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第81話

「んでー? 結局のところレーナとアルファはどこまで行ったんよ。子供とかどうしてるん?」


「私達の子は男の子二人と女の子一人で、みんなやんちゃ盛りでしたね。男の子はベータとガンマ、女の子はユーカと名付けたのですが魔族領もその頃は比較的安定していたので諸国漫遊の旅に出てそれっきりです」


「んんー? 生きてるのかー? それー」


「生きてますよ? 毎年手紙届いてますし、人間と結婚して子供が生まれたりもしたみたいです。ひ孫くらいになるともう人間として生活していて私達との接点は無くなりましたが、子供達は元気に方々を遊び歩いていますね」


「ほへー、じゃあどっかで会ったかもなぁ」


 いやぁ、温泉+酒という最高の組み合わせ。

 これが酔わずにいられるかってんだ!


「会ってるみたいですよ。200年前くらいに西方の大陸で国家転覆に関わったとか、後孫が世話になったと聞いてます」


「200年? ……あー、あの時かぁ。けど孫ぉ?」


 その頃はちょうど選民思想の国家をぶっ潰したばかりで、私が手配犯になった時だ。

 で、ダンジョンの周りにいろんな国や種族でお尋ね者になった連中集めて犯罪者ギルド作った時だから……創立メンバーの誰かかな。

 だとしたら奇縁もいい所だ。

 しかし孫の方はわからんなぁ。


「聞くに、ユキ様から魔法と魔術、それから体捌きの手ほどきを受けたとか」


「……え?」


 何その弟子みたいな扱い。

 そんなん2人しかしてないけど?


「正式に弟子に認められたと悦びの手紙が届いてこちらは驚きましたよ。その頃既にアルファ様とユキ様は戦っていたので、そんな相手に弟子入りしたのかって」


 酔いが一気にさめていくのを感じる。

 アルコールが冷や汗になって流れていくようだ。


「ただ、おかげでユキ様の情報もいろいろ集まりましたけどね。人間にとっても国を纏める力になり、魔族にとってもユキ様の情報を得られて双方が得をしました」


「……あの、その孫って」


「名はユーキと言います。ユーカの息子ですね」


「やっぱりあいつかぁ!」


 ばしゃんとお湯に顔面を突っ込む。

 さすがエリクサー並みの温泉、酔いが完全に覚めた。


「まぁまさか普通の人間を血が薄れたとはいえ魔族の孫と同等の強さまで鍛えるとは思っていませんでしたが、それだけ画期的な修行だったのでしょう。あの子がたまに殺されるという内容の手紙を送ってきましたから」


「……なぁ、ユーキは長命種なのか? まだ生きているのか?」


「さぁ? 国を発展させた後から連絡が途絶えてますから」


「……薄情だな」


「いえ、放任主義なだけですよ。既に人間社会の半数近くに魔族の血が流れてますし、サキュバスをはじめとした種族が潜り込んでいるのでやろうと思えば経済物理両方から国落としもできる手はずになっています」


 だから心配する必要はないし、魔族の家族観というのは人間とは少し違うという。

 もともと身寄りのない連中がアルファの下に集まったため、魔族は全員家族だけどいつ死に別れるかもわからないという戦士のような考えがあるらしい。

 ……たまーに薩摩武士かなってやつも出てくるしな、魔族って。


「あ、あと養子のお嬢さんですが彼女は亡くなられています。霊廟に安置されているという事ですので、たぶんユーキもそこにいるんじゃないかなと」


「墓守か……まぁあいつの性格ならそのくらいはするかもな」


 諸々片付いたらリリに頼んで霊廟に入れてもらおう。

 もしかしたら感動の御対面が私という師匠、レーナとアルファという祖父母とで二連発になるかもしれん。

 死んでたらそれはそれで弔ってやりたいし、いなかったら神殿や宝物殿の力で探し出してもいいかもな。


「しかしユキ様の特訓は私達から見ても苛烈と言いますか……」


「はっきり言っていいぞ、乱暴だったと。お孫さんとは知らず、失礼したな」


「知っていたらもっと凄い事してたでしょう?」


 否定はしない。

 当時は魔族と面識を持つのも珍しかったから限界ギリギリまでしごいたかもしれん。

 研究目的でちょっと血を分けて貰ったり、もしかしたら婚姻相手が養子じゃなくて私になっていて子供もいたかもしれんレベルだ。

 そのくらい興味をひかれそうな内容だが、レーナやアルファの家族になるというのを考えると普通にマイナスだから事情を知っていたらどうやってもそのルートは無かったな。


「まぁあの子はあの子でユキさんの事を憎からず思っていたみたいですし、養子のお嬢さんの方が仲良くなれたからそちらとくっついて結果オーライという状況みたいですけどね」


「そうか、まぁ嫌われてないなら何よりだ」


「いえ、結構愚痴もあったので憎からずは思っていたけれど嫌っていた面もあったみたいですよ。脱いだ下着をそのままにして目の毒だとか、三日に一度は家が半壊するような爆発を起こすとか、結構色々書かれてました」


「……若気の至りってことで」


「そうですね、ですがあまり良い事とも言えないのでユキ様にもその辺りを理解していただく必要があるかなと」


 …………凄く嫌な予感がする。


「ではこれより訓練を開始します! このお湯はエリクサーと同等の効能、そしてそれに応じた魔力を持っています! このお湯は魔力がみなぎっていてこれ以上は入り込めないほどですが、これを使ってお手玉をしてもらいます」


「待て待て!」


「大丈夫、慣れたらできますよ。のぼせる前にチャレンジです!」


 突如始まった訓練。

 既にだいぶ体が温まっている今、あと10分も浸かっていたらのぼせるであろうことは確定している。


「さ、どうぞ。私は長風呂には慣れていますから。それはもうアルファ様との混浴ともなれば数時間んは……」


「ふんぬー!」


 のろけ話に花が咲く前にお湯に魔力を通そうとして弾かれる。

 ……なんか、めっちゃ魔力の出力あがってるんだけどこれも魔族化が原因か?


「あ、オリジンエルフになったことで魔力の出力も跳ね上がってますし、魔力そのものも無尽蔵。そもそもこのお風呂に入ってる時点で常人でも常に魔力が供給されているような状態なので魔力切れの心配は無いのでいくらでもどうぞ」


「やはりどSメイドじゃねえかこの野郎!」


 数時間後、のぼせ上った頭で魔力を流すのではなく、魔力でお湯を包み込むという発想に至るまで死にかけながらもお手玉を作る事が出来た。

 修行完了まで? 三日間風呂で生活する羽目になったよ糞が!


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