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第44話

「さて、そろそろ互いに自己紹介といこうか」


 敵意バリバリの魔族組、とはいえ一人は簡単な治療だけ済ませて安らかな寝息を立てているが……対する司は化け物呼びの理由の一端を知ってか落ち込んでいるようだ。

 田中は相変わらずぼんやりしているものの、状況を察して敵意の無い笑顔を振りまいている。

 ……胡散臭いな、人狼じゃなくても嘘つきの匂いが漂ってくる気がする。

 先生はあわあわしながら怪我人に近づこうとして威嚇されて、怯えながらも強い意志で前に進もうとしている。


「あー、その小さくてデカいの聖女だから戦闘力は低いぞ。勇者は見ての通り戦意喪失、私は最初から戦うつもりは無い、そこの胡散臭いのは何考えてるか私もわからん」


「……とりあえず、そこの勇者と嘘つきを離れたところに置いてもらえるか」


「おう、ほれ下がれアホ共」


 しっしっと二人を壁際に追いやる。

 司は武器をネックレスに戻しているし、田中は何もしゃべらない。


「【エクストラヒール】」


 先生は依然教えた回復魔術の中でも上級のモノを選んで発動。

 ゲームみたいに魔族やアンデッドに回復魔法使うとダメージになるとかは無いので、放置されている。

 というかそもそも聖女ってジョブは魔力の質と量が特別というだけみたいだし、案外面白いジョブでもなさそうだ。

 余波で私が召喚したゴーストが軒並み浄化されているくらいで害はない。


「ん……くっ、俺は……」


 お、寝息を立ててた魔族が起きた。


「この波動……勇者と聖女だと! それにハイエルフの! ……あと誰だそいつ、黒龍王の気配がするが」


「おっす、見知らぬ魔族。ご存知の通り勇者一行だが敵意はない。普通にお話ししようぜってだけだ」


「信じられないと言いたいところだが……」


 ちらりと人狼に視線を送り、それに頷いて応えるのが見えた。

 まぁ向こうからしたら真意とかわからんだろうしな。


「いいだろう。だがここで話すのか?」


「ここが互いにとって一番安全じゃないか? 敵だと思ったならここで殺し合って、後はダンジョンに喰ってもらえばいいわけだし」


「……なるほど、やはり貴様はユキか。合理的だが、機械じみた考え方をする」


 やっぱ魔族の間じゃ有名なん……今なんて言ったこいつ。

 機械? それはこの世界にはまだ存在しないものだぞ。

 いや、正しく言うなら魔導機関というのは存在するが、機械という言葉はまだ存在していない。


「少し、詳しく話を聞く必要がありそうだ」


「……どうやらそのようだな。もう一度聞くが、場所を変えた方がいいのではないか?」


「あぁ、そうだな。だがその前になぜダンジョンに潜っていたのか聞いてもいいか? それによってはどこで話すべきか変わってくる」


「魔王様の命令で危険なダンジョンを潰して回っていた。それ以上の事は答えられない」


 ダンジョン潰し……人間に武器や素材を与えないためじゃなさそうだ。

 わざわざ危険な、と言っている辺り安全なダンジョンは放置されているのだろう。

 それに潰すというならここよりも安全で、採掘できるものが優れているダンジョンも多い。


「このダンジョンの残り階層はどれくらいかわかるか」


「残りは28階層、その先にコアがある。だがここのコアを守っているのはドラゴンだ。少なくとも俺達だけじゃ厳しい相手と言わざるを得ない」


「……なるほど、他に潜ってる奴はいるか?」


「先遣隊は全員帰還して、調査隊の俺達がここにいる。本格的な部隊はまた別に用意される手はずになっているがそれがどうした」


「いや、信用してもらうためにも前金を払っておいた方がいいかと思ってな。良ければ私がコアを持ってくるが」


「お前があのユキなら可能だろうが……いいのか、こいつらを俺達に預けて」


 勇者と聖女、それと正体不明だけど黒龍王の契約者となれば敵からすれば特級の危険因子だし、可能ならすぐに取り除きたい相手だろう。

 私もそういう意味じゃ危険因子なんだろうけどさ。


「私が行くわけじゃないからな。【サモン:ワールドヒーロー】」


 召喚士が使う魔術の中でも最上級のそれは、究明者として完全にジョブを把握した私でも使うと疲れる。

 なにせ世界中の英雄、その魂や分身を召喚する魔術であり、召喚士とネクロマンサーのジョブを合わせて使う事で効率化してなお私の魔力の半分を持っていく。


「っ……ふぅ、【サモン:ドラゴンソウル】」


 お次はネクロマンサーの最上級魔術、さっきまでのゴーストよりも数段上の存在であり、ドラゴンの魂を呼び寄せて戦わせるというもの。

 ゴーストと違いデバフや状態異常を与えるだけにとどまらず、物理的魔法的な攻撃力も持っている。

 しかも魔法や魔術、特定の武器でなければ倒せないというおまけ付きの禁呪だ。

 この魔術暴走させて国が一つ滅んだという記録まであるからな。

 なんにせよ、これで私の魔力はすっからかんだ。


「このダンジョンを制覇してコアを持ってこい」


 先程償還したビーストナイト達を同行させ、索敵などのサポートを命じてダンジョン攻略をさせる。

 一番手っ取り早い方法であり、私にとっては労力が少ない。

 ついでに言えば魔力を使い果たして敵意が無い事をアピールしながら、こちらの総力がどのくらいかを見せつけるのにも丁度いい。

 派手な魔法を使えばそれだけ地形に影響及ぼすからな……。


「司、先頭で出口まで走れ。先生と田中は私が抱える。そっちはどうだ」


「おかげさまで問題なく走れる」


「……大丈夫だ」


「同じく……」


 人狼とアラクネがすっかり大人しくなったが、魔族は魔力に敏感だからな。

 どんだけの魔法ぶっ放したか理解してドン引きされてるわけだ。


「安心しろ、さっきので魔力は使いきったからしばらく魔法も魔術も使えない。肉弾戦や魔道具を使った戦闘ならできるが数段格が落ちる」


「……どこに安心できる要素が?」


「少なくとも自爆して諸共という方法が無くなったと思ってくれ」


「……無理だな」


 人狼君、なかなかに小心者みたいだ。

 まぁ種族的に強さが絶対な一族だし仕方ない。

 魔族もなぁ、平時だと割と友好的に接することもできるが、魔王が復活した後だとちょっと厳しいんだよな。

 理由はわからんが、魔王には絶対服従で復活後は人間に対する憎悪とかが膨れ上がるっぽいんだよ。

 まぁそれも個体差があって、サキュバスなんかは純粋に性欲が強くなるだけだったりするけど。

 人狼とかアラクネはそういう意味じゃ人間に対する憎悪が増すけど、私はエルフだし、異世界人はノーカンっぽいからこうして会話が成り立っているようだ。

 どうにも純粋に、この世界に住む人間だけが対象らしい。


「司、もうちょいペース上げていいぞ」


「はい」


 怪我人を気にしてか、さっきよりもスローペースだったので後ろからせかしてみる。

 すると平然と速度を上げたので、やはり気づかいというものを覚え始めたらしい。


「その調子だ。周囲を見て気に掛ける、これができるようになればお前はちょっと凄いだけの奴になれるぞ」


「ありがとうございます」


「あとは周りの意見をちゃんと聞くとか、空気を読むとか、そういうのを順番に覚えていけばいいさ。まず速攻で切りかかるのだけはやめろよ?」


「そうですね、気をつけます」


 どこまで本気かわからんが……まぁ聞く耳持ってくれるだけありがたいと思っておこう。

 というか敵意マシマシの魔族より会話にならない事が多かった司がここまで意見を聞いてくれるようになっただけ成長だ。


「……人間は恐ろしい生き物で、勇者は獰猛だと聞いていたがそれを手なづけるか」


「おい待て、私を猛獣使いみたいに言うんじゃない」


「違うのか? あれだけの召喚魔術、魔王様以外に使える者は知らんぞ」


「そんな世の中の例外みたいな扱いされるのも不服だが……こいつは話は通じるからな?」


「いきなり攻撃してきたのにか?」


「……過去の勇者に比べれば、まぁ、比較的? 当社比? それなりにまともな分類かなと……」


 ちょっと自信なくなってきた。

 いや、過去の勇者も基本的に人当たりはよかったんだ。

 ただなんというか、身体が逃走を求めているかのように魔族を根伐りにしようとする勢いだっただけなんだ。

 こう、合法的にぶん殴っていい奴らを片っ端からぶん殴るような奴が多くて、勇者というより蛮族だっただけなんだ。

 そういう意味じゃ司は話を聞いてくれるからまだマシなだけで……。


「ひとつ聞きたいのだが」


「長くなるなら出てからな」


「いや、単純な事なのだがなぜ我らを助けた。魔王様については我らより貴様の方が詳しいはずだ。そして魔族に関しても我らより情報を持っているだろうに」


 まぁ、一応魔族の研究とかしてサキュバスを中心とした友好的魔族と人間の橋渡しとかもしたからなぁ。

 といっても、それは単純にやりすぎた勇者への当てつけと後処理の意味もあったけど。


「多数決で決まった。私は無効票だが、この聖女様とうさん臭いのが救助に賛成したから助けた。勇者はお前らから敵意を感じ取ってつい攻撃したってだけだ」


 小脇に抱えてプラプラと揺れている2人を見る


「……なるほど、やはり勇者が獰猛なのは変わらないが手綱は付いているようだ」


 ついているのかな……あいつ手綱くらいなら引きちぎってその辺に捨てそうだけど。

 まぁ先生含めて仲間がいるからそう簡単に暴走することもないだろうけどさ。


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