「あ……違う、イリアじゃない」
「うん。ごめんね。お母さん、どうにか記憶を頼りに作ってみたんだけど……やっぱりちょっと違うよね。あんまり上手じゃないし……」
ルイーズは浮かせていた腰をすとんと椅子に戻し、それでもその視線はかごの中に釘付けだった。少しがっかりはした様子だったけれど、興味を失ったわけではないらしい。
「ちょっとクリスに似てる」
「そう、かもしれないわね。最近ずっと見ていたから……
それは
「すごい……すてき」
リーゼロッテは思わずカップを下ろす。そうして感嘆の息をつくほどに、丁寧に作られているのがわかった。髪や瞳の色はほぼ黒で、服は白地に水色の縦縞シャツにサスペンダーパンツ。パンツはシリウスの髪色によく似た紺色で、かたわらには黒い革細工の紐靴まで添えられていた。
「かっこいいね」
「……」
ルイーズはそっと手を伸ばした。リーゼロッテの声に応えることはなかったが、細い指先がそのぬいぐるみを取り上げた。
一方シリウスが見つめていたのは天井で、むやみに視線を動かすこともできないため状況がいまいち把握できない。それでもリオナがシリウス(自分)の代わりになるようなぬいぐるみを作ったらしいということだけはわかり、少しばかりほっとした。
新しく追加で購入していたぬいぐるみにはそこまで気持ちが行かなかったようだが、今回は存外興味を示している。もしかしたら気に入ったのかもしれない。
「イデア。イデアにする」
「イデア?」
(イデア……?)
シリウスは心の中で困惑する。そのぬいぐるみの名前が決まったらしい。リーゼロッテといい、ルイーズといい、ぬいぐるみに名前をつけるのはそんなに当たり前のことなのか?
「いい名前! かっこいいね!」
対してリーゼロッテはすぐさま順応する。さすがは先輩といったところか。胸の前で手を合わせ、花が咲いたように微笑んでいる。
得意気に頷くルイーズが、両手で持った〝イデア〟を眼前に掲げる。
「気に入った。大事にする。……ありがとう、お母さん」
「良かった」
それを見ていたリオナも心底ほっとしたように破顔する。なんならリーゼロッテは涙まで浮かべて喜んでいた。まるで自分のことのように。
「リズ、クリス……じゃなくて、シェリーにレインコートをやる」
「? レインコート?」
「ん。俺が作ったやつ。それを着せてればシェリーもこんなに濡れない」
まだ雨季は続くから。言外にそう伝わって、リーゼロッテは感心するように頷いた。確かにレインコートなら、例え魔法がかかっていなくても、その効果が切れたとしてもずぶ濡れにはならない。
「――これだ」
まもなくルイーズが黄色いレインコート――ポンチョタイプ――を持って戻って来る。目の前に差し出されたそれを受け取り、リーゼロッテは目を丸くした。
フードには透明な部分もあって、ちゃんと前が見えるようになっている。脇の部分もボタンで止められるようになっていて、風が吹いても容易には煽られない形に仕立てられていた。
「すごい、このレインコート、ルイが作ったの?」
「ん。こっちのブーツはあんまり上手く作れなかったけど……」
次にリーゼロッテの手に載せられたのは
「そんなことないよ、どっちも素敵。どっちもすごく上手!」
「じゃあ、ブーツもやる。シェリー、その上からでもはけるから」
シリウスの靴は直に彩色されているため脱がせられない。とは言え、その分凹凸がないため、上から別の靴をはくことができた。
「ありがとう。でもこれ……イデアの分はいいの?」
「うん。これはもうク……シェリーのだから。イデアにはイデアのをまた作る。イデアに似合う色で」
「そっか……じゃあ、ありがたくいただくね」
「ん」
ルイーズが笑みを浮かべたのを見て、リーゼロッテもつられて微笑む。
「じゃあ、次はわたしの番だね。わたしもなにかお礼がしたいんだ。シェリーのこと、とっても大事にしてくれてたのが嬉しかったから」
「礼……」
続けられたリーゼロッテの言葉に、ルイーズはイデアを手にしたまま束の間沈黙した。視線がリーゼロッテから手元に落ちて、