で地団太を踏む。
「ちょっと、雑魚スライム!! アンタしゃがみなさいよ!! アタイの手がヘッドさんに届かないじゃない!!」
私はクローバーさんの言うとおりに、しゃがむ。
そして、ヘッドさんの目の前に、人差し指を向けて言う。
「じゃあ、ヘッドさん!! アタイに回復魔法!!」
そう言われたヘッドさんは───
────グサッと、クローバーさんの指をくちばしで刺す。
「ポピーーーーーー!!」
クローバーさんはそう叫んで、地面に転がる。
それを見たドラゴンが、急いでクローバーさんの方へ近寄り、ヘッドさんに向かって威嚇する。
ヘッドさんも威嚇しかえす。
私達は、怖がるブラックドラゴン相手に、度胸あるなぁ。
「ふん。やっぱり、アンタは何もできないじゃない。」
リズさんが、クローバーさんに近寄りながらそう言う。
「おい、リズ!あまり前に出るな!」
リードさんの注意も無視して、クローバーさんの目の前に行く。
「やっぱり、虎の威を借る狐。いや、ドラゴンの威を借る自称最強少女。アンタ1人じゃ何もできないじゃない。」
馬鹿にされたクローバーさんは、ゆっくりと立ち上がり、怒りの表情を見せる。
「言ってくれるじゃない!でもね、アタイだって努力したんだよ!」
クローバーさんの右手から、大量の風のマナが出てくる。
そして、彼女は拳を握り締める。
「リズさん!危ないです!!」
「え?」
私の叫びに、リズさんは混乱する。
そして、クローバーさんが拳を振りかぶる
「
クローバーさんのパンチを食らった、リズさんはものすごい勢いで吹き飛び、木にぶつかる。
「ぐは!」
「「リズ!!」」「リズさん!!」
リードさんとタンクさん。そして、私が吹き飛んだリズさんを心配する。
クローバーさんが、それを見て笑う。
「ふふ。どうかしら。自分の拳に風魔法を纏わせて、殴りつけ、一瞬にして2回連続の攻撃を与える技。アタイも戦えるって分かったかしら!!」
場の空気に緊張が走った。