2. 目覚め - 異世界「ルミナリア」
アリサはぼんやりと意識を取り戻した。瞼をゆっくり開けると、見知らぬ天井が視界に入る。木のぬくもりを感じる薄暗い天井で、どこか懐かしい香りが漂っていた。体を起こそうとすると、全身が重たく感じる。頭がぼんやりして、まるで長い夢を見ていたかのようだった。
「……ここは、どこ……?」
アリサは自分の声がひどくかすれていることに気づき、軽く咳払いをしてから辺りを見渡した。目の前には簡素だが清潔な木製のテーブルがあり、その上には一杯の水が置かれている。近くの窓からは淡い日差しが差し込み、部屋全体が柔らかな光に包まれていた。
アリサは喉の渇きを感じ、手を伸ばして水を取る。冷たく澄んだ水が喉を通り、体の中に染み込むようだった。少しだけ気持ちが落ち着き、再び周囲を見渡してみる。見たこともない場所だった。木の壁や天井、窓から見える緑豊かな風景が、今までの生活とは全く異なる異世界を感じさせた。
「夢……なのかな」
そうつぶやいてみるものの、目覚めた時に感じた体の重さや、肌に触れる木の冷たさが妙に現実的で、夢だとは到底思えなかった。アリサは目を閉じ、少し前の出来事を思い出そうとする。深夜、満月の光に包まれ、突然目の前が真っ白になったこと……そして、意識を失ったような感覚――。
思い出した瞬間、胸の奥に不安が湧き上がってきた。ここが自分の知っている場所ではないという確信が強まり、頭の中で「どうしよう」という言葉が繰り返される。家族や友人の顔が浮かび、帰りたいという気持ちが押し寄せてきた。
その時、扉がゆっくりと開き、年配の女性が静かに入ってきた。優しげな顔立ちで、肩までの黒髪を丁寧に束ね、質素だが清潔感のある服装をしている。アリサに気づくと、女性は温かな笑みを浮かべて声をかけてきた。
「目が覚めたのね。よかった、意識が戻って……」
その言葉に安堵の表情を浮かべると、女性はアリサの側まで歩み寄り、優しく彼女の手を握った。その手は温かく、アリサの心に少しずつ安心感が広がっていった。
「あなた、大丈夫?森で倒れているのを見つけて、ここまで運んだの。何かひどく疲れた様子だったから、しばらく寝かせておいたのよ」
「ありがとうございます……。でも、ここは一体どこなんですか?私……何が起きたのか、全然わからなくて……」
アリサは不安そうに尋ねると、女性は少し困ったように眉を寄せたが、すぐに柔らかな笑みを浮かべた。
「ここはアークレアという村よ。この国では、そう珍しい場所ではないけれど……あなたは“外”から来たのかしら?」
“外”という言葉が何を意味しているのか、アリサには分からなかったが、何か異質な場所から来たことがすでに見透かされているような気がした。
「わからないんです……ただ、目が覚めたらここにいて……」
「大丈夫、ゆっくりでいいのよ。私の名前はリア。この村で世話役をしているの」
リアと名乗る女性の穏やかな声に、アリサは少しずつ気持ちが落ち着いてきた。リアは彼女を支えながらベッドからゆっくり起こし、水をもう一杯渡してくれる。優しい口調と温かな仕草が、アリサに安心感を与えた。
「しばらくはここで休んでいいわ。あなたの体もまだ本調子じゃないでしょう。村のみんなも助け合ってくれるから、気にせず甘えていいのよ」
リアの親切な言葉に、アリサは思わず涙がこぼれそうになった。知らない場所に来てしまった不安が胸に渦巻いていたが、リアの温かな対応に救われた気がした。