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第69話

 結果から言うとレーナは黒だった。

 というか気付くのが遅すぎた。

 所在不明の城に行くと言い出した時点で違和感を持つべきだったんだろうけど、私やアルファのデータを見たことで納得がいった。

 書き込まれていたんだよ、レーナに敵意も不信感も抱かないという一文がな。

 そしてアルファの本には「一定周期で復活し神に至る存在」と書き込まれていた。

 全部あの女の仕業だったわけだ……神のダンジョン踏破目前に至ったことで私はそれらの書き込みが無意味になった。

 神と人っていう絶対的な立場の違いがあったが、私がこの場を踏破した事で対等な関係になったからこそ小細工は通用しなくなったんだろう。

 そしてこの場所に辿り着くのは私でも、アルファでも、どちらでもよかったわけだ。

 私がこうして辿り着いたことで情報を得て不信感も抱き、しかし神という存在への忌避感は残っている。


 一方でアルファがここに来たとしたら、長年の相棒にしてある意味では恋人のような関係だったであろうレーナの思考から何かを察することはできただろう。

 つまるところ、ここに私達のどちらかが来ることが大前提、その上でトライ&エラーを視野に入れていた可能性が高い。

 なにせ私もアルファもこの世界に送り込まれたシステムの一つという扱いだ。

 それを覆したのが……。


「魔王と勇者に関する記述……随分と改変されているんだな」


「はい、この場所は先ほど申し上げた通り別次元に存在します。あなた方で言うところのインベントリと同じであり時空の壁には影響を与えません。一方で時間の流れもコントロールできるため、本来勇者としてこの世界に来るはずだった管理者ユキの到来が遅れる事になりました」


「未来から過去への干渉もできるってか? なら最初からアルファが死なないようにもできたんじゃないのか」


「その場合ですが今この世界は存在していませんでした。何度も試行錯誤を重ね、世界を作り直して今の状態になっております」


 ……すでに何度も世界を壊しているってことか。

 何回試行錯誤重ねたのかは知らんが……相当な回数滅んでいるんだな?

 で、それをレーナが再構築して……いや違うな、察するにここでシミュレートしているのか。

 こんな記述をしたらどうなるのか、ダメだったから記述を消して別の内容を書き込んでと言った感じで繰り返している。

 まぁシミュレートだとしても、外でどうなっていたのかわからないし私も生れてないから知る由はないんだけどさ。


「しかしなんで正の器なんてもんの方が魔王になったんだ? 聞く限り必ず成功に導かれる存在だろ?」


「それに関してはこちらの記録を」


 どこからか飛んできた本を掴み取る。

 ……私の勘違いじゃなければ本の飛来速度、軽く音速超えてたぞ?

 宇宙速度とかそういうので計算される勢いだった。

 難なく受け止められたのは……うん、たぶんステータスが原因なんだろうな。

 神の名を持つようになったことでヤバいくらい強くなってる。

 少年漫画並みのインフレ起こしているぞこれ。


「えーと、なになに……?」


 まぁそんな事はどうでもいいので本を開けばすぐに答えは出た。

 正の器とは、致命的な成功に至る存在であるという一文。

 その詳細だが成功は間違いないのだが、その結果文明の大半を破壊する結果に行きつくような成功という事だ。

 地球で技術レベルを数世代分進化させそうだったと言うが、それは下手したら宇宙を崩壊させるレベルの技術の土台を作りかねないという意味だったようである。

 アルファのデータを見れば地球で作り出したのは超重力によるワープ航行や宇宙船に使えるような新素材の開発、さらにその動力源に仕える反物質の発見だった。


 ……どれひとつとってもSFじゃ人類滅亡ルートに突入するじゃねえか。

 新素材くらいなら、と思ったけど後々ナノマシンに利用されるとか書かれててダメだった。

 一方負の器である私だが、取り返しのつかない結果に至る存在とある。

 どういうことか首をかしげたのだが、私個人は問題なくともその周囲に影響を及ぼす存在らしく、簡単なところだと価値観の変化とか個人の性格の変化みたいなのを与えるようなものだ。

 それだけ聞けばいい事のように思えるかもしれないが、凄く極端な事を言えば神様ぶっころして世界を私達の手中に収めようぜという思想を振りまいたとする。

 確実にそれは成功するが、管理者不在となった世界はいずれ滅びる事になる。

 数時間後かもしれないし、宇宙が崩壊するのが先かもしれない。

 そんな、最初から失敗している状況を周囲を巻き込んで発生させてしまうというのだ。


 ……割とソロ活動多かったけど、思えばやる気出して誰かと行動した時はそいつらの価値観軒並みぶっ壊してた気がする。

 オーガとかサキュバス、昔は人類と敵対している種族の代名詞だったがこいつらと人類の懸け橋になった奴らとも接触はあった。

 あれは、ともすれば最初から失敗だったという事なのか?


「なぁネモ、私の行動は最初から失敗であり、それが取り返しがつかない結果に至るってことだよな。じゃあ今の世界……サキュバスとかが人類と共存しているのは失敗ってことか?」


「少なくとも今の人類と、管理者ユキが介入しなかった世界の人類では文明レベルが300年ほど違います。しかしそれは地球という基準で見た場合であり、魔法や魔術という技術体系に関しては今の方が優れています。何をもって失敗とするか、というのが重要かと」


 ……なんだこのむなしさ。

 いや、別に文明レベルとかはどうでもいいんだ。

 ただ最初からお前は失敗していたと言われたような虚しさがなぁ……。


「ちなみに文明レベルが管理者ユキやアルファ転移前の地球と同等まで追いつき、管理者となる人物は数千を超えていました」


「あ、なら失敗でいいや」


 あれが量産されるとか最悪の構図だわ。

 ロボットアニメでこいつが量産されたら勝てるみたいなセリフあったけど、それに似たもの感じる。

 神とか管理者なんて呼ばれるようなのがポンポン生まれるような世界は会ったらダメだろ。

 というか管理者という立場になっても何も実感がわかないし、思う所もない。


「なぁ、その管理者と神ってイコールでいいのか?」


「はい、おおむねその通りです」


「私何も感じないがこれが普通か?」


「普通の定義にもよりますが、一般的には超常の力を手に入れた全能感により興奮を覚えるものだと思います。しかし前例は管理者レーナのみであり、彼女も立場に固執することは無かく魔王アルファの復活が可能となった事への喜びが勝っていました。現在も立場に固執していない様子です」


 なるほど、思わぬ情報が出て来たわ。

 レーナは立場上神だけど、神という立場に関しては副産物であってどうでもいいと。

 心酔ここに極まれりって感じだけどな。

 アルファに厳しい事言ったけどその執着とか心酔があったからこそのレーナか……割と綱渡りな事言ってたのか?


「さて管理者ユキに問います。あなたはここで何をしますか? 世界の崩壊を防ぐ、次元の穴を塞ぐ、勇者たちを元の世界に帰す、貴方の望みは全てか萎えられます。知識は宝ですが、ここの本命は別にあります」


「アカシックレコード気取りか?」


「そのものです」


 ……やべー所だった。

 アカシックレコード、まぁよくあるよ束無しの一つだけどこの世の全てが記録されている場所。

 まぁ実際間違っちゃいないんだろうけどさ、その見た目が図書館か……。


「さぁ、貴女の望みをここに刻んでください」


 ネモの無機質な声がその場に反響した。


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