魔法の世界には並列魔法や並列展開と言ったものがある。
名前の通り、複数の魔法を同時に発動する者なのだが……。
「ほらほら、ちゃんと迎撃もしないと痛いですよ?」
「このどSメイド!」
修行が一層厳しくなった。
お手玉は割と早い段階でクリアできたのだが、その後に続いたのがレーナからの魔法を迎撃なり回避なりしつつボールの数を増やしていく物である。
今は10個を手元でなくてもいいから回転させろという事なので、フラフープのように回しているのだが……ボールに当たらなければ私に当たるというコースを選択している。
腰回りというだけでなく、どこでお手玉していようと当たるようになっているのだ。
そして丸太だった足場は既に棒きれのような細さになっており、ほぼつま先立ちである。
身体能力だけで回避しようとすると足場が壊れるような脆さというのも相変わらずであり、どうやっても魔法を使うしかない。
結果的にお手玉と防風、そして迎撃の魔法を並列展開しなければいけないのだ。
……丸太くらいあればいいんだけど、棒きれくらいの細さになってくると突風のせいで簡単にバランス崩すんだよ。
「悪態つけるだけの余裕があるなら問題なさそうですね。ボール追加です」
そう言って投げよこされた5個のボール。
「ちくしょう!」
もともとお手玉とかできないので、魔法で受け止めてジャグリング。
「あ、それと足場削りますね」
「ざっけんなお前!」
「大丈夫ですよ、ちょっと先端とがるだけですから」
そういうが早いか、棒きれの先端が鋭く加工されていく。
……これ魔法じゃないな、どちらかというとスキルだ。
じゃなくて!
「おいこれ……」
「えぇ、体重移動間違えたらザクリ。力配分間違えたらバキンです」
だよねぇ!
今までの傾向から察していたけどさぁ!
「ちなみに魔王城で働いている使用人は全員これをこなせます。ボールも30個が最低条件ですね」
「化け物の巣窟かよ!」
「そうですよ?」
そうですね!
魔王の城だもんね!
「私をはじめとした古い魔族は皆100個はできます。ユキ様には最低でもそのくらいはできるようになっていただきたいと思っておりますが問題でも?」
「……大ありだね」
「と、申しますと?」
「古い魔族なら100? こちとら神の所に殴り込みに行くんだ! その程度で満足できるか! 1000個くらいできるようになってやるわ! 志が低い! だからアルファが本物かどうかで迷うしやる事なす事中途半端! 常に高みを! 限界を超えた先を見ろ!」
「………………なるほど」
レーナが静かになる。
この際だから思ってたことぶちまけたのはついでだけど、実際細かな調整ができなきゃ意味がないってのは同じ事。
これ実際ボールの数が一つ増えるだけで計算内容を変えなきゃいけないからすっげぇ大変なんだけどさ、100と1000と、今やっている15くらいじゃ天と地どころかミジンコと太陽くらいの差があるだろう。
でもそのくらい出来なきゃ意味がないんだ。
「おっしゃる通りです。以前共依存と言われた時、私は怒ると同時に図星を突かれたように冷や汗が止まりませんでした」
あぁ、神との対面の時の……表情からは見えなかったけど……。
「その時何があったかわからない感情を全て怒りに変えていましたが、これは自分への怒りもあったのかもしれません。八つ当たりになってしまった事お詫びします」
「いや別にどうでもいいんだが」
あの、ポンポンとボール増やすのやめてくれるか?
「これよりユキ様を第二の主人として崇め、全力でサポートさせていただきます」
「どうしてそうなる!」
「私を教え導いていただける方は全て主です。ですが今まで心からそう思える相手はアルファ様だけでした。しかしユキ様はアルファ様とは違う視点から私の弱い点を教えてくれた。これは主人と認めざるを得ません」
「だったらその主人に向かって魔法ぶっぱなしながらボール増やしていくのどうなのかなぁ!?」
「愛の鞭というものです。それに1000個というアルファ様でも難しい領域に挑戦するというのであれば、今の調子では時間が足りませんからね」
「その通りですねぇ!」
たしかに少しずつボールを増やしていく形式だと時間が足りない。
だからと言ってこの短期間でポンポン増やすのは無茶だと思うんだよね!
今27個、28個目になるとジャグリングだけならできるけど魔法の迎撃が困難になる。
そして29個となると……。
「あ……」
魔力操作をミスってボールの一つが爆発した。
大した威力じゃないけどそれなりに痛い。
……30の壁、とでも言っておこうか。
「もう一回だオラァ!」
「素敵ですユキ様。では30個から」
……あれぇ? なんか増えてるぞぉ?