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第82話

「では最終試験です。これに合格したら闘技場に向かってもらいます」


 レーナの言葉に小さく頷く。

 いつもの修行、しかしそれはだいぶ様変わりした。

 最初は丸太だった足場は既に一本の細い草である。

 当然私程度の体重でも簡単にしなって地面につくわけだが、この草に魔力を流す事で硬貨させつつ私自身の身体を風と重力の魔法で支えて、炎と氷の魔法で体温調整をする。

 その状態でお手玉をするのだが、ボールの代わりに例のエリクサー温泉を使った物だ。

 わざわざホースを持ってきて私に向けて放水する形になるのだが、その水を均一のサイズで、なおかつ私の周りを回転させるという内容である。


「ではいきます」


 放水が始まると同時に風と重力と水の魔法を追加で展開する。

 あのお湯は魔力を通す隙間がないほど、もう魔力を液体化させたと言ってもいいような物体だがそいつが持つ魔力そのものを操作できれば魔法として使えることが分かった。

 レーナ曰く、原初の魔導と呼ばれる使い方らしい。

 使えるのは最低でも管理者レベル、むしろこれが使えてはじめて管理者として認められる段階に来ると言う。

 そもそもの魔法が魔力の法則を意味し、それを術式化することで魔術と呼ばれる。

 そして魔導は魔力で導くという意味であり、使い方によっては生物すら一瞬で別物に変えてしまえるという話で、これが魔族誕生の発端でもあるとかなんとか。


「998、999、1000、おめでとうございます。完璧です」


「いや、まだいける」


 目標の1000個お手玉はできた。

 けれどまだまだだとわかる。

 剣のように尖っていた草から魔力を抜き、身体を浮かび上がらせて空気を圧縮固定、足場を作りその上で水球を増やしていく。

 角度を変え、距離を変え、最後は城を囲む量を回転させた。

 ただくるくると周囲を回らせるだけでは芸が無いので一つ一つに回転を加える。

 すべて別方向に向けた物で、同じ方向を向いて回る玉はない。


「……感服しました。お見事というほかありません」


「ふぅ、とりあえず形にはなったか」


「形になったどころかほとんど完成系です。これならあるいは……」


「神を殺せるってか? まだまだだと思うんだがな」


「えぇ、現状ではまだ可能性の段階です。ですがこの状態で闘技場を攻略できれば可能性は格段に上がります」


「そんなに重要か? あそこは世界の安定のための場所で力試しじゃないだろ」


「いいえ、その両方です。世界にささげるだけの力量があるかどうかも重要なのですから。雑多な力を取り込んでも逆効果ですし」


 なるほど、選別ってやつか。

 ってことは死んでも普通に死ななかったことになって出てくるようなのもいるのかもな。


「ユキ様の場合三度戦いを行う事になるでしょう。そしてそれは、どれも想像を絶する強さだと考えてください」


「そりゃまた……今の私でもきついのか?」


「魔力のコントロールは完璧ですが、それだけでどうにかなる相手ではありません。その事だけ覚えておいてください」


「ふむ……」


「ヒントを出すなら、ユキ様のジョブについてもう一度見直してみるといいですよ。普通のユニークジョブと、王のジョブ、神のジョブ、どれも変化が大きいですから」


 そういえばジョブに関して考えてなかったな。


「神が与えたジョブだろ? そんなん神相手に使えるのか?」


「神が与えたのではありません。神が作った世界が与えた物です。つまりは神にとってもジョブというシステムは手を出せないのですよ」


 えーと、つまりあれか。

 ゲームを作ったはいいが、そのシステムに干渉はできてもシステムが作り出した副産物……例えるならレベルとか、ステータスとかそういう物を消し去るような事はできないってことか。

 改変はできる可能性が高いけどなぁ。

 いや、だとしたらなおさらジョブは重要かもしれん。

 ここに来て考える事増えてきたな。


「ちなみに闘技場の方は既に予約を入れてあります。勇者も、アルファ様も同じタイミングで挑むことになりますので顔を隠すなり偽名を使うなりした方がいいかもしれませんね」


「……城の機能フル活用だな」


「時間が惜しいですからね。あと闘技場をクリアして神のジョブに至ったら城に来るようお伝え願います。特にアルファ様はその辺雑ですし、勇者はそれに輪をかけて適当な事しそうですから」


 ……あいつらなら何も考えずドカーンとかやりそうだしなぁ。


「受けたまわった。じゃあ行ってくる」


「はい、お気をつけて。と言いましても今のユキ様が世界の養分になれば向こう数千年は安泰となりますから、どちらにせよ損はありませんけどね」


「そういうのは分かってても口に出すなよ……孫の事、まだ怒ってるのか?」


「いえいえいえいえ、そんなことはありませんよ?」


「嘘つけ。まったく……諸々終わったら探し出しに行くから手伝えよ」


「はい!」


 会って初めてかもしれない、そんな眩しい笑顔を見ながら城の淵から飛び降りる。

 あの長い階段をわざわざ降りる必要もなし、かといってここじゃドライブは使えない。

 だったら飛び降りて、魔法で飛んだ方が手っ取り早い。

 何より今ならドライブを使うより早く飛べそうだしな。


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