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69.お礼はいかほどに……?

「俺もあれがほしい。耳のついてないやつ」

「え……。あ、魔法の法衣?」

「リズのその友達に、イデアのも作ってもらえるよう頼めるか?」

「あ、うん! もちろんだよ!」


 ぬいぐるみ用の、そろいの法衣を作ってくれたのはメイサだ。元は〝ももちゃん〟用だったけれど、いまはシリウスの普段着になっている。最初はかわいすぎると着せなかったそれを、ルイーズも気に入ったのだろうか、もしくは、それも思い出のひとつとなったのか――。


「少し時間がかかるかもしれないけど、作ってもらうことはできるはず。あと、もし良かったら、他にもなにか……ルイは自分で作れるかもしれないけど、こんな服がほしい! とかあれば、言ってもらえたら――」


「スーツ! スーツがほしい!」

「スーツ?」

「シャツはシェリーが着てるようなボタンが見えないやつで、蝶ネクタイが似合って、上着は青でかっこいいやつ! ズボンは丈が短いのと、長いのとどっちも欲しくて、ベストもあるともっといい!」


「ルイ……それはちょっとお願いしすぎじゃないかしら。時間がかかってもいいなら、お母さんが挑戦してみるけど……」

「あ、大丈夫です! 任せてください! わたしからもお礼がしたいので……!」


 横から窘めるように声をかけてきたリオナに、リーゼロッテはとっさに首を振る。それから軽く手のひらを胸元に当て、念を押すように頷いた。


「大丈夫だよ。これ作ってくれたお姉さん優しいから。わたしからちゃんとお願いするからね」


 わずかに眉を下げたルイーズにも、安心してとばかりに微笑って見せる。


 その横で、結局はメイサが作るんじゃないかとシリウスの心のつっこみが入る。まぁ、お代は全てリーゼロッテ持ちということなんだろうが。おそらく材料集めも。


「そのスーツ、わたしも絶対かっこいいと思う」

「そうか? かっこいいか?」

「うん! わたしも欲しくなっちゃうくらい、素敵なオーダーだよ!」

「やっぱり! そうだよな! 絶対かっこいい!」

「うん、かっこいい!」


 リーゼロッテもルイーズも、気がつけばきらきらと瞳を輝かせていた。まともに顔を合わせたのは今日が初めてだったはずなのに、なんだか妙に息が合っている。類は友を呼ぶというやつかもしれない。


「……じゃあ、えっと……」


 ひとしきり楽しそうに話したあと、ほっとしたように息をついたルイーズは、持っていたイデアを一旦テーブルに戻し、代わりのようにシリウスを手に取った。かと思えば軽い身のこなしで椅子から降りて、敷かれていたタオルごとのシリウス(それ)を、リーゼロッテの前へと差し出した。


「……これ。返す」

「あ……、……ありがとう」


 リーゼロッテは一瞬瞠目し、それから優しく微笑んだ。


 応えるように立ち上がり、身を屈めて目線を合わせる。すでにシリウスを返してもらうのは前提となってはいたけれど、改めてルイーズの手で、意志で、となるとなんだか感極まってしまう。


 鼻の奥がつんとして、視界が勝手にじわりと滲む。リーゼロッテが大事そうにそれを受け取ると、ルイーズはややして手を下ろし、


「あと……いつかまた、ク……シェリーに会いたい」


 どことなく言い難そうに、けれども途中で取りやめることなくそう口にした。

 リーゼロッテは「もちろんだよ」と笑みを深めて頷いた。次にはシリウスごとルイーズをぎゅっと抱き締めた。


「絶対、また会いに来るからね」


 触れ合う側頭部を重ねながら、内緒話みたいな約束をした。





 リーゼロッテがルイーズの屋敷を出る際、やっとシリウスは〝イデア〟の顔をまともに見ることができた。


「……イデア、見ろよ、シェリーだ」


 ルイーズはリーゼロッテが持つシリウスにイデアを近づけた。目の前に突きつけられたその姿を、シリウスは否応なく見つめる羽目になる。シリウスと似たような背格好の、黒髪の、男の子のぬいぐるみだった。


(……この、ぬいぐるみ……)


 シリウスの頭をなにかがよぎる。

 なんだか見たことがあるような顔だと思った。しかしながら、シリウスの知り合いにぬいぐるみはいない。いるとすればリーゼロッテの部屋で留守番をしている〝ももちゃん〟くらいだ。


(……気のせいか?)


 シリウスはしばらく考えていた。けれども、それがなんであるかまではすぐには思い出せなかった。

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