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第76話

 そこから魔法を中心とした訓練が始まった。

 ……思えばこの手の訓練するのって何年ぶりだ?

 産まれて10年くらいは自分の身体の使い方覚えるための訓練で、里を飛び出したのが15の時だったはずだ。

 それまでは弓と魔法と、あとハイエルフとしては珍しいと言われたけど徒手空拳とナイフの扱い方覚えたな。

 サバイバル知識なんかは前世じゃ持ってなかったけどエルフ生活続けてたら勝手に覚えた。

 技術チートみたいなのもできそうなものはあったけどなるべく目立たないように自重してたから、里での評価は「ハイエルフとして生まれたのに跳ねっかえりのおてんば娘」という扱いだったと思う。


 で、里を抜け出してからは……あぁ、そうだ。

 ジョブを得て自分のジョブを理解するのに半世紀くらいかかった。

 そっから勇者をはじめとしたユニークジョブの連中を究明したら私最強じゃね? という若気の至りでユニークジョブ中心に調べたけど、基礎知識が無いから無理だという事に気付くのに10年。

 一般的なジョブを究明するのに数十年かけて、そんで勇者と一緒に魔王討伐に出たんだったか。

 それからはしばらく魔術体系の構築とかに奔走してたからまともな鍛錬って言うのは400年ぶりか?


「ほら、魔力の放出量が乱れてますよ!」


 バコーンと後頭部に魔力弾が直撃する。

 レーナ直々のレッスンなのだが、地面に立てた丸太の上で片足立ちしながら魔力放出量を一定におさえるという訓練だ。

 どこかカンフー映画じみているのは……たぶんアルファの影響なんだろうな。


「いてえよ」


「痛くしたんです。貴女なら身体で覚えろというでしょう?」


 ……まぁ、確かにそういうもんだと思っているから受け入れているんだけどさ。

 外観重視で突風と冷気とめっちゃ薄い酸素という城の庭先で姿勢維持するってだけでも苦労するのに魔力放出も一定にって言われたら……うん、滅茶苦茶難しい。

 しかも飛んでくるお仕置き魔力弾の威力が常人ならその一撃で頭部破裂するだろうなって威力している。

 最初のうちはそれをくらって地面に落下、追い打ちの二発目が飛んできたりもした。

 私が立っている丸太も曲者で、魔力放出が多すぎたりするとそれに耐えきれず爆散する。

 踏ん張るにも力入れすぎると足の握力で握り潰してしまうほど脆い。

 どっからこんなもんを……と思ったけど、異世界から調達しているみたいだ。

 便利だなぁ、城……。


「姿勢維持の方は安定してきましたね」


「そっちはまぁ、身体を動かすのは慣れてるから」


 フィールドワークとかは身体が資本だからな。

 ドラゴンの卵盗み出しつつ、親ドラゴンには一切危害を加えないようにとかそういうミッションもあったし。

 特定の地域に咲いている花を摘んでくるとか、海底での鉱石採掘なんかもやらされたからハイエルフの中じゃ一番動けるんじゃないかね。

 というか他のハイエルフはほとんど知らないが、長命種の中でも長く生きた連中は大樹のような生活を送っている。

 起きる、食べる、寝る、基本この繰り返しを人間とは比べ物にならない長いスパンで行っているのだ


 ちょっと昼寝するから半年くらい起こさないでねー、なんてのはよくある事。

 黒龍王なんかは私と同じくいろんなものに興味を持つ性質があるから人間界飛び回ってるけど、他の龍王を訪ねたら眷属の方から「すんません、うちの王様この前冬眠しちゃって」とか言われることも珍しくない。

 そしてこの眷属連中も大抵長命種なのでこの前が半世紀前とか普通にある。

 未だに会えてない龍王もいるが、そいつらは私が生まれる前から今まで寝てたためお目通りがかなわなかった。


「ふむふむ、では姿勢維持の難易度をあげます」


「は?」


「さっきまでより細い丸太です」


 よかった、この程度ならまだ何とかなる。

 今まで乗っていたのが一抱えくらいの丸太だが、新しく出てきたのはその半分くらい。

 それでも子供の遊具として公園に埋められている奴くらいの足場だ。


「で、この上で御手玉してもらいます」


「馬鹿じゃねえの?」


「魔力操作の方も同時に進められるよう、設定以上の魔力に触れると爆発するボールを用意しました」


「ねぇマジで馬鹿じゃねえの? この突風の中で御手玉とか無理だからな?」


「つべこべ言わずどうぞ」


 大量の魔力弾、当たっても死なないが滅茶苦茶痛いのがずらりを並んでいるのを見て挙手する。


「このボール、どのくらいの魔力までなら耐えられるんだ?」


「そうですね、このくらいですよ」


 ふっと魔力弾を消して、私の近くで手のひらから魔力を放出してみせる。

 低級と中級の間の魔法が一発撃てるかどうかという量だが……そういう事か。

 レーナの意図を理解して丸太の上に立ち、最小限の魔力でボールを浮かせようとして爆発させてしまった。


「はい、正解です。まずは浮かせられるようになるまで頑張りましょうね?」


 お手玉をしろというのはあくまでも訓練の一環として。

 実際に私がジャグリングする必要はなく、魔法としてボールが動いている状況を作り出せばいい。

 ただ……これめっちゃ難易度高いぞ!

 管理者になる前は完璧な魔力操作で来ていたと自信を持って言えるが、その時でも苦戦するくらいには難しい。

 世界中探してもこれができるのは片手で足りるだろう。


「ちなみにアルファ様は難なくこなせますよ。管理者になった今も魔力操作を失敗することは無いはずです」


「……そうかい」


 レーナはあれから少し変わった。

 というか吹っ切れた。

 使い分けていたアルファの呼び方、それが名前呼びに統一された。

 つまりスワンプマンだろうがなんだろうが、レーナが一緒にいるのはアルファという個体であり過去自分を助けてくれて慕った相手となんの違いもなく、そして魔王として死んだ過去のアルファも今のアルファもまとめて愛すると決意したらしい。


「どのみちこれからの戦いには必要だろうしなぁ。百発百中でできるようになってやるよ!」


 こうなったらヤケ糞だ。

 どうせ本気の一発を撃つ場合も術式の中に自分や仲間を巻き込まないようにするようなもんを組み込まないといけない。

 逆に世界の方かい防ぐために最小限の魔力放出状態で過ごす必要が出てくる場面も多い。

 そうなってくるとこの程度できなければ足手まといになってしまうだろう。

 結果的にあの神をぶん殴ることもできず、しかも世界リセットの引き金になりかねないとなれば……ねぇ?

 それに地球の人類も8割消さなきゃいけない状況とかになったら、それは私の家族や友人も含まれることになるだろう。

 それだけはなんとしても阻止したい。

 だから、今こそ本気でこの訓練をやり遂げなければいけないんだ!


「ちなみにこれは入門編ですので」


 ……やり遂げなければいけないんだよなぁ。


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