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72.オーダー、スーツと法衣! そして……?

「まずは――……」


 そう、まずは魔法の法衣。かっこ、ぬいぐるみ用。サイズは前回注文したときと同じ、シェリーが着られるサイズ。フードは一般的な形で、刺繍は……水の紋章のようなものが入れられたら嬉しいと記載する。色は……。


「ルイなら青色がいいかな? わたしの法衣も青系ではあるけど、できればもう少し明るめの……なんていうか、湖みたいな……って、湖だとわかりにくいかなぁ……?」


 法衣に施されている刺繍は魔法陣の役目も果たしている。魔法使いに関わりがないと基本はただの飾りになってしまうが、第三者からの魔法でも内容によっては効果を発揮することもある。


 シリウスの着ている法衣はリーゼロッテと同じ(簡略化されてはいるが)刺繍が入ってる。それもあって、腕が不確かなリーゼロッテの魔法でもシリウスには効きやすかったりするのだった。


「それから、スリーピースのスーツ……。スリーピースって、ベストがあるやつだよね……?」


 ルイーズの言っていた言葉を思い出す。

 シャツはシリウスシェリーが着ているような比翼仕立てで、それに似合う蝶ネクタイ。青色のベストに、同色のジャケットにズボン――スラックスは半端丈のものと、くるぶしまでの二枚セット――。


「シャツの色は淡い水色とかいいんじゃないかと思うんだよね……。ルイ、青系が好きそうだったし。イデアにもよく似合いそうだから、絶対気に入ってくれるはず……!」


 ルイーズの新しいぬいぐるみは髪や瞳は黒だった。ぱっと見はシリウスによく似ているように見えたが、目付きや表情はもう少し柔らかかった。イデアと命名されたその姿を思い出しながら、リーゼロッテはぶつぶつと呟き続ける。


「それにしても、シェリーと同じシャツがいいなんてさすがだよね。だって絶対かっこいいもん。もらったレインコートもブーツもかわいかったし、もともとセンスがあったんだろうなぁ」


 そこでようやくリーゼロッテの視線がシリウスへと向いた。思い出したように窓際に目をやって、いまはぴたりと止まっているぬいぐるみそれにふっと笑み混じりの呼気を漏らす。いい子して寝てる、とでも言わんばかりに。


 しかしながら、シリウスはすでに目を覚ましていた。とどまることを知らないリーゼロッテのひとりごとが耳について寝ていられなくなったからだ。おかげで下手に動かずに済んだのはよかったが、依然として続けられるそれには正直唖然としてしまう。


(誰と話してるつもりなんだ……)


 心の中で呟くと、まるで待っていたみたいにリーゼロッテが立ち上がる。手紙は一通り書き終わったらしい。


「うんん……さすがにまだ乾いてないかな」


 こんなとき、あのランタンがあれば少しでも早く乾かしてあげられるのに……。リーゼロッテはわずかに眉を下げる。とは言え、ないものは仕方ない。リーゼロッテはタオルに包んだままだったシリウスを一旦降ろし、テーブルの上へと広げてその様子を確かめた。


「あ、でも思ったより乾いてる……。……ん?! そうだ! わたしも借りたらいいんだ!」


 なにをだ。リーゼロッテの手の中で、シリウスは声なく問い返す。リーゼロッテは思い出したようにふふ、と微笑んだ。なんだか少し嫌な予感がした。


「メイサが持っていたのを借りたことがあるけど、あれって本当に便利なんだよね」


 だからなにがだ。思わず微かに眉が寄る。

 それにも気付かず、リーゼロッテはどこかわくわくとした面持ちでシリウスを連れ出した。どこに行く気だと思っていると、まもなく辿り着いたのは洗面所だった。


 リーゼロッテは、一度シリウスをかたわらのチェストの上に置いてから、かたわらにある収納棚へと目を向ける。


「ドライヤー……たしかここにしまってるって……。あ、あったあった」

(ドライヤーか)


 知りたかった答えが得られて、シリウスはようやく息をつく。

 この世界にも電気はある。電気以外にも魔法やさまざまな種族の特殊能力によって作られている便利道具は多くあり、その中でヴィヴィアンの所持しているものは電気と魔法石を併用した高性能なものだった。


 ちなみにリーゼロッテはドライヤーは持っていない。普段から髪は自然乾燥に任せており、それもあって実物に触れたことはほとんどなかった。


「ルイがやってたくらいだから、わたしにだってできるはず……っ」


 リーゼロッテはどこか自信満々に頷くと、取り出したそのコードを慣れない手付きでほどいていく。雨も多いし、風呂上がりにも、と、ここで初めてシャワーを借りたときから使用許可はおりている。――実際に使ってみたことは一度もなかったが。


 メイサに借りた、というのも、正しくは借りたはいいが上手く扱えず、結局メイサに当ててもらったというものだった。いまより髪が長かったリーゼロッテは、そうしてやすやすと乾かされ、さらさらに仕上げてもらったときのことを思い出し、懐かしそうに笑みを深めた。


「これでシェリーも、さっきみたいにふわふわになるからね!」

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