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第74話

 その後は防寒防風の魔道具を思い出して身につけたことで寒さも風も対処できた。

 アクセサリー型だから邪魔にならないんだけど……なんでもっと早く気付かなかったかな。

 ただそれはそれとして手すりの無い階段だし、ちょっとバランス崩しただけで真っ逆さま。

 最悪の場合このクッソ長い階段を転げ落ちる事になるので未だに這いずっているけどな!

 くそっ、神のダンジョン考えた馬鹿は絶対にぶん殴る!


 そう決心しながら雲に突入して数分。

 雷雨に見舞われながら到達した空の上にある陸地はぱっと見楽園のように見えた。

 生い茂る木々に草花、よくわからないがモダンな素材で作られたアーチに石畳。

 その奥には立派な西洋風のお城が建っている。

 リリの城も結構凄かったけど、これはそれ以上だ。

 ざっくり見ただけでも数十倍はある。

 ……ただ、立派なのは本当に見た目だけとも言える。

 凄く明るくて太陽があるように見えるし、草花もそよ風に揺られているように見える。

 見えるだけなのだ。


 実際は乱気流のど真ん中にあるわけで、そこに立っている私は魔道具がなければ吹き飛ばされていたであろう風と、それにより魔力がゴリゴリ削られていく魔道具への魔力補充が欠かせない。

 つまり生物お断りな環境なのだ。


「マジでこのダンジョン考えた奴馬鹿じゃねえのかな」


 防寒具の上から腕をさすりつつ、城を目指して歩いていく。

 たまに珍しい薬草を見かけるがスルー。

 正直そんなものより、今はとっととここを踏破してしまいたい。

 あとついでにレーナを問い詰めようと決心していたのだが……。


「お待ちしておりましたユキ様」


「……よう、レーナ」


「何をおっしゃりたいかは理解しているつもりです。どうぞ中へ」


「そうさせてもらおうか」


 言われるがまま城に入る。

 罠の警戒もしていたが、殺すつもりなら最初からそうしていただろう。

 それに勝てない相手だとしても私に化けられるアルファがいる。

 今この状況の記憶を読み取れるかは知らんが、推測くらいはできるだろう。

 そもそも城にレーナがいる事も、私がそこに向かった事も知っているのだから私が返らなければレーナが犯人で確定してしまうのだから。


 ……まぁ、あの階段から落ちなかったらという前提があるけどな。

 あいつも管理者になったのなら城にはいつでも来られるわけだし。


「勝手知ったるって感じだな」


「えぇ、理由はいくつかありますが……私がここの管理者を兼任しているからというのが一番ですね」


 迷いなくだだっ広い城の中を進んでいくレーナを見て簡単な質問をしたら驚くべき答えが返ってきた。

 こいつ、城の管理者をしていると言っているのか。

 兼任ってことは……あぁ、いや、こっちが副業で本業はアルファの側近か。


「こんなに忠義に厚い娘に慕われてあいつも果報者だな」


「お褒めにあずかり感謝いたします」


 ……皮肉が通用しない相手って辛いよね。


「こちら、談話室です。何かお召し上がりになりますか?」


「せっかくだ、特上のブランデーと神戸牛のステーキでも貰おうか」


「かしこまりました」


 無理難題を吹っかけたつもりだったが、レーナの指パッチンでテーブルの上に熱々のステーキが乗った皿が現れた。

 ブランデーも一級品……これ普通に買ったら3桁万円行くんじゃないかって物体だ。

 当然前世でも飲んだことは無い。

 そもそもこの世界にブランデーは流通していないし、神戸牛どころか牛と言えばミノタウロスと呼ばれる種族だ。

 一部人類と共存しているが、大半が敵対種としてみなされており、一部は魔族と仲がいい奴ら。

 戦闘民族であり、人間社会で暮らしている連中も軒並み傭兵や兵士といった戦闘がメインの仕事についている。

 たまーに温厚なやつもいるが、生まれつき腕力に極振りしたような種族なので土木作業に従事していたりと力仕事全般を請け負っていることが多いんだが……。


「異世界の物も平然と取り寄せられるんだな」


「へそ曲がりのヘンドリックから情報を与えられていると思いますが、この城は世界に影響を及ぼす事が出来ます。それは思考のみならず、既存の動植物以外にも新たな種を生み出す事も可能。ならば異世界で改良が加えられ続けた種の加工品くらいなら呼び出すのも簡単です」


「……なるほど?」


 想像以上に世界に対しての影響力が強い場所らしい。


「ちなみに私がここに来ると言った理由はそれにあります。アルファ様が懸念していた世界の安定ですが、確かに管理者が増えたことで危険水準に達していました。誰かがこの場で安定させ続けなければ塔を攻略する前に世界が崩壊していた可能性が大きいので」


「ってことはなにか? 私やアルファが神のダンジョンを攻略するのは決まってたと?」


「管理者権限でお二人の思考を誘導させていただいたこと、深くお詫び申し上げます。しかしこれが最上の方法であってと考えております故」


「最上ね……最良ではないのか?」


「残念ながら最良の方法という物は今回の場合存在しません。相手が神である以上、私程度ではできる事が限られております。そのため偽り、操り、こうして直にお詫びさせていただく形に持っていくのが最上でした」


「それにしたってアルファまで騙して操るのはどうかと思うぞ。あれでもお前が好いた男だろ?」


「……どうなんでしょう」


 レーナの表情に陰りが見える。

 ……いや、けどそれよりこのステーキ美味いな。

 ブランデーも美味いが、赤ワインが欲しくなる。


「なんか深刻そうな顔してるところ悪いけどステーキお替り。あと赤ワイン頼むわ。せっかくだからアレ飲んでみたい、シャトーペトリュス」


「かしこまりました」


 再びの指パッチン。

 そして今度はステーキ単体ではなく、ステーキ丼が出てきた。

 気が利いているな、この万能メイド。


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