「なんで……なんでいないんだよ! どこいったんだよ、クリス……っ」
ルイーズは涙を堪えて探し回っていた。ベッドの下も、本棚の隙間も、チェストの奥も。
やっぱり夜だけ動ける魔法がかかってたんだ。だからあの日も勝手に服を着替えて――。いや、違う。昨日の昼寝のときも自分で動いていたなら、もともと自由に動けるぬいぐるみだったのかもしれない。
でも、だとしたらなんでいままで動かなかった?
思いながらも、とにかく床に這いつくばってすみずみまで手を伸ばす。だけどどこにも
ルイは目元を拭いながら部屋を飛び出すと、今度は家の中を捜索する。リビングに置いてあったおもちゃばこをひっくり返し、ソファの下を覗き込む。
「どうしたの、ルイ」
「クリスがいない……!」
キッチンで朝食の支度をしていた
「クリスが消えた!」
「クリス……あのぬいぐるみ?」
「そう、どこ探してもいないんだ、一緒に寝てたのに……!」
リオナはタオルで手を拭きながらルイーズの傍へとやってくる。
「待って、ちょっと落ち着いて」
「たぶん、動けたんだ。クリスはきっと特別で、自分で自由に動けるぬいぐるみで……っ。だから、だから……っ」
「ルイ、ルイ。大丈夫だから、ほら、おいで」
サイドボードはルイーズの力では動かない。それでも諦めきれず、力任せに押したり引いたりしている。壁との間を覗き込み、暗がりに手を伸ばす。そうしながらも、リオナと会話をしているとみるみる涙が込み上げてくる。そんなルイーズの様子に、リオナはその肩へとそっと触れる。身を屈め、腕を掴んで引き寄せると、その胸に優しく抱き込んだ。
「やだ、やだ、俺のクリス……っ」
「大丈夫。クリスはどこにも行ったりしないわ」
「……だって、だってどこにも……」
リオナの手が背中を撫でる。ぽんぽんとあやすようなその仕草に、ルイーズの湖面色の瞳からぽろぽろと涙があふれ出た。目の前の若草色のエプロンに顔を押しつける。その後頭部を温かな手のひらが包んだ。
「前の子だって、ルイがそうやって忘れない限り、ちゃんとルイの中にいるのよ」
「俺の中に……?」
「うん」
穏やかに頷くリオナに、ルイーズは見上げた視線を小さく揺らす。
ルイーズは賢い子ではあるけれど、そうはいってもまだ五歳。それだけで納得するとはリオナも思っていなかった。ひとまず落ち着かせようと声をかけながら、リオナはルイーズの頬に両手で触れた。
「でも、それだけだと納得できないと思うから、落ち着いてもう一度探しましょう。お母さんも手伝うから。大丈夫、きっとまだ近くにいるわ」
「……わかった」
子供らしいぐしゃぐしゃの泣き顔のまま、ルイーズはこくんと首を縦に振る。リオナはもう一度ルイーズを抱き寄せて、ぎゅっとその腕に力をこめた。ルイーズも涙を拭うように目元を擦りつけた。
そこに玄関ドアをノックする音が響く。