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第14話 そして誰も

「リチュ姉!リズ姉!タンクさん!大丈夫か!」


 私達の逃げた先の森から、ガキンさんが顔を出す。


「ガキンさん!?」


 私が驚いてそう言うと、キズーさんも姿を現す。


「僕もいるよ。」


「キズーさん!?」


 私が驚いていると、リズさんが大きな声を出す。


「お前ら!なんでこんな所にいるんだよ!! とにかく、危険だから村に戻ってろ!!」


 そう言う、リズさんに、キズーさんとガキンさんが抗議する。


「ダイヤってピエロを倒した時、誰の作戦だったっけ?」


「おう!言ってやれキズー。俺が2人を助けたって。」


「うん。僕ね。」


 腕を組んでそう言う2人に、リズさんが再び大声を出す。


「どっちだっていい!! それに、あの時は助かったが、今回は話が違う!見ろ!あのドラゴンを!!」


 リズさんが、ノワトルさんを指さそうと振り向く。

 私もそちらに視線を持ってくと、クローバーさんが、腰に手を当ててイライラしているのが見えた。


「ねぇ!アタイを放置して、なに、なかよしこよししてんの?腹立つんだけど?」


「うるせぇ!さっさとそのドラゴンごと倒してやるから覚悟しろガキンチョ!!」


 剣を向け、そう叫ぶガキンさん。

 それに対して、クローバーさんは地団駄を踏む。


「アンタに言われたくないんだけど!っていうか、アタイは16年以上生きてんだけど!大人なんですけど!」


 その言葉に、私以外の皆が「えっ!?」と驚く。


「はぁ!? 何その反応!アタイが大人に見えねぇての?あぁ!腹立つぅぅ!!」


 地団駄を踏むクローバーさん、それを見てか、ノワトルさんも怒るように雄叫びをあげる。


「うぅ…。」


「お、おい!何ビビってんだキズー!」


「ガ、ガキンだって、足震えてるじゃん!」


「ばっか!おめぇ。これは武者震いだよ!」


「「なんだって良いから、お前ら早く逃げろ!!」」


 言い合いをするガキンさんとキズーさんに向かって、リズさんとタンクさんがそう言った。


「だ〜か〜ら〜!なかよしこよししてんじゃねぇ!ノワール・トルネード・グレーティストオメガ!!」


 命令されたノワトルさんが、雄叫びをあげ、こちらに向かって走る。


「まずい!!」


 タンクさんが私達の前に立ち、盾を構える。


「ぷふ〜。まだ、分からないの?アンタみたいな雑魚。また飛ばされるのがオチよ!」


 そう、タンクさんを笑うクローバーさん。

 ノワトルさんが右前足を持ち上げる。


「『魔法の壁トーチカ』!!」


 私が、タンクさんの前に『魔法の壁トーチカ』を出す。

 しかし、さすがはドラゴンの攻撃か、『魔法の壁トーチカ』はすぐに壊れてしまう。

 ただ、それにより威力が殺されたのか、タンクさんはノワトルさんの攻撃を防ぐことが出来た。


「『水柱スプラッシュ』!!」


 リズさんが、ノワトルさんに杖を向けると、ノワトルさんの下から水が出てきて、ノワトルさんの顎を攻撃する。

 ノワトルさんは、情けない声を出し、私達から少し離れる。


「『水柱スプラッシュ』が効いた!? もしかして、顎が弱点なのか!?」


 それを聞いてクローバーさんが焦る。


「べ、別にノワール・トルネード・グレーティストオメガの顎に古傷があるとかじゃねぇから!! 全く関係ねぇから!!」


 それを聞いて、リズさんはニヤァと笑う。


「なるほどね!いい事聞かせてもらったわ。バカガキ・・。」


 その言葉に怒ったのか、ノワトルさんが、雄叫びをあげ、リズさんに向かって走る。


「ストーップ!ノワール・トルネード・グレーティストオメガ!アタイは怒ってないから!ひとまずあの女から離れろ!」


 クローバーさんがそう叫ぶ。

 ノワトルさんはそれを聞いて、小さく鳴く。

 それに、クローバーさんは「いいから。」と返す。


「ちっ!結構冷静じゃねぇか!」


 自分から離れるノワトルさんを見て、舌打ちをするリズさん。


「当然じゃない!仲間の身が危険になるって分かってて向かわせる訳ないわ!」


 クローバーさんがそう言うと、ノワトルさんが鳴く。


「ほら!ノワール・トルネード・グレーティストオメガも「相棒の事を第1に考えるのは当たり前よ」って言ってるじゃない!」


 そう言って、腰に手を当てるクローバーさん。

 私は、とある考えを思いつき、リズさんに言う。


「私が、ノワトルさんの注意を引きます。そのうちに、再び攻撃を!」


「あ、ああ。わかった。」


 リズさんはそう言うと、杖を構える。


「ぷふ〜。アンタみたいな雑魚スライムがこの子の相手を出来るわけないじゃない。って言うか、いい加減ノワトルじゃねぇって言っただろ!」


 そうやって怒るクローバーさんに向かって、走る私。

 そして私は、クローバーさんの所へ行く途中で、大きなドラゴンの姿になる。


「な!?」


 慌てるクローバーさん。

 しかし、彼女より慌てた者がいる。

 ノワトルさんだ。

 そのドラゴンは、私に向かってものすごい勢いで走ってくる。


「待て!! ノワール・トルネード・グレーティストオメガ!! これは罠だ!!」


 そう。この行動は完全に、ノワトルさんの注意を私に向けるための罠。しかし分かっていても『相棒のことを1番に考える』。


 ノワトルさんが、私に体当たりをする。

 しかし、あまりにも柔らかい体に打撃は効かない。

 むしろ、近寄ってきた、ドラゴンの体を私の体で固定する。


「リズさん!今です!!」


 私が叫ぶ。

 リズさんは勝利を確信した笑顔で答える。


「ああ、任せろ!! 取っておきの大魔法の準備を整えてたぜ!! 『大噴水ウンディーネ』!!」


 ノワトルさんの顎の下の地面に、とてつもない量の水のマナが溜まる。

 そして、大きな水柱が、ノワトルさんの顎に向かう。

 私がその場を離れると同時に、水柱がノワトルさんに直撃し、ノワトルさんは倒れね気絶してしまった。


「ノワール・トルネード・グレーティストオメガ!!」


 クローバーさんがそう叫ぶ。

 それと同時に、リードさんが、リズさん達の方へ戻ってきた。


「かなり飛ばされてしまったが、あの魔法。リズのあれが出たってことは決着は着いたみたいだな。」


「おせぇぞ。リード…。このノロマが…。」


 ふらふらとして、地面に倒れそうになった彼女をリードさんが支える。


「悪いな。ありがとう。」


「許さねぇ!許さねぇぞ!アンタら!!」


 突如、クローバーさんの怒声が聞こえる。


「ノワール・トルネード・グレーティストオメガの仇!ぜってぇとるからなぁ!『音速弾ソニック』!!」


 クローバーさんは、小さな竜巻を出しながら私の方へ走ってくる。

 私はそれを避け、火のマナを集める。


「『囮花火トーチ』!!」


 小さな火の玉が、私の手から放たれ、クローバーさんの元へ向かう。


「2度も食らうかよ!!」


 クローバーさんはそう言って、自分の目の前で手を合わせた。

 すると、彼女を中心に竜巻のような風が起こる。

 『囮花火トーチ』はそれに巻き込まれてしまう。


「『道化師クラウンフラッシュ』!!」


 そして火の玉がこちらに帰ってくる。


「おお〜!?」


 対応できない私の目の前で、火の玉は大きく爆発する。

 その勢いに私は一瞬びっくりする。


「リチュお姉さん!危ない!! 『泡の壁シャボンカーテン』!!」


 キズーさんが私の方へ走ってきながら、魔法を使う。

 しかし、クローバーさんもこちらに走りながら両手を広げる。


「『クローバーは倒れないエアーウーマン』!!」


 クローバーさんが、大量の竜巻を放ち沢山の泡を押し飛ばす。


「うぅ…。」「つっ…。」


 私とキズーさんは、跳ね返された泡で、大量の傷を負う。


「リチュ姉!! キズー!!」


「タンク!リズを頼む!」


 ガキンさんと、リードさんが、こちらを心配して走ってくる。

 大量の竜巻に、飛ばされそうになりながらも、2人はクローバーさんの目の前にくる。


「はっ!!」


 リードさんが、剣を振り下ろす。

 しかし、クローバーさんはそれを左に避けるが。


「はぁ!!」


 左側にいたガキンさんの、剣にあたり、彼女の腕は切り落とされる。


「くそ!やるじゃないの…、よ!!」


 クローバーさんが、ガキンさんを蹴って距離をとる。

 そして、彼女は再び、片膝を地面に付けた。


「『待の構えミリタリースタイル』!これで殺す!このさいっきょーの構えを突破してみなさいよ!」


 クローバーさんは次々に『音速弾ソニック』を放つ。

 そんな彼女の真上に、小さな黒い雲が集まっていく。


「突破してやるよ…。『落雷サンダーボルト』。」


 タンクさんに担がれた、リズさんがそう静かに言う。


「バカね!上にも撃てるわよ!『音速弾ソニック』!!」


 クローバーさんは頭上に向かって腕を振り、黒い雲を消し去る。


「今だ。リード!」


「ああ。」


 クローバーさんの、攻撃が止んだ直後、リードさんは彼女に、一気に近づく。


「なっ!罠だったのか!?」


 驚くクローバーさん。しかしもう遅かった。

 リードさんは、彼女を上半身と下半身で切断した。


 ──────────


「ちっ!痛いじゃない!」


 クローバーが、リチュ達を睨む。


「な!お前!まだ生きているのか!?」


 驚くリード。


「悪魔がこれぐらいで死ぬわけないでしょ!すぐに再生して!アンタらをぶっ殺してやる!!」


 怒るクローバーの目の前で、リチュがしゃがむ。


「『痛いのヒー痛いの飛んでいけリング』」


 リチュはクローバーに、水の魔法で治療する。


「なんのつもりよ!」


 悪魔の力もあってか、切れた体すら再生したクローバーは、リチュを睨む。

 リチュは、それに笑顔で答える。


「私は、貴方のせいで、多くの仲間を失い、信頼を取り戻すのに苦労しました。だからと言って、必要以上に傷つけたくもありません。なので、身体を直したお詫びとしてでも、本心でも構いません。罠にはめた私達に謝罪してください。」


 クローバーはそんなリチュの言葉に驚く。


「お前…。」


 そして彼女はリチュをバカにしたように笑う。


「ぷぷぷ。バカじゃねぇの!体が戻ったんならお前を殺す!それは曲げる気ねぇわ!!」


 それを聞いて、リチュは悲しげな表情をする。


「そうですか。それでは仕方ありませんね。」


 リチュはそう言って立ち上がり、いたずらっ子のように笑う。


「謝ってくれるまで、お仕置き・・・・です!」


「な、何をする気だ!!」


 警戒するクローバーに向かって、リチュは脇腹をくすぐる。


「ぷふ!やめろ!!」


「ふふ〜ん。私知ってるんです。人間達は、ここをくすぐると嫌がりつつも笑うんです。苦しくないけど嫌なこと。悪い子へのお仕置きとして最適なんです!」


 リチュが、クローバーをくすぐる姿を見て、ガキンとキズーは、自身を抱きしめる。


「リチュ姉のあれ。結構きついんだよなぁ。」


「うん。」


 リチュ達を見て、リードとリズ、タンクは静かに笑う。

 そしてそのまま、その世界は意識を失った。


 ──────────


「アハハハハ!辞めろよ!クソスライム!!」


 アタイはそんなことを言いながらも、心の底から笑っていた。

 何年ぶりだろう。こんなに気持ちのいい笑いは。

 最近は人の不幸ばかり笑って、バカみたい。あいつら、みたいじゃんか。

 アタイは、子供の頃を思い出す。

 背が低いことをバカにするあいつら。

 アタイはあいつらが嫌いだった。だから人間と、距離を取った。

 友達だったのは、獣たちだけ。

 彼らは沢山、面白い話を聞かせてくれたし、沢山話を聞いてくれた。

 ある時、友達の1羽が、面白い集団がいたと言っていた。

 アタイがそこに行ってみると、3人の変な化粧をした人間共がいた。

 アタイは、そいつらの芸を外から見てみた。

 あいつらのやる事はボールに乗ったり、ナイフを投げたり、意味の無いことばっか。くだらない。

 そう思って、アタイは、友達を呼んで帰ろうとした。

 しかし、アタイが友だちと話している事を、彼らは凄い芸だと褒めてくれた。

 正直、嬉しかった。

 それから、彼らの仲間になった。

 アタイは独りじゃなくなった。それからは楽しかった。沢山沢山笑った。

 そう。あの時まで。

 アタイの脳裏に浮かぶ、水色髪の少女。壁に潰され、血まみれの…。


「つっ…。」


 アタイは頭痛がして、閉じていた目を開ける。

 そこは、今までいた森と違って、真っ暗な場所に来ていた。


「ここは?」


「『貴方達は、あのスライムに負けると、あの娘を思い出す風習でもあるんですか?』」


 アタイの目の前に、忌々しい女が降りてくる。


「お前は!確か、モルガナ!!」


 あの女は、アタイを見て、バカにしたように笑ってきた。


「『アンタらには心底嫌われてるみたいね。』

 『俺はお前らに救いの手を出したんだぞ?感謝すらされど、恨まれる覚えはねぇんだがな。』」


 アタイは、モルガナのその態度に怒りを覚える。


「何が救いの手よ。アンタが、いなかったら!アンタが、悪魔の契約を持ち出さなきゃ!」


「『あの娘は、道具に潰され死んでいた。』」


「なっ!」


 モルガナはアタイの言葉を遮るように言ってきた。


「『私が、悪魔の契約を持ちかけたから、あの娘は道具の下敷きにならずにすんだんです。』

 『その後のことは俺には関係ねぇだろうがよ。』

 『あの娘がぺちゃんこのドロドロスライムになったことも、あの男がシリアルキラーになったのも。』」


 モルガナの言葉を聞く度、アタイのイライラは増していく。


「せめて、せめて人間のままだったら!あいつは!アタイ達は!苦しみながら生きてなくてよかった!!」


 アタイの叫びに、モルガナは静かに笑う。


「『ああ。その事ですが。

 もう、苦しまなくて大丈夫ですよ。』

 『お前も、ダイヤと同じように、殺してやるよ。』」


「は!? あ、アンタがダイヤを殺した!?」


 悪魔が死ぬなんてありえない。でも、こいつならもしかすると…。


「『ええ。殺したわ。アンタもちゃあんと殺してあげる。』

 『君の絶望は、もう分かってるしね。早速準備をしようか。』」


 モルガナが指を鳴らすと、アタイの下の床が抜け、アタイはどこかへ落ちていく。


「いって。」


 アタイがお尻をさすっていると、突然。暗闇から、体がブリザードウルフ、顔がゴブリンナイト、尾はケットシー、そして、ナイトメアバードの羽を持つキメラが姿を現した。


「な、なにこの子…。」


 アタイは目の前の、不気味な生き物に後ずさりする。

 その子からは、何やら小さな声が聞こえる。


「こたにく…ろすがわ…しけしし…てててて…。」


 声が被って、何を言っているか分からない。アタイと意思疎通ができない。


「『話をしようとしても、無駄ですよ。』

 『そいつは、俺が無理矢理複数の生き物を繋ぎ合わせたキメラ。複数の声を同時に聞きとるなんて、お前にはできんだろ。』」


 アタイの後ろに、いつの間にかモルガナがいた。


「無理矢理そんな事を、なんで!」


 アタイの叫びに、モルガナはしれっと答えた。


「『なんでって、複数の生き物が、怪我をしていたのよ。致命傷だったわ。』

 『助けるついでに、実験としてキメラを作っただけだ。』」


 また。助けたというのか。こいつは。


「お前!!」


 アタイが、目の前のクソ女を殴ろうとした。

 しかし、モルガナに軽く押され、その勢いで、アタイはキメラの体にぶつかる。


「『ほら。自慢の猛獣調教術。見せてください。』」


 アタイは、キメラの方を見る。

 その子はアタイを食べようとしていた。

 アタイが口を開こうとした瞬間。

 キメラはアタイの頭を食べる。

 アタイの体は、巨大なキメラに持ち上げられ、アタイの頭だけ、キメラの口の中、体は宙ぶらりんの状態になった。

 アタイは、暴れながら「出して!! 助けて!!」と叫ぶ。

 しかし、キメラにその声は届かない。


「『そんなに叫んで。仲間を呼んでいるんですか?

 まぁ、しかし、誰も来なかった・・・・・・・。』

 『残念だったな!お前の死に様を誰も見ちゃいねぇ。お前は独りで、誰にも知られず、死んでいくんだよ。』」


 アタイが、モルガナの言葉に絶望の悲鳴をあげようとした。

 しかしその瞬間。アタイの首は、キメラに食いちぎられた。

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