「昨日の友は今日も友。ということで昨日のチームで今日も稽古していこう―!」
名言っぽい何かを言いながら轟先輩は拳を上げる。
それはただの友達では。と思いながらも俺や他の二年生も拳を上げる。
一年生たちも空気を読んで拳を上げるが戸惑っていた様子だった。
「今日は時間を決めてチームごとに演出家に見てもらうと思います! なので台本は春大会のやつで! やりたいところをチームで決めて樫田んと津田んのところに来てください!」
それぞれが昨日のチームごとに集まる。
俺が増倉の近くに行くと、池本もやってきた。
「よろしくお願いします」
「よろしく」
「よろしくね。さっそくどこのシーンやりたいか決めてこっか」
「はい」
「ああ」
増倉を中心に話し合う。
だが、どこのシーンをやるかで意見が分かれた。
俺は一場、増倉は三場、そして池本は五場。
きれいに分かれたもんだ。俺と増倉が顔を見合わせる。
五場かぁ。山場の一つだぞここ。
「あの、五場じゃダメでしょうか?」
「ええっとね、池本。いきなり五場だと、その、感情の作り方とか難しいよ?」
「それでも、やってみたいんです!」
やんわりと別のにしようとした増倉だが、池本は頭を下げた。
どうやら、どうしてもやりたいらしい。
困った表情を浮かべて、増倉がこちらを見てきた。
助けを求めてきたつもりだろうが、俺は提案した。
「やってみてもいいんじゃないか? 五場」
「ちょっと!」
「実際に体験してみたほうが難しい理由も分かるだろ」
「それは、まぁ……分かった、やってみよう」
「ありがとうございます!」
池本の嬉しそうな顔を見て、増倉は何も言えなくなったのだろう。
一応、俺の方から釘を刺しておく。
「やってみるけど、演出家に見せられるほどでなかったら他の場をやるけどいいな?」
「はい」
不安を感じながら、俺達は五場をやってみることにした。
――――――――――――――
「杉野、樫田たちが呼んでる」
「お、もう番が来たのか」
夏村に呼ばれて振り返ると、どうやら他のところはもう終わったらしい。
立ち上がり樫田のいる方へと行く。
津田先輩と樫田は教室の端で座っている。
俺達が近づくと、津田先輩は笑顔で樫田は少し疲れ顔で迎えてくれた。
「お、最後は杉野のところか。よろしく」
「よろしくお願いします。樫田なんか疲れてる?」
「気にするな。お前らは何場をやるんだ?」
「えっとその……」
「五場をお願いします!」
「ほう……」
池本の言葉に、樫田が俺と増倉の顔色をうかがう。
自信がないことはバレただろう。
だがすまん、とりあえず見てくれ。
そんな俺の思いが伝わったのか、樫田は特段否定せずに話を進めた。
「……分かった。途中で止めるかもしれないが、とりあえずやってみてくれ」
「はい!」
俺達は樫田たちを含めるようにして円を作り座る。
増倉と池本と目を合わせてタイミングを計って始める。
「――――、――――」
「――――――――、――――」
「――。――――」
「――! ――――。――――――」
「――――――――、――?」
「――――――! ――――!」
「――――――――。――――」
パン!
数行読んだところで乾いた音が鳴った。
樫田が手を叩いた。中断の合図だ。
「…………」
「え?」
俺と増倉は黙り、池本は困惑した様子だった。
俺達は演出家の方を見る。
津田先輩は笑顔のままだったが、樫田は険しい顔をしていた。
「悪いがこれ以上は必要ない。というか今のところまでで問題点が多すぎだ」
はっきりと樫田は言い放ち、左手で頭をわしゃっと抱えながら俺の方を見た。
「まず杉野。お前がリードしないでどうする? 相手に呼吸を合わせようとするな。ここはお前が中心に場を作らないでどうする」
「ああ、すまない」
「演技で引っ張れ。この三人だったらお前が持ち上げないと」
「そうだな」
樫田の言う通りだった。
俺は役割を果たせていなかった。池本を心配するあまり、リードすることを忘れていた。
次に樫田は増倉の方を見る。
「リードに関しちゃ、増倉もだな。どうしていつもの感じでやらない? 会話がゆっくり過ぎて間が死んでいるぞ」
「ごめん」
「感覚で呼吸を合わせずらいなら、増倉は人物の本質掴むのは上手いんだから、そういう話でディスカッションとかするのもいいかもな。認識をそろえるって意味でも」
「わかった」
「さて――」
樫田の視線が池本へと移る。
俺と増倉は緊張しながら黙って見守る。
本人も固まっている様子だった。
「池本は力を入れ過ぎないことだ。セリフで少し早足になっている」
「はい!」
「…………」
「…………」
「どうした?」
「え、いや、その、それだけですか?」
「ああ、他必要なことは二人に伝えた」
「そうですか…………」
残念そうに下を向く池本。
樫田の方を見ると、首を横に振っていた。
まぁ、そうだな。あれこれ言っても混乱するだけか。
「とりあえず、まだ時間あるからさ、樫田に指導してもらいながら練習したら? 俺は轟ちゃんのところ行ってくるわ」
「わかりました」
津田先輩がそう提案して、立ち上がり轟先輩の方へ行った。
残った俺達は再び五場をやり始めた。
――――――――――――――
一通り稽古が終わり、轟先輩の締めの挨拶の時だった。
「明日は土曜日です! つまりオーディションまで一週間です! そして土曜稽古は一日練習できるいい機会です! なので私は考えました! 明日何やるかは二年生に任せようと!」
なんか接続詞いっぱい使って何か言っているな。
…………………………今なんて!?