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第86話 多すぎる問題点

「昨日の友は今日も友。ということで昨日のチームで今日も稽古していこう―!」


 名言っぽい何かを言いながら轟先輩は拳を上げる。

 それはただの友達では。と思いながらも俺や他の二年生も拳を上げる。

 一年生たちも空気を読んで拳を上げるが戸惑っていた様子だった。


「今日は時間を決めてチームごとに演出家に見てもらうと思います! なので台本は春大会のやつで! やりたいところをチームで決めて樫田んと津田んのところに来てください!」


 それぞれが昨日のチームごとに集まる。

 俺が増倉の近くに行くと、池本もやってきた。


「よろしくお願いします」


「よろしく」


「よろしくね。さっそくどこのシーンやりたいか決めてこっか」


「はい」


「ああ」


 増倉を中心に話し合う。

 だが、どこのシーンをやるかで意見が分かれた。

 俺は一場、増倉は三場、そして池本は五場。

 きれいに分かれたもんだ。俺と増倉が顔を見合わせる。

 五場かぁ。山場の一つだぞここ。


「あの、五場じゃダメでしょうか?」


「ええっとね、池本。いきなり五場だと、その、感情の作り方とか難しいよ?」


「それでも、やってみたいんです!」


 やんわりと別のにしようとした増倉だが、池本は頭を下げた。

 どうやら、どうしてもやりたいらしい。

 困った表情を浮かべて、増倉がこちらを見てきた。

 助けを求めてきたつもりだろうが、俺は提案した。


「やってみてもいいんじゃないか? 五場」


「ちょっと!」


「実際に体験してみたほうが難しい理由も分かるだろ」


「それは、まぁ……分かった、やってみよう」


「ありがとうございます!」


 池本の嬉しそうな顔を見て、増倉は何も言えなくなったのだろう。

 一応、俺の方から釘を刺しておく。


「やってみるけど、演出家に見せられるほどでなかったら他の場をやるけどいいな?」


「はい」


 不安を感じながら、俺達は五場をやってみることにした。



 ――――――――――――――



「杉野、樫田たちが呼んでる」


「お、もう番が来たのか」


 夏村に呼ばれて振り返ると、どうやら他のところはもう終わったらしい。

立ち上がり樫田のいる方へと行く。

 津田先輩と樫田は教室の端で座っている。

 俺達が近づくと、津田先輩は笑顔で樫田は少し疲れ顔で迎えてくれた。


「お、最後は杉野のところか。よろしく」


「よろしくお願いします。樫田なんか疲れてる?」


「気にするな。お前らは何場をやるんだ?」


「えっとその……」


「五場をお願いします!」


「ほう……」


 池本の言葉に、樫田が俺と増倉の顔色をうかがう。

 自信がないことはバレただろう。

 だがすまん、とりあえず見てくれ。

 そんな俺の思いが伝わったのか、樫田は特段否定せずに話を進めた。


「……分かった。途中で止めるかもしれないが、とりあえずやってみてくれ」


「はい!」

 俺達は樫田たちを含めるようにして円を作り座る。

 増倉と池本と目を合わせてタイミングを計って始める。


「――――、――――」

「――――――――、――――」

「――。――――」

「――! ――――。――――――」

「――――――――、――?」

「――――――! ――――!」

「――――――――。――――」



 パン!



 数行読んだところで乾いた音が鳴った。

 樫田が手を叩いた。中断の合図だ。


「…………」


「え?」


 俺と増倉は黙り、池本は困惑した様子だった。

 俺達は演出家の方を見る。

 津田先輩は笑顔のままだったが、樫田は険しい顔をしていた。


「悪いがこれ以上は必要ない。というか今のところまでで問題点が多すぎだ」


 はっきりと樫田は言い放ち、左手で頭をわしゃっと抱えながら俺の方を見た。


「まず杉野。お前がリードしないでどうする? 相手に呼吸を合わせようとするな。ここはお前が中心に場を作らないでどうする」


「ああ、すまない」


「演技で引っ張れ。この三人だったらお前が持ち上げないと」


「そうだな」


 樫田の言う通りだった。

 俺は役割を果たせていなかった。池本を心配するあまり、リードすることを忘れていた。

 次に樫田は増倉の方を見る。


「リードに関しちゃ、増倉もだな。どうしていつもの感じでやらない? 会話がゆっくり過ぎて間が死んでいるぞ」


「ごめん」


「感覚で呼吸を合わせずらいなら、増倉は人物の本質掴むのは上手いんだから、そういう話でディスカッションとかするのもいいかもな。認識をそろえるって意味でも」


「わかった」


「さて――」


 樫田の視線が池本へと移る。

 俺と増倉は緊張しながら黙って見守る。

 本人も固まっている様子だった。


「池本は力を入れ過ぎないことだ。セリフで少し早足になっている」


「はい!」


「…………」


「…………」


「どうした?」


「え、いや、その、それだけですか?」


「ああ、他必要なことは二人に伝えた」


「そうですか…………」


 残念そうに下を向く池本。

 樫田の方を見ると、首を横に振っていた。

 まぁ、そうだな。あれこれ言っても混乱するだけか。


「とりあえず、まだ時間あるからさ、樫田に指導してもらいながら練習したら? 俺は轟ちゃんのところ行ってくるわ」


「わかりました」


 津田先輩がそう提案して、立ち上がり轟先輩の方へ行った。

 残った俺達は再び五場をやり始めた。



 ――――――――――――――



 一通り稽古が終わり、轟先輩の締めの挨拶の時だった。


「明日は土曜日です! つまりオーディションまで一週間です! そして土曜稽古は一日練習できるいい機会です! なので私は考えました! 明日何やるかは二年生に任せようと!」


 なんか接続詞いっぱい使って何か言っているな。


 …………………………今なんて!?


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