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第70話

 宝物殿を出て数時間、私は神殿にいた。

 アルファにこの事を伝えるため……ではない。

 あいつの場合これ教えても大して意味ないだろうしなぁ。

 塔に直行しても良かったんだが、ネモ曰く時間があるなら他の神のダンジョンも行っておいた方がいいとの事だったので赴いたのだが……。


「こっちは普通に神殿なんだな」


 パルテノン神殿を彷彿とさせるデザインのダンジョンだった。

 周囲に人の気配は無し、アルファが突入前に野営した跡があるがそんなに時間は経っていないようだ。

 せいぜいが数日ってところだろう。


「管理者権限によりダンジョン踏破を目的として来訪した」


 ネモから言われたんだが、神のダンジョンを踏破する方法は二つ。

 まず自力での踏破だが、これができるのは闘技場と神殿くらいの物だとのこと。

 じゃあなんでその神殿で管理者権限なんて言葉を持ち出したかというと、これがもう一つの方法で私やレーナみたいに管理者となった存在はまともにダンジョンアタックができないという。

 どういうことかというと神が作った物って基本的に管理者にとってはノアの箱舟、システム的な言い方をするならデバックルームという事で権限を使って踏破を目的としていることを宣言しないと本来は到達できない裏に通されるとかなんとか。

 宝物殿でネモの言っていたアカシックレコードに何かを刻むための場所みたいなもんだな。

 こっちは私達管理者の記録とかを保管しているらしいが、表のダンジョンに関しては真っ当に魔法使い向けの物だと聞かされた。


 ちなみに宝物殿は最初から管理者権限前提で、私やレーナは異例だという。

 というより神との接触も無しに辿り着いたレーナが例外中の例外で、私はあの時浴びた膨大な威圧感の残り香もあって辿り着けたとか。

 近衛は精神的に耐えられなかっただろうから国に帰したと言われたけど納得したわ。

 自分たちが何度も死んでいたとか、そんな事実突き付けられたら発狂しかねない。

 私も少し気分悪くなったけど……まぁいい。

 書くことも書いたし、やることもやったからすっ飛んできた。

 あとは城は管理者じゃなければそもそも発見できず、たどり着くこともない。

 一方で塔は管理者じゃなければ扉を開ける事もできないとなっているらしいので順番的には闘技場か神殿をクリアしてこいって前提なんだろう。

 まぁ戦闘力あってこそというならその通りなのかもしれんけど……。


「おっと」


 神殿に入って少し進んだあたりでトラップが発動したのを感じた。

 物理的防御や会費が不可能なトラップであり、魔力で押しつぶそうとしてくるだけの単純なものだ。


「なるほど、これは魔法使いじゃないと無理だな」


 感覚的には吊り天上……こう、ゲームとかでよくあるじわじわと天井が降りてくるのとか、棘付きの天井がガシャーンって落ちてくるようなものを想像してくれればいい。

 あれと同じ理論だが全方位から相手を押しつぶそうとする魔力が襲い掛かってくるわけだが、魔法使いや魔術師はそもそもの魔力量が高い。

 生まれ持った素質とかそういう物ではなく、ジョブの恩恵だ。

 いうなればノービスの魔力って言うのは大小あれど使うのが上手いかどうかという程度の違いしかない。

 確かに極端に少ない奴もいるけど、それでも大抵の魔術なら一発くらいは行使できる。

 一方で魔術師や魔法使いのジョブについた際に受けられる恩恵の大半は魔力量と魔力操作補助の力だ。


 ジョブについたらそれだけで膨大な魔力が手に入るし、レベルが上がればどんどん伸びていく。

 外付けのシステムによって魔力タンクを得るという……なんて言うか外付けHDDみたいなもんだな。

 とにかく容量を増やして、できる事も増えるって言うのがジョブだと判明した。

 じゃあ司祭とかそういうのはどうなのかというと、あっちは回復関係こそ強いんだが攻撃力が低い。

 今回のトラップは身を守るだけじゃいずれ押しつぶされるので、破壊的手段でここを脱出するべきものだ。

 そういう意味では吊り天上というよりは無数の風船に囲まれて割っていかないといけない感じか?


「つってもこのくらいなら何とかなりそうなんだがなぁ……」


 風船と言ったが、本当に簡単な魔法が使えれば突破できるレベルだ。

 先生に教えたようなちょっとした攻撃魔法、それが使えるだけの魔力があれば問題なく対処できる。

 アルファならこの程度対処するまでもなく散歩感覚で進めるんじゃないかね。

 あいつ魔王の名に恥じない魔法耐性持ってるし、並大抵の魔法系攻撃は効かないから。

 魔術も結局魔法を形態化しただけだから同じだし、この手のトラップは基本的に無意味だろう。

 私自身も今じゃ管理者側だからこういうのほとんど効かないわけだが、いくらなんでも弱すぎる。

 二段階目の進化をしているからこそではなく、ノービスだった頃でも十分対処できそうだけど……エルフだからか?

 その辺は種族差になるわけだが、ぶっちゃけそこらのノービスでも対処法さえ分かっていればどうにかなりそうなもんなんだがな。


 と思っていたところで風船の圧力が増した。

 そしてさっきよりも硬くなった。

 あくまでも感覚的な物でしかないんだけど、風船からゴムボールくらいの硬さになった。

 これはさすがにノービスじゃ無理だ。

 もしかしたら進むたびに硬くなるのかもしれないな。


「でもこのペースでとなると……あぁ、いや、だからこそか」


 英雄なんて呼ばれるようなレベルの連中じゃないとクリアできない理由はそこにあったんだろう。

 魔法使い系列の中での英雄、それだけの魔力操作が可能になって初めてクリアできる仕組みなんだ。

 試しに下がってみると圧力と硬さが和らぐ。

 うん、なるほど、神殿ってのは外見だけじゃなかったんだな。

 無理さえしなければ死ぬことは無いって仕組みになっているらしい。


 あれだ、イカロスの神話。

 イカロスは太陽に近づきすぎて蝋の羽を溶かされ墜落したが、共に飛んでいた父は高く飛ばないように気を付けていたから墜落することは無かったってやつ。

 身の程を知れとでも言わんばかりの試練だが……その割には先に何も見えない。

 それこそ神の像でも置いてあれば別なんだがここもまた一本道で、先に何があるのかわからん。

 ただひたすら進むだけのダンジョンで罠というか、そういう仕組みがあるぞってだけの場所に見える。

 クリアはできるけど前提条件が多いって感じか?

 いうなればギミック型とでもいうべきなんだろうけど……お?


「おう、アルファ。どうしたこんな所で」


 少し進むとアルファが優雅にティータイムをしていた。

 ご丁寧にクロス付きのテーブルでお茶菓子まであったので、私も椅子を出して対面に座る。


「それはこっちの台詞だ。宝物殿はどうした」


「宝とか無かったよ。アカシックレコードだった。この世界の記録全部と、それを書き換える権限が得られるだけ」


「そうか……ここも大して面白い場所じゃなくてな。これから帰ろうと思っていたんだ」


「ってことはゴールは目前か?」


「あと100mってところだな。しかし管理者にアカシックレコードに……俺はファンタジーの世界に来たと思っていたんだがなぁ」


「私もだよ。でも結局どの世界も同じような感覚なんじゃないか?」


「そうでもないらしいぞ。進めばわかるから先に言っておくが、この神殿は他の世界を覗き見るための場所だ。それこそ神としてまつられる存在があるならどこでも見ることができるが、そのうちいくつかは閲覧不可能になっていた」


「ほう? もう滅びたとかじゃなくてか?」


「滅びた世界はリストから消えるらしい。つまり管理者の手から離れた世界ってやつだ。そうなると手出しできなくなるって話だ」


「そうなのか……ならこの世界はまだまだ管理下から逃れられないだろうな」


 私達が神を名乗った事、それによりこの手の神のダンジョンに挑むことになったわけだが、皮肉にもそれが原因でこの世界は神の管理下にあり続ける原因となってしまったわけだ。

 ……負の器の真骨頂ってやつか?


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